03:秘伝のスープのお味はいかが
2話目です。場面が動かない…
「いやあ、すまんすまん!まさか扉の前にいるとは思わなかった!ハッハッハッ!……鼻、大丈夫か?」
派手に扉に吹き飛ばされた俺は見事に気絶。父さんが言うには、鼻血を吹き出しながら倒れてる様はちょっとした事件後みたいだったらしい。だったって言うか事件だよ!まだ鼻が痛え…。
ちなみに扉に鍵なんてものはなく、たんに建付けが悪くて開けにくいだけらしい…。
あの妄想はなんだったんだ紛らわしい…。
「まだ痛ぇ…。蹴り開けるか普通…」
「両手が塞がってたんだから仕方ないだろう!そんなこと言ったら扉の前で突っ立ってるなんて思わねぇよ普通!」
「うわ、コイツ反省してねぇー。ノックとかそういう文化的な行動はねーのかよ」
「自分の家でノックとかしないだろう。なんだ?お前やましい事でもする気なのか!?………あー、スマン。そうか、そういう事もあるよなー」
ニヤニヤしながらコッチ見るんじゃねぇよ…。何理解のある親みたいな顔してんだよ…。なにもしねぇよ。
「うるせぇ。いいから早く飯くれよ…」
「おっとそうだった!ほれ、しっかり食って大きくなれよ!」
人を子供扱いしやがって…。机に置かれた飯はお世辞にも豪華とは言えないが、特別見栄えが悪いものでもないな。普通にパンとスープにサラダだ。腹減ってるから充分美味そうだ。特製のって言ってた割に普通なのが気になるが…。まさかこのレベルが特製になるくらい家は貧乏なのか…。
「んじゃ早速貰うわ。とりあえずスープから」
飯はまず汁物から。湯気が出ていかにも熱そうだが、空腹に我慢ができずスプーンも使わず器に口づけてゴクリと………
「ブッ!!まっず!!何だこれまっず!!」
あまりの不味さに噴き出してしまった…。完全に見た目に騙された!なんかもうひたすら青臭い味が口中に広がる。そして苦い。おまけににエグい。後味なんかはもう最悪だ。お湯に雑草ぶち込んだだけじゃねーのこれ!?涙出てきたわ!
「失礼なやつだなお前!代々伝わる秘伝のスープだぞ!ちゃんと味わって飲め!」
「これが秘伝とかイロイロおかしいわ!表に出しちゃ駄目なやつだろコレ!最初に作った奴出てこい!」
「いやまぁ、父さんだけどな!俺とお前でほら、代々伝わるだろ。んでお前が将来伝えてくれれば三代だ!作り方教えるから是非伝えてくれ!」
「アホか!なんだその代々伝わる(予定)は!覚えねえし伝えねえよ!レシピごと忘れろ!」
「えー、簡単なんだぞこれ。……ゴホン!カイン、お前に我が家系の秘伝料理を伝える。
まず材料はどこにでも生えてる薬草だ。こいつはすり潰せば傷の治りが良くなる。そいつを半分ほどすり潰して湯の中に入れ、残りは適当にちぎって入れる。そして美味くなーれー、美味くなーれー、と祈りを捧げたら完成だ!名付けて秘伝・薬草スープ!傷にも良く効くし、体調も良くなるはずだ!」
「美味くなる要素が何もねぇ!!」
本当に雑草をお湯にぶち込んだだけだった…。薬草ってすり潰して傷に塗るとかじゃねーの?良くなるはずって何だよ…。てゆーか、こんな厳ついハゲが、美味しくなーれーとかしてる姿は想像したくもねぇよ…。おぇ、気持ち悪くなってきた…。
「酷い目にあった…。病人に飲ませるもんじゃねぇ。サ、サラダで口直しを…」
しかしこうなると残りの飯も不安になってきたな…。食う前にしっかり観察を…。
おぉい!このサラダ、土付いたままなんですけど!
「このサラダは…?」
「採れたて鮮度抜群の薬草だ!歯ですり潰すように食うのがコツだ!」
恐る恐る聞いてみると自信満々に答えてきやがった。なんだ、歯ですり潰せってあれか?苦さで痛みを忘れるとかか!?と言うか結局パンと薬草しかねーぞこのメニュー!
「何が鮮度抜群だ!せめて洗えや!てか、食って治すもんじゃねーだろ薬草って!」
「えー、父さんはダンジョンとかで傷負ったときにムシャムシャ食うがなぁ…。そしたら傷の治りが良くなる気がするんだよ!
なんでかその後、フィンが薬草に張り合って治癒魔法かけてくるんだがな!」
それ、張り合ってんじゃなくて、効果ないから治癒魔法かけてくれてんじゃね?フィンさんとやらも大変だな、こんな脳筋と一緒なんて…。っと、今新しい登場人物が出てきたな…。
「フィン…?それってもしかして母さんのことか?」
「はぁ!?やめてくれ!あんな恐ろしいババァが嫁とか冗談にも程がある!フィンはただの仕事仲間だ!アレを嫁に貰うくらいなら男に走るほうがマシだ!
ん?………ちょっと待て、お前なんでフィンが母さんだと思った?」
神妙な面持ちで聞いてくる父さん。何かまずい事だったのか?フィンとやらを母さんだと思った事が…。あーいやそりゃそうか。どこの息子が母さんを他人と勘違いするんだよ。しまった失敗したな…。
「いや、何となく会話の流れからそう思ったんだけど…。フィンさんって多分俺が寝込んでる間に来てくれた人だろ?手を当ててくれた後で身体が少し楽になったからあれが治癒魔法だったんじゃねーの?」
「確かにフィンが来てくれたんで間違いないし、あれが治癒魔法なんだが……」
なんだ、何か歯切れが悪いな。ちょっと勘違いしただけだろう?そんなに母さんだと思われたくないのか?
「あー、フィンさんが母さんじゃないとして、じゃあ俺の母さんはどこにいるんだ?まさかすでに離婚してるとかないよな」
「あ、いや、うん。そのな、母さんはもう亡くなってるんだ。…スマンな」
「いや、なんで父さんが謝るんだよ。そっか、母さんはいないのか…」
何か変な空気になっちまったな。そうか母さんはもういないのか…。嫌なこと思い出させちまったかな。ついでに何か俺も食欲もなくなったな…。いや、食欲がなくなったのはメニューのせいか。
「悪い、まだ本調子じゃないみたいだ。ちょっと寝るわ」
「お、おぉ!それはイカンな。しっかり寝てちゃんと治せよ。まぁ、秘伝スープも飲んだし良くなる事、間違いなしだがな!」
「むしろアレのせいで具合悪くなった気がするわ!…じゃあ、おやすみ」
「おぅ!また後でな!」
そう言いながら出ていく父さん。あ、飯は置いていきやがった。俺は食わねぇぞ、こんなもん…。
「―――――」
ん?何か言ったか?父さんにしては声が小さくて上手く聞き取れなかったな。まぁ、おやすみとかそんなことだろ。
「………まさか、覚えてないのか?」
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