06:幼馴染と女神とスキル
どうしてこうなった…。完全に暴走した感がある。
と言うことでヒロイン?登場です。
森から戻った俺はその足で神殿へ向かいたかったが、神殿でスキルを見てもらうのには準備がいるらしく、一旦家に帰ることになった。
早くスキルが知りたくてソワソワしている俺はまだ見ぬレアスキルに想いを馳せつつ早足で家へ向かっていたんだが、ロクに前を見ていなかったのもあり、ちょうど曲がり角で人にぶつかってしまった。
「うわっ!」
「きゃあ!」
いってー…なんだよいきなり飛び出して来やがって!
「いたた…、ちょっとアンタ、どこ見て歩いてんのよ!」
「あぁ?それはコッチのセリフだ!お前こそどこ見て歩いてんだよ!」
謝りもせずいきなり文句を言ってきたのは、長い金髪をポニーテールに纏めた俺と同じくらいの歳の女。生来のものか怒りのせいか、目は釣り上がっており、いかにも生意気そうな顔でこちらを睨みつけている。
「ってなによ、カインじゃない。どうせまた英雄になるとか言って夢見ながら歩いてたんでしょ。ちゃんと現実を見ながら歩きなさいよね」
なんだこの女、馴れ馴れしい。…ん?いや、なんだラスティか。道理で生意気だと思った。
「お前こそどうせまだ見ぬ素敵な旦那様とやらで妄想してたんだろうがよ。いい加減諦めろよ、お前みたいなガサツな女、嫁の貰い手なんてねーよ」
そう、このラスティと言う女は見た目も相まって黙っていれば良い女なんだがとにかく口が悪い。口を開けば暴言を吐かないと気が済まないようなのだ。そんな彼女は事あるごとに素敵な旦那様が迎えに来てくれると豪語している。正直何度も聞かされる側としてはたまったもんじゃない。
「何よアンタに言われたくはないわよバカイン。こんな素敵な女の子がいつまでも独りだなんて、世の中の方が間違ってるのよ」
「はいはい、そーだな。俺が英雄になったら良い男紹介してやるよ。つーかバカインって言うな!俺はカインだっつーの」
「アンタが英雄になんてなれるわけないでしょ。魔物の1匹も退治したこと無いくせに!アンタなんてバカインで充分よ。なんなら長いからバカで良いわバカで!」
やっぱコイツに喋らせちゃ駄目だ。何なんだこの口の悪さ。ふっふっふ、しかし今の俺は魔物退治も経験して一皮剥けたからな!コイツの暴言なんてスルーよスルー。
「へっ!その目に見えねーのかよこの剣が。さっき森で魔物退治してきたばかりだっつーの!」
まぁ正確には倒したのは父さんなんだが、戦ってたのはほとんど俺だし、俺の手柄にしても良いだろ。パーティ戦だと考えれば俺が隙を作って父さんがとどめを刺したようなもんだしな。
「アンタが魔物を?どうせアダムスさんの背中に隠れてとどめだけ刺したとかじゃないの?」
「がはははは!さすが鋭いなラスティちゃん。だがまだまだ読みが甘いな!正確にはホーンラビットに串刺しにされそうになった所を俺が助けて終わりだ」
「なによ!結局アンタ何もしてないじゃない!それどころか助けてもらってるだけじゃないの!」
「う、うるせー!俺の動きが魔物の隙を作ったんだよ!」
予想もしない味方から裏切りであるっ…!おいおい父さんや、ここは息子の顔を立てておく場面だろうよ。
「はぁー…これじゃいつまでたってもアンタに守って貰えそうにはないわね。もしかしたら私の方が強かったりして」
「お前より弱いとかあるわけないだろ!だいたい子供の頃言ったことを律儀に覚えてんじゃねぇよ!」
「んー、なんだお前。いっちょ前にラスティちゃんを守るなんて約束してんのか。そりゃ大事な約束だな!……必ず守れるようになれよ」
「お、おう…。なんだよ父さんまで。俺は英雄になるんだぞ!女の一人や二人守るに決まってんだろ!」
ったく、ラスティが絡むとろくな事がねぇ…。しかし子供の頃の約束か…。正直実感は無いんだが自然と口から出てたな。身体が覚えてるってやつかな。ってそうだ!こんなとこで油売ってる場合じゃ無ぇ!神殿だよ神殿。
「そういえばアンタ、もう体調は良い―――」
「悪いラスティ、今油売ってる場合じゃないんだった!じゃあ、またな!父さん、先行くぞ!」
「え、ちょっと!カイン!?って行っちゃった…。何なのよもう」
「ハハハ、今日スキルの事を話したからな!つーかあいつだけ先に行っても仕方ないのになぁ」
「あぁそう言うことですか…。ホントいつまでたっても子供なんだから…」
「まぁ、そういう訳だからスマンなラスティちゃん。また後で家にでも寄ってくれ!」
「ええ、そうします」
待ちきれなくて先に帰ってきちまったが、俺だけ帰っても意味ないんだったな…。くそう父さんまだかよ…。
「ただいまーっと。カイン、いるかぁー!」
やっと帰って来やがった!待ちわびたぜ!
