紫の挿話 1
あれから何日経っただろう。
20日? 30日? 日の光の差さない地下では、時間の経過が分からない。
ここでは定期的に鳴る腹の虫だけが、時が経つのを教えてくれる。
くぅぅぅ。
おなかが鳴った。
また食べ物を探しに行かないと。
でも3階から下はひとりじゃ狩りができない。
2階から上も、最近は冒険者っぽくない装備の連中が目を光らせてて怖い。
どこかでまた油断してる冒険者を探さないと。
10日くらい前に盗んだ食料と水はとっくに尽きていた。
罠にかかった小動物を生のままかじるのはもう嫌だ。
吐き気をこらえて血の一滴まで絞り出して飲むのに、慣れてきてる自分がまた嫌になる。
くぅぅぅ。
つらい。ひもじい。
どうしてわたしがこんな目に。
やっぱり何も知らない地球人を、自分たちのために利用しようなんて考えが悪かったのか。
わたしは反対してたのに。
でも最後には同意したから、わたしも一緒か。
みんなは無事だろうか。
トゥニスは腹を刺されていたから難しいだろう。
地球人と逃げたオルティは……分からない。
でも、これだけダンジョンの中にいて、一度も会わないのだから多分もう……。
あの地球人も、わたしたちが喚び出さなければこんな事にはなってなかっただろうに、本当に悪い事をした。
でも今はそれより自分のことが問題だ。
ダンジョンの奥で変なやつらに襲われて、助けを求めて地上に出たら、今度は警備員が襲いかかってきた。
それ以来ずっとダンジョンに籠もって、小動物を狩ったり、他の冒険者の荷物から食料を盗んで飢えをしのいでいる。
他の冒険者に助けを求めることも考えたが、どのみち地上に出るには検問を通らなくてはならないのだ。
それに身を隠して冒険者たちの話を聞くに、どうやらわたしはギルドから指名手配されているようだった。最悪だった。
いつかは逃げるチャンスがあるかもしれない。
みんなはまだ生きてて、襲ってきたやつらに捕まってるだけかもしれない。
だったら、わたしが助けないといけない。
そう思ってこれまで頑張ってきた。
だけどもう限界だ。
外に出るあてはない。
いつまで耐えればいいのか分からない。
今にも襲われて獣の餌になるかもしれない。
頑張って生き延びたとしても、永遠にここから出られないんじゃないだろうかという気さえする。
……でも、多分そうはならない。
今日、心量が尽きた。
これまで生き延びるために頼ってきた魔法も、もう使えない。
くぅぅぅ。
おなかがすいた。
心も体も、わたしの中はからっぽだ。
松明もない。
真っ暗闇の中を、這いずるように歩いた。
――諦めたらいけない。
わたしが助けないと。
みんなを助けないといけないのだから。
だけどもう、本当に本当におなかがすいて。
おなかを切れば、おなかがすくこともないんじゃないかとか。
足の肉でも切って食べてもいいんじゃないかとか。
そんなことばかり頭に浮かぶ。
涙も出ないくらいにカラカラで。
わたしが助けなきゃいけないのに。
みんなを助けなきゃいけないのに。
カサカサの唇から漏れたのは、別の言葉。
「だれか……たすけて……」




