04:相棒(予定)との出会い
4話目です。ついに部屋の外に…
翌日、目が覚めるとすっかり体調が良くなっていた。まさかあのクソ不味いスープが効いたとか無いよな……。いや単純に自己治癒力だわ、うん。きっとそうだ。おとなしく寝てたし、そうに違いない。
「よし、そろそろ起きるか。て言うか、この部屋にいてもする事ないしな。いい加減飽きたぞ」
そうと決まればまずは家の中から探索だな。って狭そうですぐに終わりそうだけどな、この家。
なんせ寝てても隣で動く父さんの音が丸聞こえだし。つーかうるさすぎだろ足音とか。
建付けの悪い扉をなんとか開けて初めて部屋の外に出てみた。案の定、家は狭く部屋数も少ない。正面と90度左に扉が1つずつ。多分正面が父さんの部屋で左のが玄関だろう。部屋の中央では何やら剣らしきモノを手にしてニヤニヤしている父さんが1人。正直言ってちょっとキモい…。
「何ニヤニヤしてんだよキメェ」
思わず口にしてしまったぜ。仕方ないだろう、キモいんだし…。想像してくれ、いい歳したオッサンがニヤニヤしながら色々ポーズとってるんだぜ…。なんだよそのポーズ、実戦で使う事あんの?
「お、起きたのか!おはよう!もう調子は良さそうだな!」
相変わらずうるせぇ…。
「あー、おはようおはよう。てかゴキゲンだな。」
「わかるか!見てくれこの剣!良いだろう、さっき新しいのを買ってな!いやー、なかなかイイ値段だったんだがな、我慢できなくてな!」
確かにソコソコ高そうな剣のようだ。見た目もしっかりした出来だし、何よりデカイ。なんだ?竜でも斬るのか?あんなの振り回せるのか…。実は見た目に反して軽いとか?
「そうかいそうかい、まあ、剣は良いよな。カッコイイし。俺にもちょっと持たせてくれねぇ?」
「ハハハ!良いだろう持ってみろ!」
そう言ってニヤニヤしてる父さんから剣を受け取る。何かずっとニヤニヤしてねぇ?この人。
「良いかー、離すぞー」
「オッケー………って、うぉぉぉっ!」
父さんが手を離した瞬間、ガチャンッ!と剣を床に落としてしまった。と言うか、剣ごと床に落ちていった方が正しいか…。重すぎだろコレ!こんなもん振り回すのか父さん。ちょっと尊敬してしまったぜ。
「ハッハッハッ!お前にはまだまだ早いみたいだな!せめて父さんくらい筋肉がないとな!」
そう言いながら見せつけるように筋肉を動かす父さん。くっそポージングするな!筋肉が自慢なのはわかったから!コレだから脳筋は…。さっき尊敬したのはやっぱなしな!
「うん、俺は普通の剣が良いや…。予備の剣とかないの?」
「あるにはあるが大体同じくらいの重さだな。父さん軽い剣は駄目なんだよ。男は黙って一撃必殺だ!」
あ、うん。やっぱそっち系か。あれだけの重さを振り回せるなら、その方が強いだろうな。
しかしそっか…普通のはないのかー。俺の剣も欲しかったんだけどなぁ。
「……そうだな、父さんもコイツの試し斬りもしたいし、お前の剣も用意するか。そろそろ持っても良い歳だろう。
よし、じゃあ武具屋に行くとするか!お前もしばらく外に出てないからな。いい加減ヒマだろ!」
「ホントか!よっしゃ!サンキュー父さん!」
あの後、父さんは簡単な準備だけ済ませて、すぐに出発する事になった。俺はと言えばロクに準備する物も無かったので着替えだけ済ませて、手ぶらのままだ。
意識が戻ってから初めて家の外に出る事になった俺は内心ドキドキしていたが、出てみればなんだ、こんなもんかって感じだった。特に変な物もなく普通の町だ。この辺りは豪華な建物もなく、木や石積みで出来た家があるだけで、いわゆる平民街だな。遠くにやたらデカイ城が見えるから、きっとあの近くはキレイな街並みなんじゃないか。貴族とか住んでんだろ…。クソ、俺もそっちが良かったぜ。
「どうした?珍しいものなんてないだろ?早く来ないと置いてくぞ!」
おっと、そりゃマズイ。キョロキョロ周りを見てたらつい足が止まってた。迷子になる事はないだろうけどな。…いや、なるか。武具屋の場所とか覚えてないし…。まぁ、着いたらもう買う物決まってたとかも嫌だしな。やっぱ最初の剣は自分で選びたいし。
「悪い悪い、今行く!」
ズンズン先に進んでいく父さんを駆け足で追いかけてるのに全然追いつけねぇ。歩くの速すぎだろ。いや、俺の足が遅いのか?そんな事より、よく見ると父さん、やたらと人に挨拶されるな。実は有名なのか?近所付き合いとかもあるだろうけど、それにしても多いな…。ま、声も動作もうるさいし、目立つんだろ、たぶん。
そんなこんな、先を行く父さんを追いかけてると1軒の建物が目に入ってきた。立ち止まってるし、ここが目的地かな。店先の看板に交差した剣のマークも付いてるし間違いないだろ。
「やっと来たか、お前足遅いなぁ!」
「うるせぇ…。こちとら病み上がりなんだよ。ここが武具屋なのか?」
からかってくる父さんに反論しつつ話をすり替えてみる。うん、俺の足が遅いのは病み上がりだからだろう、きっとそうだ。
「おう!そうだぞ。街にはいくつか他の店もあるがな、俺はここが1番腕が確かだと思ってる。貴族街の店とかは見栄え重視で中身がなかったりするしな。
おーい!ヤーゲンじいさん!いるかー!」
おそらくヤーゲンって言うのが店主なんだろう。まぁ、表の看板にも武具屋ヤーゲンって書いてたしな。
「いちいち叫ばんでもワシャおるわい!ワシの店だぞ!