「いるよ!早く行こうぜ父さん!俺もう待てねえよ!」
「まぁ待てまぁ待て、すぐに準備してやるから」
そう言いながら何やらゴソゴソと棚から取り出す父さん。あ、流石にあの剣は置いていくのな。まぁ、デカくて邪魔だしな。ぶっちゃけあんなの持ってたら神殿に押しかけた無法者だと思われても仕方ない見た目だしなぁ…。
「よし、行くか。あ、お前の剣は別に持っていっても良いが町中で抜くなよ」
「りょーかい。良いから早く行こうぜ!」
待ってろよ神殿!伝説になるようなスキルを見せてやるぜ!
神殿は町のちょうど中央にあるデカイ建物だ。ぶっちゃけ他の町並みに比べて浮いている気がしなくもない。どっちかって言うと貴族街にあるのほうが周りに溶け込める気がする。
入り口には門番が2人、鋭い目を光らせながら道行く人たちを睨みつけている。んー…なんだろうな、これじゃ気軽に入れなさそうなんだが、そういうとこじゃないのかな?つーか偉そうにしてやがるなあの門番…ただの門番のくせに。
「なぁ父さん、なんで門番があんな偉そうなんだ?これじゃ入りにくくねぇ?」
「あー、ここは神殿局の管轄だからな。あいつらは貴族…とは違うんだが似たようなもんでな。平民よりは位が上なんだよ。それにこの間ちょっと事件があってな、警戒してるんだろ」
「ふーん、いけすかねえ奴らだな。まぁいいや、さっさと行こうぜ」
神殿の中も外に違わず豪華な造りになっていた。何か水とかも贅沢に使ってるし、私達は偉いです!って建物自体が言ってるようだ。
進行方向を示すように引かれた赤い絨毯の先には一体の女神像とそれに向かって平伏している一人のオッサンがいた。あのオッサン、一日中ああやって平伏してんのかな…。お、足音に気付いたのか立ち上がったぞ。
「これはこれは、アダムス殿にカイン殿でしたかな。本日は神殿に何か御用でしょうか」
「ああ、神殿長。いやなに息子がスキルを授かりたいと言い出してな」
「スキルを?おや?彼は確か……いえ、わかりました。こちらへどうぞカイン殿」
神殿長にもなると俺のことも知ってるんだな。まさか町の人間全員知ってるとかないよな。
神殿長に連れられて女神像の前に立たされる。なるほど、授かるってからには女神様の前じゃないとおかしな事になるわな。
「さて、まずはじめに説明ですがここではカイン殿の全てが暴かれます。これは嘘偽りのない唯一のものです。何故なら女神パラメテル様は全てを司り、また全てを見通す全能神であらせられるからです。即ちここで明らかになる事に異議を申し立てることは許されません。何を知ったとしても―――」
「あー、長えよ長えよ。良いから早くしてくれよオッサン」
「カイン、お前なんて失礼な事を!」
「ははは…いえ、若者らしいですな。わかりました、では説明は抜きにしましょう」
ふう、ここまで来て長々と語られてたまるかよ。もういい加減待ちきれないんだよ!
「では……ゴホン。全能にして全てを見通す神パラメテルよ。彼の者に御身の祝福を。そして全てを見通すその眼で彼の進むべき道を示し給え―――」
決まり文句のような言葉とともに神殿長がなにやら聞き取れない呪文のようなものを唱えると、女神像が少しずつ輝きはじめた。呪文の進行と共に徐々に輝きは増していき、今では女神像全体が輝いている。
「すげぇ…」
不意に輝きが収束したと思ったら、そのまま俺に向かって降りてきた。光は俺の中に消えてなくなっていく。そうして全ての光が消え、女神像も元の色を取り戻していた。ん…コレで終わりか?別段何も変わった様子は――
『………え…すか…』
ん?今何か声みたいなのが…
「父さん、今何か言ったか?」
「あ?何も言ってねえよ?」
『わたしの声が聞こえますか?』
いや!確かに聞こえるぞ!なんだ、コレ。まさか女神様の声か!?俺にしか聞こえてないのか!やっぱり俺は特別なんだな!しかしここであの胡散臭い神の声が聞こえたらどうしようかと思ったぜ。正直あいつとは関わりたくないからな。嫌な予感しかしねぇ。
『聞こえていませんか、そうですか…。ふぅ…それとも無視されてるのかしら…。私と会話なんてしたくないと…。そうですよね、私なんか会話する価値もないですよね…。全能だの全てを見通すだの言われてますが全然そんな事はないですしね…。あぁ、女神だの何だの言われても所詮都合の良い女でしかないのですね…。どうせもっと使える別の神が力を貸せば私なんて見向きもされなくなるんでしょうね。いいえそれだけならまだしも、邪神扱いとかされて虐げられるんですよ…』
な、何か急にへこみだしたぞ…。何?神様ってマトモな奴いねーの?女神だろ、イメージ大事にしろよ。つーかこっちからどう話しかければ良いんだよ。声に出したら独り言喋ってる痛い奴になるじゃねえか。なんだ?頭の中で喋ればいいのか?
