07:さらば信ぜしオッサン
例によってどうしてこうなった回…
『いらねぇぇぇぇぇぇ!!!』
厳かな雰囲気の神殿に俺の叫びが響いている。いや、実際は頭の中で叫んでるわけだから外には響いていないんだが、今はそんな事はどうでも良い。
スキルの存在を知り、神殿に来たまでは良かった。儀式で女神の声が聞こえたときには正直勝ったと思ったぜ。なんせ俺にしか聞こえない声だ。しかも相手は女神。もう運命が約束されたとしか思えない展開だ。そう思うだろう?
だが現実はそう甘くは無かった。全能やら全てを見通すやら言われて崇められている女神はちょっと…いや、かなり性格に難のある駄目神だったんだ。威厳も無けりゃ尊敬もできない、おまけにすぐ自己嫌悪に陥るかと思えば、酷く拗らせた恋愛脳と来たもんだ。
なんで神様連中の恋愛話や愚痴を聞かされなきゃなんねーんだよ。何とか話をぶった切って俺のスキルについて聞いてみりゃ、【女神交拝】とか言う駄目神と話ができるだけっつースキルだ。正直なんの役に立つのかサッパリわからねぇ。いや、仮にも神なんだし使い用によっては役に立つか?さっきは衝動的にいらねぇつったけど、もうちょい詳しく聞いてみるか…。
『んで、その【女神交拝】とやらについて、もうちょっと詳しく聞いてもいいか?』
『いらない…私と話ができるスキルがいらない…やっぱり私はいらない子なんだ…そうですよね…私みたいな根暗と話しててもツマラナイですもんね…たいした神生経験もおくってないですし…えぇ友達もいないですしね…私とあの子達、何が違うんだろう…』
あ、駄目だまた落ちてやがる。めんどくせー…友達がいないとかしらねーよ…
『あー、戻ってこい戻ってこい』
『恋!?恋って言いましたか!?なんです?私に恋しちゃいましたか!?駄目ですよ、神と人間の恋なんてうまく行きませんよ!あ、でもですね、貴方がどうしてもって言うのならあれです、まずはお試し期間というのはいかがでしょう』
『だから誰もそんな事言ってねぇっての!スキルの説明だスキルの!』
『またまたー照れちゃって可愛いですねぇ。しょうがないですね、お姉ちゃんが教えてあげますよ!』
うぜぇ…なんなの、情緒不安定なの?誰がお姉ちゃんだよ誰が。つーかそんな年の離れた姉とか嫌だわ。
『姉でもなんでもいいからさっさと教えてくれよ。それがあれば何ができるんだ?』
『えとですね、まずはさっきも話した通り私と会話することができます』
『おう、それはさっきも聞いたな。ドヤ顔してないで詳しく説明してくれよ』
『私の事を考えながら頭の中で呼んでくれれば大丈夫ですよ。後は私から話しかけた場合も同じ感じですかね。まぁ、今話せてるのでそこに不自由はないでしょう。あ、私の事を考えながらとか、なんだか恋人同士みたいですね!きゃぁ♪』
誰が恋人だ誰が…。しかし神殿内で、とか女神像の前で、とか条件がないのは助かるか。
『他には何か無いのか?』
『え、ないですよ?』
『え?』
『え?』
『いや、神の力が与えられるとかメッチャ幸運になるとか、何か女神の使徒として使命を与えられるとか…』
『なんです、それ?あ、でも女神の使徒って響きは良いですね!私を守る騎士様みたいで!よし、決めました。貴方は今日から女神の使徒です!』
『いらねーよ!!!』
ホントに話ができるだけかよ!…いやまて、神様から助言とか貰えると思えばプラスなんじゃないか?ほら、敵の偵察してもらうとか、罠の確認とかしてもらえるとか。つーか神殿局だっけ?あそこはコイツを崇めてるしな、上手くやれば俺の好きにできるんじゃね?
