62話
一行は別の部屋に移って、パフィーが落ち着くまでしばらく待機した。
> クラマ 運量:9200 → 9222/10000(+22)
> クラマ 心量:187 → 182(-5)
> イエニア心量:473 → 452/500(-21)
> パフィー心量:247 → 210/500(-37)
> レイフ 心量:400 → 372/500(-28)
> イクス 心量:395 → 392/500(-3)
「パフィー、本当に大丈夫?」
「ええ! 心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」
そうして気を取り直して探索を再開した。
隠し部屋を出てからは地下4階を地道に足で探していく。
……が、そう簡単にはトゥニスの足跡は見つからなかった。
運量によるサーチで、この階層を探せば発見できることは分かっている。
一行はそれを信じて、ひたすら探索を続けた。
残っているいくつもの罠を回避して、遭遇する様々な獣を撃退し、何度も休憩を挟みながら進んでいく。
途中で地下5階への階段も発見したが、スルーして4階の探索に戻った。
> クラマ 運量:9222 → 8344/10000(-878)
> クラマ 心量:182 → 129(-53)
> イエニア心量:452 → 390/500(-62)
> パフィー心量:210 → 169/500(-41)
> レイフ 心量:372 → 314/500(-58)
> イクス 心量:392 → 339/500(-53)
クラマ達は、以前に見た爪トカゲの生産プールを壁で挟んだ場所まで来ていた。
そこで当てのない探索にも変化が訪れる。
「ねえ、なんだかこのあたり罠が多くない?」
レイフの指摘にクラマは頷いた。
「そうだね。明らかに罠が密集してる」
「という事はつまり……」
「うん。この近くにいる可能性が高い。気をつけて行こう」
クラマの言葉に3人も頷き、一同は警戒を強めて通路を進む。
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その様子をワイトピートはモニター越しに眺めていた。
ニィッとワイトピートの口の端が歪む。
「フフ……とうとうここまで来たか。もう目と鼻の先だね」
ここは施設内をモニターできる監視室。
爪トカゲ生産プールが隣にあるので食料には不自由せず、なおかつ扉は生体認証が必要なので獣や冒険者に襲われる心配もない。隠れるにはうってつけの場所だった。
モニターを眺めて笑みを浮かべるワイトピートに、部屋にいたトゥニスが話しかける。
「なぜヒウゥースの追っ手よりあいつらが先に来るんだ。お前、ヒウゥースの追っ手が来るからここも長くもたないと言っていたじゃないか」
トゥニスの言う通り、ワイトピートはここに来た当初そう言っていた。
ヒウゥースはダンジョン内の完全な地図を所持しており、中の仕掛けも熟知している。すぐに隠れ場所は暴かれる……はずであった。
ワイトピートは両手を広げて肩をすくめた。
「さて、なぜだろうか。想像はできないこともないが、分かったところでどうにもなるまい。解なき妄想よりも今は、来客の応対について考えようではないか」
「そうだな……どのみち追っ手が来たら、こいつらがいる限り逃げられない」
そう言ってトゥニスが横目で見た先。
10日前から一向に容態の良くならない死にかけの2人が、毛布にくるまって苦しげに唸っていた。
「なに、この場所を選んだのはモニターで監視できるという理由だけではない。裏道を通って彼らの背後を取れるからさ。きみにはその役を頼もう。私はここで彼らを出迎える」
「分かった。あの双剣の男が来ていないのなら、それで何とかなるだろう」
「うむ。念のため、これも持っていきたまえ」
ワイトピートはブローチつきのマントをトゥニスに手渡した。
「これは?」
「自分の出す音を少なくする魔法具さ。奇襲がしやすくなるだろう」
「他にもいろいろ溜め込んでそうだな」
「はは! それはそうさ。冒険者から奪った品はヒウゥースに譲ることになってはいたが……わざわざ守ってやることはない。もっとも……今まではほとんど使えなかったがね」
ワイトピートらは冒険者を襲う際には救助隊の装備をしていなければならず、持っていけるものは限られていた。
また、魔法は使用すると近くの人間に感知されてしまう。
感知されない遠くから使用していても効果が持続し、なおかつ救助隊の装備の中に忍び込ませられるものというと……残念ながら今まで冒険者から奪ったもので、そんな都合の良いものはなかった。
しかし、ワイトピートにとってはそこは大した問題ではなかった。
かつて帝国軍特殊部隊に所属していた彼は、対魔法戦闘を心得ている。
彼にとって戦闘における魔法とは大規模戦で行使されるものであって、少数戦闘の場で戦局を左右するものではなかった。
特に奇襲する側にとっては、全く恐れるものではない。
彼自身は魔法使いではないが、詠唱を聞けばある程度の効果を予測することができる。そのように訓練を受けている。
奇襲が成功すれば相手が詠唱できるのはせいぜい一度きり。
奇襲を許し、パーティーが半ば崩れた状態で一発逆転できる魔法とは何があるのか?
こちらはある程度の効果を予測し対応できて、なおかつ負傷した相手の仲間を盾にすることもできる。
故に、仮に少数戦で奇襲される側が魔法を効果的に使えるとしたら……奇襲が通用せず、さらにその後の追撃も完璧に凌ぎきる事ができる優秀な前衛と……味方を巻き込まない魔法具を用意していた場合のみである。
すなわちそれが、クラマ達のパーティーだった。
不完全ではあるが似たような構成でイクスも離脱することができた。
とはいえ、これだけ条件が揃っていたクラマ達でさえ敗北したのだ。
自らは魔法を用いずに、魔法使いを倒す。
ワイトピートはその方法を確立していた。
「フフ……しかしこの私が、魔法具を使って戦う時が来るとはね。ははは、よりどりみどりだ! 年甲斐もなく心が躍るね」
いくつもの魔法具を手にして、子供のようにはしゃぐワイトピート。
その様子を見てトゥニスはため息をついた。
「私はもう行くぞ。遊んでいないでお前も準備しろ」
そう言って彼女はクラマ達の背後をとるべく裏道への扉をくぐって行った。
トゥニスが去った後、ワイトピートはひとりごちた。
「そうだね。では、私も準備を始めるか……」
そうして、ワイトピートは床の上で苦しみにあえぐ2人の部下に目を向けた。
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> クラマ 運量:8344 → 8219/10000(-125)
いくつもの罠を抜けた先に、その扉はあった。
壁面とあまり変わらぬ、白と緑のサイバーチックな扉。
取っ手はない。ドアノブもない。
クラマは骨鍵を取り出した。
開ける前に、背後の仲間たちを見る。
イエニア、パフィー、レイフ。
クラマの視線に対して、皆一様に頷き返した。
扉に向き直ったクラマは、そっと扉に骨をあてた。
固唾を飲んで見守る一同。
そして扉は開かれた。
開いた先から光が漏れる。
中はホールのような大部屋。
その、扉から向かってまっすぐ正面に、男はいた。
ワイトピート。
「ようこそ! よく来たね諸君、歓迎しよう!」
心の底から嬉しそうな声が響き渡った。




