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最弱で最強  作者: 氷弓 皐
1/2

*1『英雄になりたかった少年』

――俺は、英雄になりたかった。

少年は思った。

小さい頃少年が読んだたった一つの本その主人公に憧れて少年はただひたすらに鍛えた。努力は必ず報われる。本の中の英雄が言っていたたった一つの言葉だけを頼りに、人に優しく、自分よりもまず人を優先して生きてきた。


そしてそれから数年後少年が騎士募集規定年齢に達すると、少年は騎士募集試験にという体裁の『戦力試験』を受けた。志願者は平均以上の戦力であればほぼ確実に合格ができる。

――英雄願望。それを持った少年はただひたすらにそれだけを目指してただ剣をふり、筋肉を鍛えた。


そうして、少年は試験に望んだ。

戦力の基準になるもの、それは【筋力】【魔力】【俊敏性】【気力】【技量】【現場対応力】の六つからなるA~Eの五段階評価それが戦力となる。試験は3日間この国の裏にある山に自分に合う武器一つと検査機と呼ばれるバッジをつけそれだけで3日、生き延びなければならない。山の上に行けばいくほど強敵が、麓の方には弱い敵が居る。


少年は決死の判断で評価的に半分の位置にある中点、つまり弱くも強くもないところに行く。颯爽に少年は駆ける。入り交じった木々の中をただ1人英雄といえば両手直剣でしょ? と言う判断故に少年はそれのみを振りかざしてきた。

故に少年の武器は、両手直剣。そして絶対に死者が出ない試験である。対人性はなく対モンスター性の特殊合金、この剣では絶対に人の血を流すことさえ不可能な合金。

それで出来た長く鋭利な、剣を少年は構えた……



……3日後。少年は試験の結果が書かれた布状の紙に書かれた六つ角の小さな星を見る。それは能力値によって形の異なる絶対に同じ形はできない小さな星(アスタリスク)状のグラフ。


「合格……圏内……。――ッシぁぁぁぁ!」


少年は雄叫びをあげた。ギリギリ点にならない程度の小さな星が意図するその無能さすらを忘れて……

かくして少年は《最弱の騎士》となった……。



もしこれに、【技量】と【現場対応力】が無いのならまだ期待はもてたかもしれない。最弱の印を押される者は大体秘めた技量や現場対応力があるのだ。

そして、最強の印を押されたものよりも活躍する。だが、この国、いやどの国でもこの六つの能力によって割り出されるグラフ、通称小さな星(アスタリスク)

それは明らかにほとんど変わらず一般人よりやや上、少し飛び抜けた現場対応力があったとて、それですら最弱。この鉱山の国では成人男性よりも劣っている騎士。それは詰まり《世界最弱》の印を押されているのと同義だった。


「よぉ、《最下位(ワーストワン)》、しっか働いているのか?」


そんな少年に与えられた地位は《最下位(ワーストワン)》の称号と、地球という世界での交番のお巡りさんくらいの地位。そしてこの世界では階級は与えられていなかった。階級の代わりに与えられたものが《最下位》の烙印。

地方の市内の見回りをしている《最下位》をからかいにそこを通り過ぎ、今からドラゴン退治に行くのであろう重装備をした同期入隊をした、《最強》の青年。

あれから一年と半分がすぎ、少年は《最下位》のまま、そしてこの筋骨隆々、歴戦の猛者たる顔つきの青年は《最強》の地位まで上り詰め、今や【大佐】の階級にある。


「これはこれはオーバスト大佐様、こんな地方都市までなんの御用でございましょうか」


オーバスト・クロイツェル。それが《最強》の青年の名だ。

この世界では一般的に世界語(ワールド)と呼ばれる公用語、つまり日本語(ジャパニーズ)を使うが、地方の都市となるとまだその文化が染み付いていなく地方語(ラント)を使う、それは大体独語(ジャーマニー)だ。

地方に飛ばされ、その言葉の壁に困っていた少年を助けてくれた一人の少女のおかげで辛うじて意思疎通はできるようにはなった。つまりなんとなくだが地方語(ラント)が使える。

少年がオーバスト大佐と呼ぶのには理由がある。地方語(ラント)で『オーバスト』という意味の言葉が存在する。その意味合いは『大佐』詰まりは少年は『大佐大佐』と言って心の中で嘲笑っていることにも気づかずにオーバストはその問に答える。


「いや、なんの。長い旅路しばし休憩を取ろうとしていたら、なんと奇跡的に(・・・・)《最下位》の方が飛ばされて行ったこの町が見えてな。」


そう皮肉的に言ったオーバストの言葉を少年は苦笑いをしながらも頷く。こう言ったことは初めてではない、ずっと隊の皆にこうバカにされるのだ。1年半という月日が経ってもう慣れはしたが。

