01:プロローグ 胡散臭い神様との出会い
『やあ、こんにちは』
へらへらと軽薄そうな男が話しかけてきた。若いような年寄りのような、いわゆる年齢不詳ってイメージだ。
「あんた誰?」
『そうだね、君にとってわかりやすい言い方をするなら私はあれだ、いわゆる神というやつが一番近いかな』
言うに事欠いて神様ときやがった。胡散臭すぎる…詐欺師のほうがよっぽどしっくり来るぞ。大体神とやらがいるとして、人間そっくりな時点でおかしいだろ。
『ん?神様らしくないって?そこはまぁあれだよ、人の形をしていたほうが何かと都合がいいだろう?』
『君が望むなら何やら神々しい姿にも、あるいは禍々しい形にだってなれるがね。それとも何かな、語尾に「じゃ」とかつけて話す幼女姿が良いかい?それとも妖艶な女性姿?まぁ、姿形なんてものは私にとってはさほど意味は無いのでね。このままで行かせてもらうよ』
「人の心を読むなよ…。しかしどうせなら女の方が良かったな…。いやまぁ、いかつい髭のおっさんとかよりはマシか?いや大差ねぇな」
こんな何も無いただ白いだけの空間に胡散臭いオッサンと二人きりって、なんの拷問だよ。せめて可愛い女とかそういう気遣いはねーのかよ。
『そんなことより本題だ。まぁ君も薄々思ってるかもしれないが、君は死んだ。今の君は魂みたいなものだね』
一蹴しやがった。ていうか今何って言った?死んだ?そういや俺、何がどうなったんだっけ…?頭に霧がかかったように上手く思い出せないな…。
「俺はなんで死んだんだ?」
『君の死因についてなんてどうでもいいさ。たいしたことじゃあない』
「いや、たいしたことじゃないって…俺にとってはかなり重要な事なんだが…」
『と言うかだね、思い出さないほうが良いことも世の中にはたくさんあるよ、うん。そんなことより先を見よう!君には新しい人生が待っているんだから!』
なんか強引に進めようとしてやがる。まぁ、今は話を先に進めるか。とりあえず心の中でこいつの胡散臭さにプラス1ポイント付けておこう…。
「まぁ、いいや。んであれか?新しい人生ってなんだ?言うからには特典とかあるのか?スゲーやつとか!」
新しい人生って言えば転生だよな!古今東西、転生とくれば特典だ。無限に物が入るカバンとか、英雄になれるような特殊能力とかな!
『特典?あぁ!特典ね。あるよあるよ。ただすまないね、好きな力を選べだとか、便利な道具を持っているとかそういうのは無いんだ』
なんだと…つかえねー。こいつ絶対ハズレ神だわ。そういうのが無くて何のために転生するんだよ。
『何?意味がない?得られるものも聞かずにせっかちだねぇ君は』
「うるせーな。転生っていったら道具とか才能もらって好き勝手するのが相場だろ。その辺りの一般人とは違う特別な存在になるんだろ」
『まぁ、そうだね…。なら一つだけおまけしてあげよう。君は【特別】になりたいんだろう?それなら心配はない。君が、君の人生が特別になるよう祈ってあげよう』
祈りって…祈るだけかよ。決定出来ないとか、やっぱハズレ神だな。どうせ末席の神とかそんなんだろ。ポイント追加1と…。
『祈りを馬鹿にしちゃあいけないよ。これでも力はあるほうでね。私が祈れば多少の無理くらいはね、通ってしまうんだよ』
また読みやがった。通るんなら最初っからそう言えよ紛らわしい。つーか力はある方、か。ならソコソコ期待は出来るか?
