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9話

 探索と休憩を繰り返し、一行は最奥にある広い空間へと辿り着いた。

 かつては祭祀場として使われていたようで、奥には祭壇があり、いたるところに柱が立っていて視界は悪い。


「ここにも何もありませんでしたね」


 クラマ達はひととおり探索したが、持ち帰れそうなものは何もなかった。


「さて、まだまだ行っていない所はありますが、今日のところは来た道を戻って帰りましょう。皆も疲れたでしょう」



> クラマ 運量:7012 → 6489/10000(-523)

> クラマ 心量:75 → 66(-9)

> イエニア心量:329 → 307/500(-22)

> パフィー心量:397 → 371/500(-26)

> レイフ 心量:450 → 427/500(-23)



 まだ余裕はあったが、同じ距離を戻るとなると、半分まで減ってからでは遅いのがダンジョン探索というもの。

 一行は大部屋から通路へと引き返すが……


「……クラマ?」


 クラマが考え事をして遅れていたので、イエニアが声をかける。


「ああ、ごめん。ちょっと運量の使い方を思いついたから、使ってみていいかな?」


 後は同じ道を戻るだけなので、運量が必要になる場面もないだろう。と、イエニアは許可を出す。


 クラマは考えていた。

 運量を使用するにあたって、おそらくポイントになるのは「具体性」と「直接的な目標を避ける事」だ。

 例えば「罠が発動しないで欲しい」よりも「経年で罠が壊れて作動しないで欲しい」と具体的理由を示した方が運量の消費が少なく、さらには「罠のある場所に小石が2個落ちていて欲しい」と願い、最初から罠のある場所を回避した方が、少ない運量で「罠にかからない」という結果を得ることができる。


「エグゼ・ディケ――」


 金目のものが欲しい時に「宝箱が欲しい」では大量の運量を消費して空の宝箱が手に入るだけだろう。

 つまり、もっと別の言い方をする。


「――普通では気が付かない事に、気付きたい」


 運量を使った後に、運任せ。

 これがクラマの導き出した答えだった。


 そこで突然、通路と繋がっている大部屋の入口、その真上から、パラパラと砂が落ちてきた。

 クラマが見上げるが……上の方は真っ暗で何も見えない。


「あれ、なにか……ありそうですね」


 夜目が効くイエニアがよく目を凝らして見て『何かあるかも』程度のもの。

 また、柱が邪魔して物理的に視界に入りにくい場所でもあった。


「登ってみましょう」


 イエニアはレイフの荷袋から鉄釘を2本取り出すと、土の壁に突き刺して器用に登っていく。


「ちょ……鎧、鎧脱がなくて大丈夫?」


「平気です! この鎧、見た目よりもかなり軽いんですよ!」


「いやいやいや、軽いったって……」


 クラマの心配もなんのその、あれよあれよという間にイエニアは壁を上っていく。


「いやあ……びっくらこいた」


「どうですか皆さん! 私、目立ってますか!?」


 金色の鎧は薄暗い中でも、はっきりと存在感を放っていた。


「最高に輝いてるよー!」


「ありがとうございまーす!」


 クラマが上のイエニアに手を振っていると、パフィーの目が揺れているクラマの札に留まる。


「あら? クラマ、これ……」


「うん?」


 パフィーに言われて自分の札を見ると……



> クラマ 運量:6489 → 0/10000(-6489)



 運量が切れていた。

 そして上からイエニアの声が聞こえてきた。


「あっ、卵があります! これは……すごい! フォーセッテの卵ですよ!」


 どういう事かと、クラマはパフィーに解説を求めた。


「フォーセッテは風来の神の眷属と言われている、とても希少な鳥よ! 希少すぎて生態がほとんど分かっていないし、卵となるとさらに貴重で、取引が行われた記録すらないわ!」


「おおーっ! まーじかー!」


「まじよ、まじ! すごいのよ!」


 飛び上がって喜ぶ2人。


「あのね、みんな? とても楽しそうなところに、申し訳ないのだけれど」


 クラマとパフィーの視線がレイフに向く。

 レイフは人差し指を上に向けて言った。


「なんだかすごい怖い目で睨まれてない?」


 クラマとパフィーは指の先を見上げる。

 見ると、イエニアの真上に煌々と輝く2つの光。

 うっすらと見える巨大な鳥のシルエットで、それが両目の輝きだと知ることができた。


「ヴェオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 まるで地獄から噴き出たような、鳥類とは思えぬ重低音の咆哮が大気を鳴動させる。


「うわーーーーーーーーーーーーッ!」


「イエニア! 降りて降りてー!」


 イエニアはガーッと鉄釘を壁に滑らせて、一気に壁を下る。

 ガシャンと金属音をたてて地面に膝をつくと、すぐに立ち上がった。


「逃げますよ!」


 一同、全速力で通路へ走る。

 上空からは全長5メートルはあろうかという緑色の鳥が降りて……いや、落ちてきていた。

 巨鳥はボールのような丸々とした体に、大きな翼を取り付けたような体型。

 一見して羽の大きなひよこのような可愛らしいシルエットだったが、凶悪な眼光に、ノコギリじみたクチバシが、ファンシーなイメージを消し飛ばしてくれる。


 ズズンと地響きをたてて地面に着地する鳥。

 巨鳥は大きな翼を横に広げると、大気のうねりを巻き起こしながら豪快な羽ばたきを見せる!


