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8話

 爪トカゲの解体を終えて探索を再開していると、クラマはふと思いついた。


「そういえばさ。危険な動物がいたら、僕が運量で倒せばいいんじゃないかな。心臓マヒさせるとか」


 それに対してパフィーが答える。


「それね、だめなんだって」


「そなの?」


「うん。知性ある生物はヨニウェの殻によって物質的・霊的に守られているの。でも、こういうお話は分からないわよね?」


「帰ったら詳しく教えて欲しいな。とりあえず、知性がある生き物には、運量を直接使えないって事でオーケー?」


「ええ、オーケーよ」


 クラマはなんとなく、この世界ではたくさん地球人が召喚されているのに、いまだにダンジョンが攻略されていない理由が分かったような気がした。

 今こうしてダンジョン内で、色々と運量を試してみて実感できた事でもある。


 運量は使いにくいのだ。それも、かなり。


 簡単な願いをしたつもりでも一気にごそっと運量を持って行かれることがあり、長いダンジョンの中で切らさずに使うのは難しそうだった。

 早いうちに、効率的な使い方を覚える必要がある。クラマはそう感じていた。


「あっ、みんなー! ちゅうもーく!」


 レイフが突然、手を挙げた。


「私たちが今いる場所が、ちょうど家の真下よ」


「へえー、よく分かるね」


「どう、すごいでしょ?」


 ダンジョンに潜ってから数時間は経つ。

 ここまで暗くて複雑な道を進んできたので、クラマは既に方向感覚すらなかった。

 クラマが感心していると、レイフはいたずらっぽく舌を出した。


「なーんてね。実は他の冒険者から、1階の地図をもらってたの。だからカンニング」


「そっか。先に入ってる人がいるなら、地図も誰かが作ってるはず」


「でも一晩だけじゃあ、1階の地図しか写させてもらえなかったのよね。1階だけに1回ってね」


「このひとは、下ネタかエロい事を喋ってないと生きていけないんすかねぇ!?」


「あら失礼しちゃう」


 と言いつつも、レイフは笑っている。

 そんな2人のやり取りを見て、パフィーは首をかしげる。


「1階で1回って、どういうことかしら?」


「ハイみなさん! この辺で休憩にしましょう! パフィー、レイフ、食事の用意をしますよ!」


 両手を叩いて強引に話を切り替えるイエニア。

 ハーイと返事をして、それぞれに支度を始める。


「ふぅー、どっこいしょ」


 レイフがずっと背負っていた大きな荷袋を降ろした。

 荷袋を開くと、中から調理器具や携帯食料、ロープ、水袋、小型ハンマーなど、様々なものが詰め込まれていた。


「よく背負ってたねー、こんなの」


「そうなのよ、もうくたくた。後はみんなおねがーい」


 レイフはぐったりと横になってしまった。


「一緒に支度しましょ、クラマ! わたしが教えてあげる!」


 パフィーと2人で荷袋を漁るクラマ。


「……なにこれ?」


 先から糸の出た玉ねぎのようなボールを、クラマは手に取った。


「それは煙玉よ。その線を引き抜くと、煙が出てくるの。たいていの獣は怯んでくれるから、便利なのよ」


「ほうほう」


「それよりクラマ、お鍋を取ってくれる?」


「ハイヨー」


 パフィーの指示に従って、クラマは食事の準備を進める。

 鍋を火にかけたところでイエニアが現れる。


「深くまで潜ったら、こうした調理はできないでしょうけど。獣を呼び寄せますし、何より水は貴重です」


 確かに水の重要性はクラマも実感していた。

 緊張のせいか、探索中はひどく喉が渇く。


「それでは今日は、先ほどの爪トカゲの肉を入れましょう」


 一口サイズに切った肉を、イエニアが鍋に投入した。

 調味料を入れて、待つことしばし……


「ごはんのにおいねー?」


 完成を知らせるようにレイフが起き上がった。


「はい、どうぞ」


 イエニアがよそって、それぞれに配る。

