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51話

> クラマ 運量:10000/10000

> クラマ 心量:89

> イエニア心量:494/500

> パフィー心量:450/500

> レイフ 心量:495/500

> イクス 心量:471/500


 クラマ達が地下4階へ挑戦する日がやってきた。

 準備を万端に整え、いつも通りに入口で手続きをして、いつも通りに地下深くへと潜っていく。

 イクスはあらかじめ貸家に開いた穴から直通で地下に潜り込んでいる。

 待ち合わせ場所は、イクスがクラマ達と出会った3階の小部屋上部。

 後から地下に降りたクラマ達も滞りなく歩を進めて、集合場所へと到着した。


「ここまでにだいぶ歩きましたので、一度休憩してから4階へ進みましょう」


 イエニアの提案により休息をとる。

 食事や水分の補給を済ませた一同は、改めて地下4階へと出発した。



> クラマ 運量:10000 → 9813/10000(-187)

> クラマ 心量:89 → 87(-2)

> イエニア心量:494 → 488/500(-6)

> パフィー心量:440 → 435/500(-5)

> レイフ 心量:495 → 490/500(-5)

> イクス 心量:471 → 467/500(-4)



 地下4階への階段はすぐそこにあった。

 わりと広めの階段を、一列になって降りていく。


「……長くない?」


 最後尾のレイフから、そんな言葉が口をついた。

 レイフの言う通り、階段は長かった。

 しかも途中でカーブしたり幅が狭くなったりする。

 先頭を歩くイクスが答えた。


「あと半分くらいかな」


「そんなにぃ~?」


「でしたら、着くまでは荷物は私が持ちましょう」


「あ、いいの? ありがとー」


 イエニアがレイフから荷物を引き取った。

 その間、クラマは考えていた。

 このダンジョンの規則性のなさについて。


「……パフィー、このダンジョンってさ。ひとつのダンジョンじゃないよね?」


 唐突にクラマは問う。

 後ろを歩くパフィーは少し驚いてから答えた。


「そうね、複数のダンジョンが繋がっているものと考えられるわ。元々、ダンジョンは地下に埋もれた古代遺跡。意図的に地下に作られたものじゃないのよ」


 この階段はダンジョンの一部ではなく、後世の人々がダンジョンに潜るために作られたものということだ。

 これまで下に潜るための階段は梯子状のものだったので、その違いにクラマは納得した。

 しかしそれは同時に、別の事実を浮き彫りにする。


 『最奥にすごいお宝が眠っている』というわけではないという事だ。


 もちろん人の手がつかない古代の遺跡なら、あらゆるものに歴史的価値があるだろう。

 しかしそれが役に立つかどうかは別だ。

 極端な話、最奥の遺跡が古代のエロ本専門店という可能性すらある。

 それはそれで役に立つのだろうが、人が古代遺跡に期待するものとは違う。


 ――自分は何のためにダンジョンに潜っているのか。


 クラマは思う。

 それは彼女達と約束をしたからだ。

 必ずダンジョンの奥に連れて行くと。

 ……では、彼女達がダンジョンに潜る目的は?

 彼女達のついた嘘は暴いた。

 しかし、それを受けてもなお、ティアが真実を語ることはなかった。

 それはすなわち、「クラマに知られてはいけない目的がある」ということだ。


 ――だとしたら、自分は……。




「ついたよ」


 直線的な緑の模様がついた、白い壁。

 イクスがそれに手を触れると、壁が裂ける。

 ……いや、壁が裂けたのではない。それはドアだった。

 中から薄ぼんやりした光が漏れる。

 果たしてこの中に、求める答えがあるのか。

 クラマは不確かな光に誘われるように、地下4階のフロアへ足を踏み入れた。






 そこは3階と同じく、しっかりとした壁と道がある人工の施設だった。

 しかし3階の造りとは大きく違っていた。

 3階は中世地下牢を連想させる石を敷き詰めた様式だったが、こちらはなんというか……“近代的”という印象をクラマは受けた。

 途中で区切られていない、しっかりとした一枚の白い壁、そして床。

 白い壁にはいくつもの緑の線が入っている。

 近代的というよりはむしろ、“未来的”というのか、サイバーチックな雰囲気が漂っていた。

 そのフロアについて、パフィーが解説する。


「これは地上の遺跡にも多く残っている建築様式ね。《神の粛清》以前のものにはオノウェ調査がきかないから、まったくと言っていいほど解析は進んでいないのだけど……」


 未知のものだが、珍しくはないらしい。

 兎にも角にも新しいフロアを探索……というところだが、探索に関してひとつ大きな変更があった。

 ここからはクラマではなく、イクスが先頭を進む。


「わたしは一度来たことあるから。だいたいわかる」


 代わりにクラマには別の役目があった。


「エグゼ・ディケ……付近に僕ら以外の人が近づいてきたら、コインがぶつかって音を鳴らして欲しい」


 3階でも使用した形式の、運量の使い方。

 棒にくくりつけた2つのコインが音を鳴らしたら確認するというやり方だ。

 そしてさらにもうひとつ。


「エグゼ・ディケ……僕ら全員が罠の被害を受けないように」


 ここは運量の消費を承知で、あえて範囲を広く設定した。

 このフロアにイクス達を襲った危険な“何か”が潜んでいるのは分かっている。

 となれば、それと対峙する前に戦力を削られるわけにはいかない。

 運量は生物に直接作用しないという性質上、戦闘には不向きなので、探索で出し惜しみはしない。少なくなったら、無理せず地上に戻ればいいのだから。

 ……というのが地下4階での方針だ。


 クラマが運量の使用を終えたところで、イクスが告げる。


「じゃあ行くよ。ついてきて」


 全員が頷いて、地下4階の探索が始まった。






 ――カッ!