『あーあー、き、聞こえるか?』
『だいたいあの時も私のせいであの子を―――え?』
お、聞こえたみたいだな。この感じでいいのか。しかしこのままだと父さんたちに怪しまれるな。どうやって誤魔化すかな…。あーでも、女神様から話しかけられてるって言ったほうが特別感があって良いか。女神の使徒って響きも悪くねーしな。
『あ、ちょっと待っててくれ』
『え、あ、え、その…ぅ……はい…わかりました…』
「父さん、神殿長のオッサン、ちょっと今からこのままジッとしてるけどほっといてくれ。なんか女神様が話しかけてきた」
「はぁ!?何言ってんだお前!なんでパラメテル様がお前なんかに話しかけてくるんだよ!」
「知らねーよ!俺が特別とかだからじゃねーの?まぁそんな感じだから気にしないでくれ」
「気にしないでってお前…。まぁいい!後でちゃんと聞かせろよ!」
ふう。とりあえずコッチはこんなもんで大丈夫だろ。なんか神殿長のオッサンは感極まったみたいに泣きながら「おぉ…」とか「私にも御声を…」とか錯乱してるけど見なかったことにしよう。絶対絡まれると面倒なやつだコレ。
『悪い悪い、待たせたな。父さん達に話しかけられてるって言ったけど大丈夫だよな?』
『あ、はい。それは大丈夫ですが…あなたの方は大丈夫なのですか?女神から話しかけられたなどと言って…』
『んー、まぁ大丈夫だろ。それで何の用事なんだ?父さん達の反応だと誰にでも話しかけてる訳じゃないんだろ?やっぱあれか?あの胡散臭い神関係か?』
『う…胡散臭いですか…ぅくく…胡散臭い神…だ…だめ…おかしぃ…ぷぷ…』
なんか変なところでツボに入ってるな…。そんなに可笑しなことだったか?ここはもうちょっと追撃してみるか。
『いやどう考えても胡散臭いだろあれ。胡散臭さが服着て歩いてるみたいなもんだったぞ。にやけ顔で「やぁ」とか近づいてくるんだぞ。
『に、にやけ…あははははっ…にやけ顔で「やぁ」……やめて笑いすぎて苦し…くくく…ちょ、ちょっと待って…』
うーん、想像以上にハマったみたいだな。なんとなくだが転がりまわってるような雰囲気が伝わってくる気がする…。つーか神様ってこんな軽いノリでいいのかよ?まぁやたらと堅苦しい感じで話しかけられても面倒なだけなんだが。
『そろそろ大丈夫…か?』
『あー可笑しい。だめ笑いすぎてお腹痛ぃ………………』
『………………………』
『は!?…あ、えとその……ゴホン、初めましてカイン。私の声が聞こえますね?』
おい…さっきまでのを無かった事にする気かこの女神。
『いや、今更取り繕ってももう遅いからな?』
『ゴホンゴホン!何の事かわかりませんね。さてあなたに話しかけたのはですね――』
『無かったことにすんなこのダメガミ。』
『ダ、ダメガミぃー!?なんですその呼び方!堕女神ですか!?いえ雰囲気的に駄女神の匂いがプンプンしますよ!仮にも神ですよ!もうちょっと敬っても良いんじゃないですか!?』
『いや、正しくは駄目神だな。それに敬ってほしかったらそれなりの態度を取れよ』
『んなっ…貶すどころか女であることも否定するなんて…。はぁ…そうですよね、私なんて女としての魅力もないですしね、胸だってこの通りぺたんこですし…。はぁ、どうせ男はみんな大きい方が良いんでしょう、クラウディアみたいな…。大きさがなんだって言うんですか、大きさが。女の魅力はそんなところには無いんですよ。…あれ…じゃぁ、ぺったんこで女を否定された私は本当に魅力が無いことに…?いえいえ。そんな訳無いじゃないですか。現に私にだって言い寄ってくる男神の一人や二人探せば何処かに…何処かに……っ…ぐす……』
あかん、この駄目神面倒臭すぎる。なんつーか感情の振り幅が大きい割に耐性がなさすぎる。オマケに自己嫌悪で泣き出すとかどうすりゃいいんだよ。どうにも胸のサイズにコンプレックスがあるみたいだが…てかクラウディアって誰だよ。うーん…あれか、褒めておだてて機嫌取ればいいのか?