『話を戻そうか。特典についてだったね。便利な道具なんかは渡せないが、境遇みたいな細かな設定何かは一つ一つ決めていけるよ』
お、そりゃ大事なとこだな。生まれや見た目で人生大きく変わるしな。
『まずは君の生まれだが、無難に平民だね』
「平民かよ…。普通それなりに上流の貴族とか王族とかじゃね?すでにハードモードじゃねえかよ」
『うーん…人間の時点でずいぶんプラスなんだがね…。
動物とか化物に比べれば随分好条件だと思うけど…』
そんなん地獄じゃねえか。生まれた時から死と隣合わせとかやる気もおきねぇわ。
『まぁ、きっと平民のほうが色々楽しいさ。次はそうだね容姿にしようか。』
「おっ大事なとこだな。もちろんイケメンで頼むぜ。将来は背が高くて足も長い。そうだな、やっぱ金髪…いや、銀髪とかも捨てがたいか?すれ違う女が皆振り返るような好青年ってやつだな。んで年取ってもダンディズム溢れる老紳士になって、まだまだ若い者には…とか言うんだよ」
『欲張りだねぇ…でも却下かな。そういったのはきっと君をダメにするよ。老紳士のくだりは自分で頑張りなよ。まぁ、平均よりは整った姿形かな』
いちいちうるせえよ。どうせ世の中見た目が全てなんだよ。
つーかこの様子だと残りもたいして期待できそうにもねぇな。
どうにかイージーモードになるよう言いくるめないとな…
『あとは―――』
そんな感じで細々した事を決める事、数時間。
いい加減疲れてきたな。
結局コッチの意見は全部却下だったじゃねぇかよ。やれ駄目になるだの俺のためにならないだの、お前は母親かっつーの。と言うか特典じゃねえのかよ。
『――ふう、こんなところかな。色々付き合わせてすまないね。これで大体完了だ』
「ようやく終わりかよ。つーか俺の意見なんて聞く必要あったのかよ。全部却下しやがって」
『まともな意見なら聞いてあげられたんだけどね…。子供みたいなワガママばかり言われてもねぇ』
うるせえよ、ガキで悪かったな。
『じゃあこれで最後だ。これは君に選んでもらおうかな』
『どちらかを選んで欲しい。【小さな幸運と大きな不幸】か【大きな幸運と小さな不幸】』
うん?何言ってんだ、そんなん後者に決まってるじゃねえか。大きな不幸とか選ぶヤツ、馬鹿じゃねーの?
「それはあれか?小さな幸運だと回数が多いとかそんなのか?」
『そういった事には答えられないんだ。君の言うとおり頻度の差もあるかもしれない。あるいは回数を引き金に双方起こりうるかもしれない』
何かここに来て抽象的なのが来たな…。うぅん、普通なら迷うことないんだが、何せ胡散臭い神だしな…引っ掛けもありうる…。
『直感で決めておくれよ。魂に聞けって奴だね。まぁ、魂に聞いてるのは君じゃなくて私なんだがね!』
うるせえよ、上手いこと言ってやったみたいな顔すんなや。笑えねーよ。
しかし魂に聞けか…なら俺は――
『ふむ。そちらを選ぶんだね。よし、これで全て完了だ』
やれやれやっと終わったぜ。つーかアッチで良かったのか?いや、やっぱ逆のが正解だったか?今からでもやり直しを…
『ではお別れだ。月並みだが君の人生に幸ありますように。』
「あ、おいちょっと待て!やっぱさっきの質問―――」
言い終わる間もなく俺の足元にポッカリと穴があき、急速に落下していく。同時に俺の意識もなくなっていき―――
『さて、これで配置は完了か。まったく…慣れないことはするもんじゃあ無いね』
『しかしまぁ予想通りと言うか予定通りと言うか…。アレに期待するだけ無駄な気はするがねぇ。思慮の浅さと言い、思い込みの激しさと言い、そこらにいる平凡な魂だ。まず間違い無く力不足だろうに。
……とは言え、他ならぬ彼女の願いだ。貸しを作ったと思えば全くの骨折り損でもないかな』
『さぁ、君の願いは叶えたよ。彼がどうなるかは君次第だ…』
『――あとは私を、楽しませておくれ』