「おうわっ!?」


 走って通路へ逃げ込んだクラマだが、猛烈な突風を受けて転倒する。


「ヴェオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 クラマが体を起こすと、目の前には巨大なクチバシ広がり――


 ガヂィィィッ!!!


 間一髪、足の先から数センチのところでクチバシが閉じる。


「イエニア……ありがとう」


 すんでのところでクラマを引き寄せたのはイエニアだった。


「立てますか? まずは離れましょう」


 緑の巨鳥はその巨体が仇となって、通路までは入って来られない。

 ただ小さく唸り声を漏らしながら、鋭い眼光でクラマを睨みつけていた。


 そうして鳥の目が見えなくなるほど離れてから。


「卵があれば親鳥がいるのは当然でしたね。危ないところでした」


「あの鳥は倒せないの?」


 クラマが尋ねると、イエニアは即答した。


「無理ですね。分厚くて固い羽と皮、それに脂肪のために、剣も打撃も通りにくい。そもそも前に立った時点で、あの羽ばたきで全滅です。壁に張り付いた血の染みになりますよ」


「うへえ。じゃあ魔法とかでも無理?」


「準備があれば、魔法で倒せる可能性もなくはないのでしょうが……」


 イエニアはちらりとパフィーを見る。


「無理だと思うわ。羽ばたきされると詠唱が止まってしまうもの。風も届かない遠くからだと効果は弱くなってしまうし……」


「それじゃあしょうがないね。諦めよう」


「魔法もそんなに色々できるわけじゃないの。ごめんなさい」


 クラマはよしよしとパフィーの頭を撫でた。


「……ところで卵は?」


 クラマの言葉にイエニアは腰の後ろにあるポシェットを探ると、緑色の卵を取り出した。


 4人は、イエーイとハイタッチを交わして喜んだ。




「そういえばクラマに魔法を見せていませんでしたね。道中、機会があればやってみましょう」


 と、イエニアが提案してしばらく歩くと、一行は獣の亡骸を発見した。


「丁度いいですね。パフィー、あれの探知をお願いします」


「ええ、まかせて」


 パフィーは亡骸の前に立ち、呪文を唱える。


「オクシオ・オノウェ! イーオ・ツニウ・ツウィポウェ・ツウゥ・イィーフ・ドゥシー」


 パフィーが装着している胸当てから、淡い光が浮かぶ。

 詠唱が進むたびに、クラマは波のような響きを感じていた。


「どうして彼は死んでしまったの? 手が汚れているのは誰かしら? いつまで待っても、答えはいつも向こう側。さあ、5つめの扉を開きましょう。――オクシオ・センプル!」


 詠唱を終えた瞬間、見た目こそ変わらないものの、クラマの感じていた波長が一気に広がり……そして消えた。



> パフィー心量:371 → 343/500(-28)



「……終わったのかな?」


「ええ、調査は完了したわ。この子はおよそ1ヤーウ前……地球の単位だと3時間くらい前に、遭遇した冒険者に斬られて死んでしまったみたい」


「そんな事まで分かるの?」


「情報を構成する第五次元オノウェを操作して、必要な情報を検索するの。でも古い情報は精度が落ちるし、調べたいことをきちんと指定しないといけないから、なんでもすぐに分かるというわけではないけれど」


 運量の使い方と似ているな、とクラマは思った。

 パフィーの説明にイエニアが補足する。


「近付くことさえできれば未知の罠でも解除法を得られる可能性がありますし、他にも魔法によるオノウェ探知はいくらでも使い道があります。ダンジョン探索においては、魔法使いに最も求められる役割ですね」


「でもね、過信しちゃだめよ。禁止されている事だけど、オノウェを乱して探知を困難にすることもできるから。その時は魔法使い同士の技量の勝負になるわ」


「……なるほどね」


 古い情報は難しい、指定が必要、妨害の可能性がある、それと心量の消費という縛りはあるが、その有用性は計り知れない。

 運量と、魔法による情報検索。この2つがダンジョン探索のキーになりそうだと、クラマは予感した。


「さて、解体しましょうか」


「かいたい」


「見たところ、まだ使えるところがたくさん残っています。あまり狩りの得意でない冒険者のようですね。あ、クラマはどうします?」


「やります」


「大丈夫ですか? 顔色が少し……」


「ダイジョブだよー、ゼンゼン問題ナイヨー」



> クラマ 心量:66 → 61(-5)



 獣を解体した後は、何事もなく帰り道を進んで、ダンジョンの入口へと到着した。

 ようやく長い探索が終わると安堵する一行。

 しかし梯子を登って地上に出た彼らの前に、予想外のアクシデントが待ち受けていたのであった。



> クラマ 運量:0 → 72/10000(+72)

> クラマ 心量:61 → 57(-4)

> イエニア心量:307 → 300/500(-7)

> パフィー心量:343 → 333/500(-10)

> レイフ 心量:427 → 418/500(-9)


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