新たな旅出
「で、何があったんだ?」
小さなオッサン達が倒れたモンスターをスプラッタな儀式で分解している間に、俺はこの数分であった事を簡潔に説明してみる。
「調子に乗ってました」
「うん。・・・で?」
簡潔すぎた。
順を追ってみよう。
覚えた魔法で走り出す→うおォ、俺は人間火薬庫だ→飛ばない魔法はただのお荷物→戦うことが無理なら俺が背負って逃げてやる!
えーっと、これらを通じる日本語で。
「魔法が使えると思って魔物に突っ込んで行ったら何の役にも立たなくて、噛み付かれたけどそのまま背負って戻ってきました」
「・・・そうか」
諦めたような何とも言えない顔をされる、そうしたいのは俺の方だ。そんな濃い顔には成らないけど。
「あの・・・いいですか?」
お、エルフみたいな人。
存在感薄いけどでかい、でかいなぁ。スーパーモデル級にでかい、180ぐらいあるんじゃないの。
「僕なりに考えてみたんです、あなたの魔法について・・・」
そう、それだ。このエセ教師の教え方が悪いせいで、俺は覚えた魔法で走り出す。
「魔法にはいくつか種類があって、僕が使えるような回復・強化系は自分のイメージを相手に伝え(中略)それと違い攻撃魔法は精霊の力を借りる為の魔術言語や術式を必要とし(後略)」
スヤァ・・・。
ハッ、寝てません!起きてました。まだ映してないんで黒板消さないで!
えー、一言で言うと。俺のは召還系らしい。
ならそう言えよ、長いんだよ。
俺と一緒に話聞いてた濃い顔も、理解と表情が追いつかなくて顔面が痙攣している。
怖いよ、見てられないよ!やっぱりこのオッサンも脳筋なのね。
そして、感動的な俺たちの旅立ち・・・。
別れを惜しむ兄妹。
凛々しい冒険者(濃い口)と現地妻。
心優しいドワーフ1・2と村娘。
ホラー映画のサイコパスとクリーチャー。
・・・俺の扱いむごくない?
しかし俺は振り返らない、妹の方の視線が怖いからじゃない。
さっさとこの力を使いこなして、俺は俺の冒険をスタートさせるんだ。このがん首そろえたオッサンたちを、次々と解雇という名のギロチンにかけてなぁ!
はい、それまではお世話になります。
っていうかさ、荷物減ってない?
「ああ・・・、あれは、その」
珍しく歯切れの悪い濃い口オヤジ。
「悪魔祓いだぁ」
「色々調合したなー」
あっけらかんとドワーフオヤジ、デリカシーのカケラもない。
あー、そういう事ね。ドラキュラにニンニク的な、あれ。奇妙な素材を調合して俺に憑いた悪魔を祓おうとしてたのね。それのせいで俺は肉体的にも精神的にもかなり限界まで追い込まれた訳だが。
・・・ん?俺がおかしかったのって本当にこいつらのせいじゃない?
「さすがに神は落とせねぇってな」
「だなぁ」
「わーははー!」
あれ?この人たち笑ってる。笑ってるんですけどー、誰か退治してー、絶対許せないー。
「護身用に、妹に色々持たせました。ありがとう・・・」
俺に言われても、まぁ俺のお陰っちゃお陰だけどさ。
一晩で色々あったな、男の怖さも優しさも知って、一回り成長したロレーナ。
今夜も妄想がはかどるなぁ。