23話
レイフの起床時間になったところで起こし、一同は帰還を開始した。
> クラマ 運量:9370 → 9163/10000(-207)
> クラマ 心量:85 → 82(-3)
> イエニア心量:371 → 367/500(-4)
> パフィー心量:474 → 472/500(-2)
> レイフ 心量:391 → 390/500(-1)
帰り道はマッパーであるレイフの指示通りに進む。
「えーっと、こことここが繋がってるから……」
「確かこの付近でイーノウポウ……舌伸び大熊と戦ったはずです」
「あ、そうそう、そうね。だからこっち……」
レイフが地図をめくりながら歩く方向を変えた時だった。
レイフがつるりと足を滑らせる。
「あいたっ! ――あら? あ、ちょ、っと」
尻もちをついた先は傾斜になっており、レイフはそのまま坂を転がり落ちていった。
「ひゃああああああああ!?」
「レイフ!!」
3人は足元に気をつけながらレイフを追って坂を降りる。
だいぶ長い坂を下ったところでレイフを発見した。
「あいたた……いやぁ目が回ったわ」
レイフの無事を確認して、一同は胸を撫でおろす。
坂の下は狭い穴ぐらだった。
地下1階の通路を思い出すが、高さも横幅もそれより狭い。
「岩は滑りやすいですから、気をつけてくださいね」
「ごめんなさい。でも、こういう所の奥にお宝があったりしないかしら?」
「そんな都合のいいこと……」
イエニアがランタンで周囲を照らす。
すると、目の前に、あった。
長い顔に毛皮を纏った大きな体。
イーノウポウ――舌伸び大熊である。
「――っ!?」
全員が息を呑んだ。
いきなり目の前に獣が現れた事もあるが、さらにその巨体。
前に遭遇したものよりも、二回りは大きい。
成体だった。
「走って!」
こんな狭い場所では戦えない。
捕まれば押し潰されるだけだ。
4人は全速力で穴ぐらの中を走った。
舌伸び大熊は獰猛な唸り声をあげると、クラマ達を追ってきた。
足の遅いパフィーはイエニアが小脇に抱える。
幸いにも穴ぐらが狭すぎて、舌伸び大熊は全力で走れていない。
このまま広い場所に出れば……という時だった。
「あっ!」
レイフが岩の出っ張りに足をとられて転倒する。
「レイフ……!」
イエニアが振り返った時、そこには既に反転して駆け出しているクラマの背中が見えた。
「エグゼ・ディケ――」
走りながらクラマは唱える。
クラマがレイフのもとへ着いた時には、異様に長く伸びた大熊の舌が、レイフの足に絡みついていた。
「――喉の奥まで突き刺され」
唱えて、狙いを定めることを放棄する。
クラマはただ、渾身の力で真っ直ぐ棒を突き出した!
> クラマ 運量:9163 → 9057/10000(-106)
グボォッ、と吸い込まれるように長大な棒が大熊の口に飲み込まれる。
同時に伸ばした舌も口の中へと巻き戻されていく。
レイフが大熊の舌から開放されて、大熊は苦痛にのたうった。
「レイフ! 立てるか?」
「う……あれ、体が……」
舌伸び大熊の唾液には麻痺毒の成分が含まれている。
クラマがレイフを担いで顔を上げると、既に立ち直っている大熊が、しっかりと目の端に自分達を捉えているのが見えた。
大熊は眼前の獲物へと動き出す。
そこへ、金色の鎧が立ちはだかった。
「――ファウンウォット・シヴュラ!!」
> イエニア心量:367 → 337/500(-30)
駆けつけながら詠唱していたイエニアは、発動句を叫ぶと同時、盾の一撃を叩き込む!
大熊の動きが止まる。
しかしそれも、一時的に怯ませるだけであった。
以前とは体格のまるで違う成体。しかも正面からの打撃では、脳を揺さぶることができない。
イエニアもそれは承知の上だ。
大熊が動き出すよりも先に、クラマに代わってレイフを背負い、走り出す。
そして――
「クラマ、伏せて!」
イエニアの指示から、ひと呼吸の後。
岩窟に満ちた陰湿たる暗闇を、駆け抜けた紅蓮の炎がまばゆく照らし上げた。
----------------------------------------
少し前。
クラマを追って駆け出す前に、イエニアはパフィーに指示を出していた。
「オクシオ・ヴェウィデイー」
パフィーはすぐさま詠唱を開始する。
危険はあるが、安全な作戦などを立てている時間はない。
「ヤハア・ドゥヴァエ・フェエトリ」
――クラマが大熊に棒を突き込んでレイフを救出した。
――しかしレイフが動けず逃げられない。
「燃える、燃える、燃え落ちる。やさしい音の古時計。たくさん描いた似顔絵も。いじわる好きの影鳥も。今ではみんな、すすのなか」
――イエニアが盾殴りで大熊を怯ませる。
――ダメージはない。
――イエニアがクラマからレイフを引き受けた。
「さあ、4つめの扉を開きましょう」
――イエニアが叫んで、クラマ達は壁に寄って身を伏せる。
「フレインスロゥア」
> パフィー心量:472 → 422/500(-50)
----------------------------------------
クラマの目に映ったのは、パフィーの胸当てから一直線に伸びた真っ赤な炎。
炎は勢いを止めずに噴き出し続ける。
耳には獣の叫び声が背後から聞こえていたが、炎の熱気から身を隠すのが精一杯で、振り向いて確認することはできなかった。
クラマが傍を通る熱気に耐えきれなくなった頃、ようやく炎が消えた。
背後を覗き見ると、体毛が燃え落ち、ところどころが黒炭と化して、こんがりと焼き上がって倒れる大熊の姿があった。
クラマは安堵に息をついて、伏せていた体を起こす。
「クラマ、息を吸っちゃだめ!」
その時、遠くからパフィーが叫んだ。
クラマが頭に疑問を浮かべた次の瞬間、その視界がぐにゃりと捻じ曲がった。
起き上がろうとしていた体がぐらりと揺れる。
一切の抵抗などできず、そのままに。
奈落に落ちるように、クラマは意識を失った。
> クラマ 運量:9057 → 9058/10000(+1)
> クラマ 心量:82 → 63(-19)
> イエニア心量:367 → 332/500(-5)
> パフィー心量:422 → 415/500(-7)
> レイフ 心量:390 → 386/500(-4)