 飛来した矢が白い壁に突き刺さった。

 それは、イクスが投擲したダガーによって糸が切られて発動した罠だった。

 イクスは他にも罠がないかと注意深く周囲に目を向ける。


「……ん、大丈夫」


 イクスはダガーを拾って進み、一同はそれに続く。

 探索を開始してからこれまでに、6つの罠を彼らは抜けてきていた。

 扉を開けると中から飛んでくる矢。

 置かれた食料を動かすと上から落ちてくる毒液。

 棚に置かれた本を取ろうとすると手を挟むトラバサミ。

 うつ伏せに倒れ、動かすと槍が飛び出る死体。

 作動用の糸を切ると横から飛んでくる振り子の刃。

 椅子を動かすと発生する毒ガス。


 イクスもすべては看破できず、いくつかはメンバーが巻き込まれそうになって運量が消費されていた。



> クラマ 運量:9813 → 8032/10000(-1781)



 ここまで地下4階を見てきて、クラマはおかしな点を感じていた。

 ひとつは、施設の備品や書類などが一切見当たらないことだ。

 途中で机や棚、ロッカーのようなものを見つけてきたが、出てきたものは罠ばかり。

 3階までは「先に入った冒険者に探索され尽くしている」という触れ込みだったが、4階はそうではないはずだった。

 まだ入り口が近い場所なので先人に持ち去られている可能性はあるが……それならそれで、別のおかしな点が浮上する。


「イクス、この階の罠って全部こんな感じなのかな?」


「……こんなってどんな」


 イクスは足を止めてクラマに聞き返した。


「いや、なんか……3階は部屋自体、壁自体が罠とか多かったけど……この階って、後から作られたような罠しかないなって思って」


 クラマの言葉にイクスは少し思案してから答える。


「……そう、だね。建物自体の罠は、ないと思う。たぶん」


 仕掛けられている罠は、いずれもブービートラップと呼ばれるものだった。

 人が触れそうな所、近付きそうな所に仕掛けて、かかった者を殺傷する罠。

 言ってみれば標準的な罠だが、それだけにおかしい。


 ――なぜ入口近くにこんな罠が残っている?


 こんな一度発動、あるいは解除したら二度と使用できなくなる罠が。

 明らかに遺跡の備え付けではなく、遺跡に来た人間が、後から来た人間を殺すために仕掛けた罠。

 という事はすなわち……。


 やはり、いるのだ。

 冒険者を襲う人間が、この階層に。


 キン、キン……!

 コインがぶつかる音。

 クラマの手元にある棒にくくりつけられたコインから。

 クラマは運量を確認した。

 これが鳴るということは――



> クラマ 運量:8532 → 8473/10000(-59)



 いる。

 近くに何者かが。


 各自、周囲を警戒する。

 すると通路の奥、曲がり角の先から、何人かの足音が近づいてくるのが分かった。


「……下がってください」


 イエニアが前に出て先頭を張る。

 全員が固唾を飲んで見守る中、クラマ達の前方に人影が姿を現した。


 顔を出したのは、髭を生やした壮年の男。


「おや……珍しい。他のパーティーですか」


 紫色の瞳に黄色い髪の、学者風の男だった。

 その後ろから姿を現した仲間のひとり、長身の優男が、クラマを指さした。


「おっ! 最近よく見る顔じゃないの。もうここまで降りてきたのかい」


 クラマもにこやかに手をあげて応えた。

 イエニアがクラマに問う。


「クラマ、知り合いですか?」


「うん、冒険者ギルドによくいるよ。四番街の酒場の二階に住んでる人たち」


 素性の知れた冒険者であった。

 イエニアは最低限の警戒をしつつも、彼らと談笑して情報交換を行う。


「5階はやばいよぉ? 食人植物に気をつけな」


「私の髭も多少むしられてしまいました。……ところで少しよろしいですかな。ひとり人数が多いようですが……」


 冒険者ギルドの規定では、ひとつのパーティーに4人までとなっている。

 5人連れのクラマ達を見れば、疑問が出るのは当然だ。

 クラマがそれに対して答える。


「あ、仲間とはぐれたそうで、保護してるんですよ」


 と言って、イクスを指す。


「ふむふむ、なるほど……おや? その顔……」


 何かに気付いて、イクスの顔を覗き込もうとする冒険者の男。

 その瞬間、イクスは身を翻して逃げ出した!


「あっ! 待て!」


 イクスは魔法具を発動して身を軽くすると、瞬く間に姿を消した。



> イクス 心量:467 → 437/500(-30)



「え? なに? どういうこと?」


 何も知らない体でクラマは疑問符を並べる。


「彼女は指名手配されている仲間殺しの凶悪犯です。危ないところでしたよ、君たち」


「えぇーっ!? そうだったの!?」


「ちゃんとギルドの掲示板はチェックしときなさいよ。危ないぜぇ?」


「いやあ、気付かなかったね。ありがとー」


「オウ。じゃ、俺らは帰るからな。気ぃつけろよー」


 そうして手を振りながら彼らは地上に続く道へと歩いていった。

 クラマも彼らの姿が消えるまで手を振り返す。


 それから、しばらくして。


「……行った?」


 壁の影からイクスがひょこっと顔を覗かせた。


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