神よ、俺に力を
「気は済んだかい?」
「いや、俺は自分のこの手で大空を」
「そうじゃなくて、やり直した人生が数十分で終わった事の。感想というか、反省は」
見回すとそこはかび臭い、爺臭い四畳半の一部屋で、
「これはあなたのイメージです」
「そしてまた考えが読まれている。読心術?」
「分かってますよね?」
「神よ!俺に力をください!」
「そう来るのも分かってました。でも、少し考えてみてください」
「お願いします!土下座でもなんでもします。はい、しました!あのヒゲ面小学生に勝てるぐらいの力を俺に!」
「頭を上げなさい・・・、というか人の話を聞きなさい」
「神と和解せよ、その意味がやっと俺にも」
「分かってません」
「信じる者は救われる」
「信心のカケラも感じません」
「ツボ買います」
「怒りますよ?」
「いいじゃんかよー、俺だっていい思いしたいんだよー。想像よりちょっとデカかったけど美人ゲットできそうなんだよー」
「・・・分かりました」
「ほんとに!?」
「・・・いわゆる地獄の方にでも行って貰おうかと思いましたが、それでは余りに忍びない」
「なんで!?」
「少しは自分で考えなさい!では、筋肉をつければいいんですね。・・・分かりました」
「ムッキムキはやめてね!細マッチョって感じ?」
「・・・はい」
「あ、そういえばさ。俺の頭、へこんでない?」
「どうしてですか?」
「さっき投げ飛ばされた時、頭に何か当たったような。めり込んだような感覚が・・・」
「治しておきます。では行きなさい」
「やっぱりへこんでた!?」
意識が遠のく。
獣の匂いがする・・・。
目を開くとヒゲ面の小学生が俺を心配そうな顔で見下ろしていた。
「おお、目ぇ覚ましたぞぉ!」
「良かった良かったー」
俺はなぜ悪漢どもに心配されているのか。目を上げるとスーパーモデルが、やはりでかい。少し安心しているように見える。
ふふ、こいつツンデレか。
俺の前で喜びのダンスを踊るヒゲ小学生を横目に、俺は勢い良く立ち上がる。おお、体が軽い。いや重い?まるでバネのようだ・・・。なんということでしょう!
俺の体は何かにコミットした後のように、みずみずしい筋肉をみなぎらせているのでした。
はい、ビフォーとアフターの画像どん!
「じゃあもうあんまりオイタすんじゃねぞぉ」
「そうだそうだー」
「それはこっちの台詞だ」
今度は油断しない、こいつらはただの髭ガキじゃない。凄く力の強い髭ガキだ。
「どうしたぁ?頭でも打ったか?」
「打った打った、めり込んだー」
髭ガキの指差す方向に血まみれの鋭利な岩が・・・・!見えたが気にしない。きっと殺人事件でもあったんだろう、名探偵が解決してくれるさ。真実はいつもボッチ!ってな。
「今度は容赦しないぜ」
「うちで、休んでくかぁ・・・?」
「だなー・・・」
なぜか俺を心配してくれる優しい悪漢に、しかし俺は正義の鉄拳をくれてやらねばならい。for the ハーレム!(ハーレムの為に!)
「食らえぇ!」
高い位置からチビどもの頭上に全体重をかけて右手を振り下ろす。結果にコミットする俺のコミットパンチ!
あれ?人殴った事ないから殴り方なんて分かんねぇや、きっとへっぴり腰で不恰好に見えるだろうけれども、一心に!
振り下ろす!
「おっと、危ねぇ」
ああ・・・、鈍い音とコブシに広がる大地の温もり。人は大自然の一部だったんだ。俺はついに真実に辿り着く。このまま地球を抱きしめたい。そして三日三晩眠りたい。
「いっ・・・いてぇ」
「だ、大丈夫かぁ?」
「ひぃー」
おかしいな、指がおかしな方向に曲がってる。超能力だ。曲げるのってスプーンの方じゃなかったっけ?
口から光の柱のような悲鳴が飛び出しそうになるのを必死で抑え、なんともないと言いたげな笑みをスーパーモデルに送る。
変な汗を体に感じる。
「とっ、とりあえず落ち着けぇ?手当てだな、指と、頭か・・・?」
「頭悪いのは神様でも治せねーぞー」
その通りだ。いや、なんて失礼な奴らだ。
・・・それよりも、痛い、痛い、痛い。痛いいいいいいい!指が!指が!指が!
「どどどっどうする?凄く痛そうだぁ」
「おめぇが慌ててどうするー。まずは当身を一発食らわせて」
「そうだ、当て木だぁ」
痛い、痛い、痛い。ヒゲの漫才が頭に入ってこない。くそう、許せん。なんか腹立つ、こいつらに絶対一発食らわす!
「動くなよ、今当て木してやっからなぁ?」
「ううう・・・、うがあ!」
今だ!とヒゲに向かって残った左コブシを振り下ろす。と、またコブシに大地の暖かさ。ああ、俺は地球の一部にいてえええええ!
「いてええええええ!」
「動くなっつったろぉ。あああ、こりゃひでぇ・・・」
「もうワシが泣きそうだー・・・」
痛い痛い痛い痛い、もうダメだ考えてられん。
「ブンブンして!ブンブン!」
「え?な、なんだぁ?」
「グルグル、ブンブン!さっきの!」
「あぁ、振り回せば血液が頭の方行ってー、痛みがマシに・・・なるか?」
「おっしゃ、そりゃいくぞぉ。ブン、ブン!ってこの布滑るんだって、あ」
「あー」
「わーい」
俺は翼の折れたエンジェル、だからもう飛べないんだ。それでも空に憧れて、ええっと、後言うべき事は、ベグシャッ。