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「……ですから、次回までにこの本を読んで、レポートを書いておくように。欠席者には、誰かが伝えてあげて下さい。今期の単位は、……」

 社会学入門。教養課程で興味本位でとっただけだから、あまり真面目に受ける気はない。それでも、一応ノートはとる。

 黒板に記されている、書名と出版社名をメモしながら、ふと、手がとまる。

 目線が、なんとなく黒板からはなれる。

 いつのまにか、少し違うところを鉛筆が動いていた。


 女の顔。

 いや、女ではない。ロガー人に性別はないからだ。しかし、地球人の女に似ている。

 ただ、すきとおった青い肌と、二本の大きな角、それから額に大きなくぼみ。

 あとは、人間と同じだ。大きな二重の目に長いまつげ、小さな唇。

 故郷をはなれて火星に流れついた、異星人。


 もちろん、そっくりには描けない。

 絵をちゃんと描いたことなんかないのだ。

 とにかく、目から描きはじめる。輪郭、鼻、口、角……

 首から上ができたところで、ふと、隣からの目線に気づく。


 隣にいるのは、景。木下景。


 あわてて、落書きを消す。

 なぜだかわからないが、そうした。



 景は、うつくしい女である。

 たぶん、だれもがそういうはずだ。はっきりと聞いたことはないが。

 背が高すぎるという者もいる。裕太はあまり気にしたことはないが、向かいあうと、自分より10センチは高い目線に、とまどうこともある。そのせいかどうか、ヒールのある靴をはいているのを見たことがない。

 きれいな黒髪を、いつもはそのまま垂らしているが、絵をかくときだけは縛る。絵筆を握るところを何度か見たが、とても真剣な目をしていた。

 それから、きれいな爪。


 それから──


「また、ぼうっとして」

 景はもう立ち上がっていた。

「ごめん、」

 謝って、ノートと筆記用具を鞄につめこむ。

 もう、と小さくつぶやいて、景はそっぽをむいた。

 一緒に、講義室をでる。なんとなく気ぶっせいになって、裕太は口をひらいた。

「……あのさ、」

「ん?」

「曇天国に……、いや、」

 なんとなく気後れして、口ごもる。

「どうしたの?」

「……曇天国って、どう思う?」

「どう思う、ったって」

 ヘンな言い方をしてしまった。景は歩きながらこちらをむいて、ぱちくりと目をしばたかせた。

「おとぎ話しみたいなモンでしょ。親戚が尾張にいるから、トンネルは見たことあるけど、あんなの━━」

「見たの!?」

「子供のころ、ちょっとだけね。……どうして、そんなこときくの?」

「あ、いや……」

 どう話したものか迷っているうちに、景はなにか早合点したようで、

「……また、夢みたいなこと考えてるんでしょ。曇天国のことなんて、私たちには関係ないでしょう。もうちょっと大人になりなさいよ」

 そっけなく、そう、言われてしまう。

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