 肉と調味料を入れて煮込んだだけの簡素な鍋料理だが、その味は果たして――


「うーん……うむぅん……」


 まずくはなかった。

 しかし味が……というか、何か色々と足りない感をクラマは感じていた。

 肉も固い。良い言い方をすれば歯応えがある、と言えなくもなかった。


「あらあら、微妙な顔」


「地球人は食べ物の味にこだわるらしいわ。クラマもそうなのね」


「そうなんですか? こんなにおいしいのに……」


 クラマはなんとも言えなかった。

 なんとも言えないので、クラマは今後の課題として心に留めておくことにした。


 食後はしばらく休憩の時間がとられた。

 その間にクラマは、あらかじめパフィーに頼んでおいた『探索中に消費した運量の数値と願いの内容、その場面の詳細』が書かれたノートを読み込む。


「……パフィーは本当に頭がいいなあ」


 クラマの思惑を把握して、ツボを押さえたシチュエーションの記録がされている。

 まだまだデータは足りないが、少しでも傾向を掴み取ろうとクラマは目を走らせた。



 休憩時間終了。

 探索を再開しようという時、クラマは皆の心量が目に留まった。



> クラマ 運量:10000 → 7012/10000(-2988)

> クラマ 心量:85 → 75(-10)

> イエニア心量:350 → 329/500(-21)

> パフィー心量:422 → 397/500(-25)

> レイフ 心量:473 → 450/500(-23)



 クラマが首からネックレスのように金属の札をかけているのと同様に、イエニアは手甲に、パフィーは胸当てに、レイフはズボンのベルトに貼り付けていた。


「結構みんな心量減ってるね」


「ええ、心量は普通に生活しているだけでも少しずつ減っていきますから。しかし慣れない環境にいると、それだけで減りは大きくなります」


「普通は1日で10減るくらいよね」


 自分の腰を覗き込みながら言うレイフ。

 レイフは今、昨日のダンサー衣装と違って、普通に露出を控えた作業着を着ていた。

 しかし一方、パフィーは昨日と変わらぬフリルのドレスだった。

 今さらながらにクラマは尋ねる。


「パフィーは動きやすい服の方がいいんじゃないの?」


 それ以前に、危険だ。

 イエニアが難しい顔で答える。


「そうなのですが……魔法には極度の集中が求められますので、本人が集中しやすい格好でないと、魔法の成功率が落ちてしまうのです」


「なるほど。でもやっぱり危険じゃないかな」


「ええ。1階では問題ないでしょうが、階層の状況によっては、着替えてもらう場合もあるでしょう」


 クラマとイエニアのやり取りを聞いて、パフィーがしゅんとする。


「ごめんなさい。わたしが慣れてないから……」


 クラマは膝をついてパフィーに目線を合わせ、優しく肩に手を乗せて言う。


「大丈夫。慣れてないのは僕もだから、これから一緒に慣れていこう」


「クラマ……うん! わたし、がんばるね!」


「ああ、期待してるよパフィー」


 クラマが腰を上げると、今度はレイフが難しい顔をしていた。


「……どしたの? 変な顔して」


「いえ? 私は別にいいのだけど……子供好きの男の人って、どうなのかしらね?」


「なにか重大な誤解がある気がするね!」


「だって心量回復してるし……ねえ?」


> クラマ 心量:75 → 78(+3)


「いやいやいやいや、かわいいものを見て心が癒されるのは、至極当然のことではないかな?」


「ふうん? ……そうね?」


 レイフはまったく信用していない様子だ。


「はいはい、雑談はそれまでにして進みますよ」


 もはや恒例となりつつあるイエニアの軌道修正を受けて、探索は再開された。


挿絵(By みてみん)


友人にレイフの絵を描いて貰いました。

ありがとうございます!

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