どうした、アダムス。さっき来たばかりじゃろうに。例の剣に何か問題でもあったか?」
「いや、それは今から確かめに行くところだ。ついでに息子にもそろそろ剣くらい用意しようかと思ってな!カイン、こっちだ!」
店の奥から出てきたのはいかにも頑固そうな髭面の爺さんだった。作業汚れなのか服は薄汚れてるし、髪の毛も伸びっぱなしで爆発してるんだが…。おまけに腕とか枯れ木みたいなんだけど、あの爺さんが剣とか作ってんの?折れるんじゃね、あの腕…。
ヤーゲンの店は店主の見た目に反して小奇麗にまとまっており、無駄の少ない作りになっていた。種類ごとに丁寧に並べられた武器や鎧達、高価なものは棚に収められており、逆に質の低いだろうものは樽の中に一纏めにされている。その中でもひときわ目につくのが、壁にかけられた一振りの長剣だ。剣身はうっすらと蒼く、鍔も細かい意匠がなされている。魔力でも纏っているのか、遠目に見ても威圧感のようなものがあり、誰が見ても業物とわかる、そんな雰囲気をかもし出している。
「爺さん、会ったことはなかったよな。息子のカインだ」
「ほほう…コヤツが例の子じゃな。無事で何よりじゃ。しかしお主に似なくて良かったのぅ…。生意気そうなところはそっくりじゃがの。…おいボウズ、あの剣が気になるのか?」
返事もせず俺は剣に目を奪われていた。いわゆる英雄や勇者と呼ばれる者たちは、相棒とも呼べる武器を持っていることが多い。きっとこの剣は俺に出会うために長い時をココで待っていたんだろう…。待ってろ、すぐに解放してやる。そして俺と一緒に歩んでいこうぜ!
「父さん、俺、あの剣が欲しい!」
「アホか!ガキにあんなもん持たせられるか!もったいない!宝の持ち腐れもいいとこだ!」
「なんでだよ!良いものを持ったら大事にするし真面目に訓練もして腕も上がるだろ!だいいちその辺のナマクラ持ったってやる気出ねぇよ!」
「おい坊主、ウチにはナマクラなんて置いとらんわい!」
何か爺さんが文句を言ってるが今はそれどころじゃない。なんとか父さんを説得しないと…。
俺にはわかる、ココでコイツと出会ったのは運命なんだ。
「よーく考えろ父さん。仮にここで安い剣なんて買った日には、ロクに手入れもしないわ訓練もしない、そんな息子が出来上がるわけだ。それに安い剣だと買い替えやら修理やらで結局金がかかるだろ。大事なときに折れたりして俺が怪我するかもしれない。いや、怪我で済んだらまだマシだけど、命に関わるかもしれない!その点、この剣はどうだ。買い替えも必要ないし、修理だって少なく済むだろう。俺も真面目に手入れするしな。訓練だって一生懸命するぞ!そしたら怪我もしないだろう。それに英雄には相応しい武器ってのが必要なんだよ!ほら、絶対あの剣がお得だって!なんだっけ、先見の明ってやつだよ!」
ここぞとばかりに畳み掛ける。こう言うのは考えさせる前に言いくるめて納得させた方が勝ちだからな。ククク…どうだ反論出来まい!この勝負、勝ったな。さぁ、あの剣を俺のもとへ!
「ガバガバの理論で何自信満々なツラしてんだよ!安かろうが高かろうが、剣は手入れするもんだし、修理もするわ!そしたらそうそう折れたりしねぇよ!つーかどこに英雄がいるんだどこに!」
バカなっ!脳筋のくせに反論してきただと…。
「だいたい何が一生懸命訓練するだ!そんなのは武器どうこう以前の問題だ!訓練して当たり前なんだよ!やる気のないやつに武器なんか持たせられるか危なっかしい。大人しくしてりゃ怪我もしねぇし命の危険もそうそうねぇよ!
