旅立ち
「そうか、行っちまうのか」
目を細めているのは朝日が眩しいからだけではない、濃ゆい顔を直視しない為だ。
「お世話に・・・なりました。朝飯と服まで貰ってしまって。でも、さすがにこれ以上は」
その顔を見ていたくないです。服もちょっと匂います。
「あ、あれだよ。娘を助けて貰ったお礼だ。気にすんな」
濃い口醤油の背後にいるスーパーモデルを見る。
助けた?俺が下心で一人踊りを踊りに踊ってビンタされただけな気もするが。
その表情からはスーパー何も分からない。ガードが固い、指輪欲しいって言いそう。
「ありがとう、ございました」
深々と頭を下げる。肌寒い外気が気持ちいい。
そっか、俺人生やり直したんだっけ。
見慣れない風景、帰る家すらないこの世界で。俺はちゃんとやっていけるんだろうか、一抹の不安がよぎる。
「おう、そっか。行っちまうのか・・・」
濃い口醤油の歯切れも悪い。
「そうだ、良かったらこれ」
カッパを手渡す。一瞬嬉しそうな顔をする濃い口醤油、凄く嬉しそうな顔をするスーパーモデル。お前も欲しかったのか。
「でも、いいのか?」
「はい・・・」
着てたら蒸れるし無駄に目立つ、この体なら風邪も引かないだろう、多分。
「こいつは売ってもそれなりの値がつく。俺じゃそんな金払えねぇや、返すぜ。借りは作らねぇ主義なんだ」
売る、か。そんな選択肢なかった。
ならなおさら黙って受け取れば良かったのに、案外いい人なのかこの醤油。
じゃあ、とカッパを返して貰・・・えない。
離せ、醤油。欲しいのか要らないのかどっちだ。そしてその背後でスーパーモデルがスーパーデンジャラスに俺を睨んでいる。悪いのは俺じゃない!なんなんだこの親子。
「あ、あの・・・」
「おお、悪い。指が引っかかっちまって」
なんて分かりやすい嘘なんだ。
「じゃ、じゃあ・・・」
早く離れよう、スーパーデンジャラスがスーパーサイコパスに進化する前に。
「なんだぁ、お兄ちゃんじゃねか」
「おーおー」
なんて間の悪い人たちだ・・・人?ドワーフってなんて言うんだ、まぁいい。
「すいません、急ぐんで」
「なんだ、どこ行くんだぁ?案内するぞ」
「ワシら物知りだー」
どこへ行くんだ?そうだ、そんなの決まってる。
「ちょっと冒険の旅に」
「ほう・・・」
「おー」
自分で言った台詞にニヤニヤが止まらないんですが、それを悟られないように颯爽と歩き出す。
「おう、そこのドワーフども。人の恩人に何してんだ」
背後で元ヤン醤油の声がする。またからんでる・・・。悪い人じゃないとは思うが、荒い。
「人が誰と話そうがオラたちの勝手ってもんだぁ」
「もんだもんだー」
どうしよう、俺のせいでケンカが始まりそうだ。でも、もう関わりたくない。どうしよう・・・。チラと背後を覗き見る。
「ピックとペックじゃねぇか、何してんだお前ら」
「アニスの旦那ぁ」
「アニスアニスー」
ハイタッチしてるー、仲良しか!
小さい方はハイタッチだけど、それに合わせてしゃがんでる方は・・・ロータッチ?
あれ?スーパーモデルがスーパー逃げていく。ドワーフが苦手なのか?
ああ、そういう・・・?
何はともあれ人助けはした、という僅かな自尊心を持って、俺の冒険は幕を開けた。
「・・・どこ行こう」