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父と母

 帰り道。

 アルバイト先の喫茶店へむかう近道、大学のとなりの公園のわき、親水池のまわりを、ぐるっとかこむように、手すりと木の板でできた遊歩道。

 手すりに体重をかけるようにして、男女のこどもがふたりずつ。

 なにか話している。

「ラナー見たー?」

 おもわず、足を止める。

『機甲戦士ラナー』。

 裕太が毎週楽しみにしている番組である。大学があるので、本放送では見ることができないが、人気番組なので別の曜日に再放送がある。

 本放送はきのうの午前中。裕太は、明日の再放送を楽しみにしていた。

「みた!」

「ラナー、かっけーよな」

「でも負けたじゃん、」


 ━━負けた!?


 ラナーは、まだ負けたことがない。先週は、敵組織の幹部と対決するところで終わったはずだ。

 再放送を見ればわかることだが、とにかく気になる。

「……あれ、ルナでしょ?」

「しーらない。死んだじゃんか」

 裕太は、きょろきょろとあたりを見回して、子供たちのうしろについた。

 なるべく静かに、聞き耳をたてる。 



「……ちょっと」

 ぽん、と肩をたたかれた。反射的に目をあけて、ふりむく。

 警察官。若い男と、年かさの男のふたり。若い男は、不信感をあらわにしてこちらを睨みつけている。裕太より少し年上なくらいだが、体格はぜんぜん違う。

「え、」

「ちょっと、何してるのか教えてもらえるかな。……この子たちと、知り合いじゃないよね」

 言い方はやわらかいが、口調は強い。

 年かさの白髪の男は、後ろで目を細めているばかりだ。

「いえ……、ええと」

 まわりを見る。

 いつのまにか、子供たちはちょっと離れたところで、こちらをみている。

 幾人かの大人が、それからさらに遠巻きにして、遊歩道のむこうから。

「ちょっと、一緒に来てもらえる。子供たちとは、別に事情をきくから━━」

「あ、いえ、……そういうんじゃ、ないんです。」

「とにかく、」

 若い警察官が、ぎゅっと眉根をよせて。

「一緒に来て。通報があったから。わかるよね」

 そう、いった。



 ようやく、パトカーは帰っていった。

 午後五時。もう、一時間ちかく経っている。

 あわてて、遊歩道のわきにある公衆電話にとびつき、テレホンカードを入れる。アルバイト先の喫茶店へ。

「はい、喫茶『ヤマギ』」

 店長の声だった。裕太はおずおずと、

「……すみません、如月です」

「わるいけど、」

 相手の声が冷えるのがわかった。

「もう、こなくていいから。意味、わかるよね」

「え、」

「接客のことで何回か苦情がきてたの、言ってあったよね。今度何かあったら、悪いけどやめてもらうって、先週話したでしょう。それに━━」

「それに……?」

「君、なにしてたの? キヌタニさんが見てたよ。警察ざたになったんだってね。言われたとき、僕がどんなに恥ずかしかったか、わかるか」

 とにかく、頭をさげるしかなかった。

「……すみません。」

「とにかく、もう来なくていいから。今月分のお金は、振り込んでおく。いいね」

 はい、とちいさくうなずいて、受話器をおいた。脂汗がふきでていた。

 ともかく、これで休みをもらう必要はなくなった。ぼんやりと、そう思う。



 夜になり、実家へ電話をした。

 召喚通知がきたことをつげると、母は大儀そうに嘆息した。

『……お父さんも、面倒なことを。』

 母の父、つまり、裕太の祖父のことだ。

「どういうこと?」

『お父さんが亡くなる前、あなたを盟約の継承者として指名したの。わたしは、前々から拒否してたから。あなたには言ってあったとおもったけど』

「そう……だっけ。」

『なあに、頼りないね。大学に届けはもう出したの?』

「え、なんの」

『なんのって……届けないと、無断欠席になるでしょ。知らないの? アルバイト先にも、ちゃんと事情を言っておくのよ』

 たよりないな、とかさねて言いたげに、母は嘆息した。

「……あした、出すよ。」

 そう、いって、話題をそらした。ちゃんと大人らしくしなさいよ、と母はいった。

 アルバイトをくびになったことは、言い出せなかった。


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