『あ、ちなみに私は現世に直接干渉する事は基本的に出来ませんからね。相談に乗るくらいは出来ても結果を教えたりとかはダメですよ?』
なんて役に立たないスキルなんだ…。ホントに話ができるだけかよ。まぁいいや、女神の騎士とやらにはまだ可能性がありそうだ。
『まぁ、あんまり役に立ちそうにないスキルって事はよくわかったわ。それで、他になんか用事はあるのか?』
『つ…冷たい。カインちゃんが冷たいっ!お姉ちゃんは悲しいわ!』
『だからお姉ちゃんとか言うな!あと俺のことガキ扱いしてんじゃねぇよ!もう何も無いんだな。じゃあ父さん達も待たせてるし、そろそろ終わりな!オッサンなんて五体投地のしすぎでなんかヤバそうだし!』
『終わりだなんて、お姉ちゃん寂しい…。でもこれからはいつでもお話できるもんね。じゃあカインちゃんまたね。お姉ちゃんはいつでも見守ってるよ!』
そう言って駄目神はどこかへ行った?ようだ。なんかもう疲れた。今は家帰って寝てぇ…
『あ!忘れてた!カインちゃん、コレだけは覚えておいて!本当に、本当の本当に困ったときはちゃんと私を呼んでね!私、頑張っちゃうから!忘れないでね!』
本当に困ったときねぇ…。正直あの駄目神に何ができるとは思えないんだが…。まぁいいや。
「悪い随分待たせた。帰ろうぜ父さん」
「お、話は終わったのか。どうだった女神様は?やっぱ神様だけあって素晴らしかったか?」
「あー、いやあれは…。まぁその話は帰ってからな。俺もう疲れたわ…帰って寝てぇ」
「おおおおお、お待ちくださいカイン殿ぉぉ!」
うおっ!ビビったぁ…。床でピクピクして他オッサンがそのままの格好で飛んできたぞ!つーか凄ぇなオッサン!
「パ、パラメテル様はなんと!なんと仰ってましたか!御声はどのようなものでしたか!やはり慈愛に満ちた方でしたか!なぜ貴方には御声が聞こえるのですか!わ、私の事は何か仰ってましたか!神殿に入って五十余年!このような事は初めてなのです!コレは奇跡か何かの災いの予兆か!帰しません、全てを聞かせてもらうまで帰しませんぞカイン殿ぉ!」
やべえ、オッサンの目が血走ってる…。つーかさり気なく自分の事アピールしてんじゃねぇよ。オッサンの事なんて完全にスルーだったわ。多分見向きもされてねぇぞ。
「と、父さん!何とかしてくれ!」
「おう!任せておけ。こんな事もあろうかと…」
そう言いながら鞄の中をゴソゴソ漁る父さん。そういや必要なものがあるとか言ってた割に何も出してなかったな。てっきり金とかが必要になるのかと思ってたが…何だあの瓶?何か黄色い液体が入ってるけど…
「神殿長!」
「なんだねアダムス殿!今は貴殿の相手をしている暇ガボォ!!」
うお、振り向いた瞬間瓶を口の中に突っ込んだぞ……あ、神殿長が何かビクンビクン仕出した。何だあの薬!ヤバイやつなんじゃねーの!?
「カイン!今のうちに退散だ!」
「お、おう!つーかあれなんだよ!何かオッサン、泡吹いてビクンビクンしてるんだけど!」
「フィン特製の麻痺薬だ!なーに半日もすれば治る!」
そうと分かればさっさと帰るに限る。さらばオッサン!あんたの事は忘れない!いや、忘れようかな…
神殿長のオッサンから逃げ出せた俺達は、無事に家につくことができた。ふー、まさか温和そうなオッサンがあんなに狂うとはな…。正直しばらくは神殿に近寄りたくないな。
『えぇそうですね、私もちょっとあれは引きますね…』
うおっ!まて、俺は別にお前の事なんて考えてねぇぞ!なんで当たり前のように話しかけてんだよ!
『だってずっと見てますもん。それにカインちゃんの考えてる事もだいたいわかりますよ?そうですね、カインちゃんの物語って本を読んでる感じですかね』
おい、ちょっと待て。何ナチュラルに爆弾発言してんだ。ずっと見てるとか考えが読めるとかなんなの?俺のプライバシーとかないの?
『安心して下さいね!見てほしくないだろうなぁ…って時はちゃんと見ないようにしますからね!お姉ちゃんだってその辺りはちゃんと遠慮しますよ!』
『いや、普段から見るなよ!俺は見世物かよ!』
『あ、でもでもあれですよ、エッチな事とかは考えちゃダメですよ!お姉ちゃん、カインちゃんにはまだちょっとそういうのは早いと思うの。それに私もそういうのは恥ずかしぃ…から…』
だぁ!変なこと言って変な空気にしてんじゃねえよ!余計なお世話だわ!つーかもう相手にしねぇほうがマシか!
「何ぼぅっとしてるんだカイン?入らないのか?」
「あー、悪い悪い入る入る。つーか父さん、なんで麻痺薬なんて持ってたんだ?」
こんな事もあろうかとって出してきたが、普通神殿に持っていくもんじゃないよな…
「あぁ神殿長、普段は温厚なんだかキャパを超えると暴走する事で有名でな。特に女神絡みになると手に負えなくなるんだよ。スキル確認時とかはその傾向が顕著でな。過去何回もあーなってるから念のため、だな」
過去何回も問題起こしておいて良く神殿長のままでいられるな…。別の奴にした方が良いんじゃね?
そんな事を思いながら家に入ると―――
「あ、おかえりなさい。アダムスさん、それにバカイン」
誰もいないはずの家には、ラスティが当たり前のように居座っていやがった……
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