……爺さん、そういう訳だ!冷やかしでスマンがやっぱ買うのは無しだ。コイツに武器はまだ早かった。武器より先に常識を持たせるわ。」
「がははっ!坊主の負けじゃのう。確かにお主にはまだ早いようじゃ。仮にあの剣を持ったとしても武器に使われてすぐに死ぬのがオチじゃよ。」
やべぇ、あの剣どころか他の剣を買う話すらなしになっちまった。このままじゃ次はいつになるかわかんねぇぞ。どうにか軌道修正しないと…。
「いや、その…ちょっと待ってくれよ父さん!さっき言ったのは言葉のアヤだって!ちゃんと手入れだってするし、訓練もするって!だからさぁ、やめるなんて言わないで!あの剣じゃなくても良いからさ!ここで何も買わなかったら俺、また死にそうになるって!」
悔しいがココは折れて普通のでも買ってもらおう。……死にそうになるは大袈裟すぎたか?父さんが何か神妙な顔になってしまった。でもなぁ、ショックで死にそうになるわ実際。
「っ……!ふー…そうだな、そこまで言うなら買っていくか。ただし、あの剣はお前には早い!手頃なのを1本選べ。爺さん、悪いが適当なのを見繕ってくれるか?」
「うむ、任せておけ。坊主、ちょっとこっちに来い!」
ふぅ…何とか軌道修正出来たか。あの剣は悔しいがまたの機会だな。まぁ、そうそう売れるもんでもないだろ。…そういや、結局値段って幾らするんだ?
「爺さん爺さん、あの剣って幾らするんだ?」
「ん?まだ諦めておらんのか。そうじゃのぅ、アダムスの稼ぎ3年分ってとこかのぅ…」
父さんの稼ぎ3年分!?あ、いや待て、父さんっていくら稼いでるんだ。てか何してるんだ仕事。家の感じだと稼ぎは少なそうだしな…。あの馬鹿でかい剣の方が持ち腐れなんじゃなかろうな…。
「なんだ、変な顔してこっちみて。何度言ったってあの剣は駄目だぞ!」
「わかってるよ!て言うか値段聞いたぞ。あれ、実は買えないんだろ?金無くて。俺も借金してまで買ってくれなんて言わねーって!」
「あほか!ウチはそんな貧乏してないわ!ガキが金の心配してんじゃねーよ!」
ほほぅ…そうなのか。ならなんで家はあんな質素なんだ…。貯蓄が趣味とかかな…。それとも表には出せない稼ぎなのか…。
「ほれほれ、そんな話は家でするといいじゃろ。さっさと選べ坊主。坊主にちょうど良さそうなのを何本か持ってきたぞ」
おっとそうだった、無駄話してる場合じゃねぇ。
爺さんが持ってきたのはどれも普通の剣っぽいやつだった。見るからに量産品だな。んー、正直コレならどれでも同じ気もするけど…。いや待て、この中に1本だけ違うのが入ってて目利きを試されてるのかもしれないな…ここは慎重に吟味せねばっ…。
「そんな真剣に見てもどれもそう大差ないわい。せいぜい長さやくたびれ具合が多少違うくらいじゃ。直感で選ぶとええ」
くっ…。やる気を削ぐようなことを横から言いやがって。しかし俺は騙されねーぞ。この中だとコイツが一番良さそうだ!これに決めた!
「爺さん、コイツにするよ!コイツが俺に訴えかけてきてる!」
俺が手にしたのは素直な両刃直剣だ。余計な装飾も無いが、その分質を信頼できる気がする。
「あ、いやカイン。ちょっと待て!その隣のやつにしておけ。そっちの方がお前には合うはずだ」
「えー、俺的にはコイツの方が良い気がするんだが…」
父さんが選んだのはさっきの剣より少し長い片刃の直剣。ぶっちゃけ両刃の方が便利じゃねー?
「いやいや!コレの方が良いぞ!父さんの目利きを信じろ!経験者からの助言だ!」
なんかやたらと押してくるな…。選べって言っておいて…。まぁ、ここでゴネてまた買わないって言われても困るしな。ここは父さんの顔を立てておくか。
「分かった分かった。じゃあ父さんの選んだやつにするよ。爺さん、やっぱコッチの剣にするよ」
「そうかそうか。ならそれにするとええ。鞘くらいはオマケでつけてやろう」
最後の最後に爺さんが気前の良さを見せて、俺の初めての相棒が決まった。よろしくな相棒。これからよろしく頼むぜ!……おっといかんいかん、大事な事を言い忘れてた。
「爺さん!俺が買いに来るまであの剣は売らないでくらよな!いつか絶対俺のものにするから!」
「かかか!楽しみに待っとるわい。ただワシも商売なんでな、あまり長い事待たせると売っちまうぞ」
剣の代金を爺さんに支払い、俺と父さんは店を後にした。よし!ココから俺のサクセスストーリーの始まりだ!見てろよ神さんよぉ、俺に目をつけたことは後悔させねーぜ!
「………しかしあの坊主、見事に一番ハズレの剣を選んだのぅ。アダムスの奴も流石に口を出したか。あの一件依頼どうも過保護気味な気もするが…仕方ない事かの」
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