そういかに重いか分かったものではない、軽く人の身長の二倍ほどある等身を持った大剣【龍斬(りゅうきり)】を積んだ荷馬がズシリと音を立てオーバスト一行は再びよくドラゴンが現れるという東の大門へと向かった。よくと言えどもひとシーズンに1度来るくらいの頻度だが、そのドラゴンは国の隊を動かしても倒せない場合があるためこうして大佐がはるばる足を運んでいるわけだ。


少年はオーバストを軽く見送りに付いていくと一人の踊り子の少女が道端で足をくじいているのに気がついた。露出の多い派手な装飾で飾られたそのほぼ下着にすら等しい服を着た金髪碧眼の少女。歳は少年と同じくらい。

弾力のありそうなその胸が重力に負けた体をささえて、痛みにその少女が疼く度にその胸が揺れる。

少年は慌てて少女の元へと駆け寄った。

傍若無人のオーバストの事だ、周りなど見ずに転んだこの少女の足を引いていったのだろう。


「だ、大丈夫ですか!?」


あまりにもの事態に少年は地方語で話すことを忘れ、世界語で少女にそう問いかけた。少女はその少年の問いかけに気が付き少年の方を向いた。


「助け……」


少女の発した言葉は世界語だった。

少年はこういったことに対しての知識は持ち合わせている。英雄になるために剣を振るおうとしたがその願いはもう絶対に叶わないだろう。そう諦めこの町に来た時に勉強資料用に買った1冊の、もう一つの英雄になり得るかもしれない本を買ってそれを解読した。

その本の名は……。『全ての怪我に対応できる! 応急処置方』という一種の医療関係の本だった。

――そう、もう一つの英雄に何得るかもしれない可能性。それは人を殺して、何かを殺して守る。それとは程遠く与えられる地位も名誉もほとんど無いだがしかし、個人にとっての本の僅かな英雄になる方法。それがこの本で学んだ応急処置だ。

知識によって人を救う。それが少年があり付いた最弱なりの考えだった。

少年は常に常備していたりする固く長い棒を少女の荷馬に轢かれ赤く腫れ……それどころではないような尋常な傷に、アルコール消毒液を数滴垂らし、包帯を巻き、それを当てた後にもう1度しっかり固定するように包帯をまく。

少女はそのアルコール消毒の痛みと、アルコールの冷たさにひゃうっ! と可愛げな悲鳴をあげてきつく長くて硬いものを入れられ巻き付けられている足に締め付けられるような痛みを感じる。


「今から、医者に連れて行きます、建てないと思いますので俺に捕まってください」


「は、はい……」


そう言われるがままに、少年の首元に背後から手を回しできるだけの力を込めて這い登る、はい登る度に押し付けられるそのふくよかな双方に少年はドキドキしながらも、それをなんとか手助けし、少女の尻部に失礼します。と言い手を回す。

布切れがないそこにはしっかりとしたお尻の感触が手に伝わってくる。

医者の位置はもちろん覚えている、どこにいても最短ルートをだ。

何度か小さな通りを通り、くねった道を正確に進んでいく、怪しげなこみちに連れられていく少女としては、心が落ち着かなかったが見たことのある大通りにつくとその呼吸は正常に戻った。

そしてそのまま少年は駆け、数メートル先にある医者に付いた。医者に見てもらい骨が砕けきっているということで全治5ヶ月ほどらしい。それゆえに踊り子(ダンサー)の少女ガックリと頭をたれた。

地方の医者なので色々と医療用ベッドなどの設備が整っていないため、とにかく少女が泊まる場所が必要だ。


「どこか、泊まれる場所は……。できるだけ介護のできる……」


少年は地方語でそう呟いた。

町の人口はそう多くない、少年は疎か小さな子供でさえ全員友達的な関係だ。

その中にこんな少女は存在しない、詰まりはこの町の住人ではなく流浪の踊り子(ダンサー)


「それならいるじゃろ? 適任が……」


その医師の地方語と共に少女はこちらを向いた。

少年は一連の流れを見る感じ世界語と地方語の両方を話せるようだ。だがどこか地方語は少年と同じくぎこちない発音だ

たしかに適任だ。しかし……。俺には……

私的な恋路と、昔からの英雄願望どちらが勝るかなど明らかだ。


「はい、その役目このリッタ・エロイカが努めさせてもらいます」


そう、少年――リッタは深々と礼をし、少女はそれに続き自己紹介をする。

医者にアンタと言われているとおり、少女はまだ名前を明かしていなかった。


「私はテンツァー・ディスティです。どうぞ、テンツとお呼びください、不束者ではありますが介護お願い致します」


そう、少女――テンツは椅子に座ったまま深々と礼をしたまるで、初夜を過ごす男女のようにふたりは初々しく。

――あう……異性と同棲なんて……。知られたら絶対に嫌われる……

そう一つの後悔を残して少年は英雄への扉を開いた。



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