『えーと、いや、すまん言い過ぎた。ほら、世の中には小さいほうが良いって奴も居るだろうしアンタみたいな奴が好きって奴もいるさ。ほら見ろよ?見えるのか?まぁいいや。あそこにいるオッサンなんてアンタの声が聞きたくて五体投地してるじゃねぇか』
『ひっく…ひぅ…ぐす…あ、あなたも小さいほうが良いんですか…?』
ここで大きい方が好きって言うとまた拗らせそうだな。しかたねぇ、ここはちょっと慰めるために…
『いや、俺は断然大きい派!』
『やっぱりそうなんじゃないですかー!!!て言うか酷くないですか!?ここは嘘でも小さいほうが好きって慰める場面じゃないですかー!?』
あ、あれー…おかしいな。口から勝手に…これもきっと身体が覚えてて勝手に喋ったんだな。きっとそうだ。てか五体投地してるオッサンはスルーなのな。可哀想になってきたぞ…
『まぁまぁ、きっといつかは良い出会いがあるさ。んでそろそろ本題に入ってもらいたいんだが…』
『いつかっていつですかー!もう2000年以上も出会いが無いんですよ!?久しぶりにあった女神が男神と結ばれただの子供が生まれただの聞かされる気持ちがアナタにわかりますか!?女の幸せは良い伴侶と巡り合うことだとか言われるんですよ!?』
『いや、そんな気持ちわかんねぇよ。俺は男だし。ていうか俗っぽいな神様達!なんなの?神様もデートとか飲み会とかしてるわけ!?』
『神様だろうが人間だろうが獣だろうが、男と女がいればやることなんて大して変わりませんよ!規模の問題だけですよそんなの!』
『知りたくなかったわそんな神様事情!』
いかん、話が全然進まねぇ…強引に切るしか無いか。
『あーもうわかったわかった!その話は後だ!父さん達も待たせてるんだよ!いい加減本題に入れ!』
『っ!…そ、そうですね、つい取り乱しました。すみません。えーと何でしたっけ、あぁそうそうアナタに話しかけた件でしたね』
ふぅ…やっと本題に入れそうだ。なんかもうドッと疲れたな。さっさと話し聞いてスキルを知って…そうだよ!スキルだよ!つい駄目神のペースに巻き込まれてたけど俺はスキルを知りに来たんだよ!
『あーその前に俺のスキルについて教えてもらっていいか?俺はそれを知りに来たんだよ』
『好きる…ですか?え…ちょ、ちょっと待って下さい!いきなりそんな好きだなんて言われましても…あ、そのですね…そういうことはもう少しお互いを知ってからの方が…いえ、嫌とかじゃなくてですねっ!あの、私そんなこと言われたの初めてでして、どう対応したら良いのやら…えっと、その……あの…』
『誰も好きだなんて言ってねーよ!なんだよ好きるって!好きですを噛んで好きるとかになんの?ならねーよ!文脈的にもオカシイだろうが!脳内お花畑か!スキルだスキル!!』
『あ…なんだスキルですか…。そうですよね私の事が好きだなんて無いですよね…はは…そうですよね…』
『落ち込むな落ち込むな、話が進まねぇ!いいからスキルについて教えてくれよ』
なんとなくわかってきたな…こいつに会話の主導権は握らせちゃ駄目だ。とにかくぶった切ってでも軌道修正しないと延々とお花畑な会話に巻き込まれるぞ…。
『こほん。そうですね、わたしもふざけ過ぎましたね。あなたのスキルについてですが…』
いよいよ俺のスキルが明らかになる時が来たな!レアスキル来いレアスキル来いっ!
出来れば戦闘系、そうじゃなくても皆があっと驚くやつ!
『あなたのスキルですが…【女神交拝】です!』
『めがみこうはい…?えーとどんなスキルなんだ?レアスキルなのか?』
『レアもレアですよ!この世界であなたしか持ってないスキルですよ!効果はですね、文字通り女神と…つまり私と会話出来るスキルです!おめでとうございます!これで何時でも私とお話出来ますよ!あっでも私にも都合がありますからね、そのときは諦めてくださいね!でも私から話しかけたときはちゃんと答えてくださいね!女神様からのありがたいお言葉ですからね!』
『い…』
『い?』
『いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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