22話
クラマ達はそれからも、滞りなく地下2階の探索を続けた。
ダンジョンの中では時間の感覚が薄くなるが、時刻はおよそ夕刻に差し掛かる。
> クラマ 運量:9527 → 9370/10000(-157)
> クラマ 心量:89 → 81(-8)
> イエニア心量:386 → 371/500(-15)
> パフィー心量:484 → 474/500(-10)
> レイフ 心量:404 → 385/500(-19)
「今回はクラマの運量も多く残っているので、夜営の練習をしましょう」
イエニアの提案により、ダンジョン内で一夜を過ごすことに決まった。
一行は周囲を警戒しやすい場所に陣取り、夜営の準備を行う。
「はぁ~、もー疲れたわ~」
難度の高いマッピングにより、レイフは心身ともに疲れた様子だった。
「外の時間ではまだ寝るには早い頃ですが、みんな疲れたでしょうから、交代で休みましょう」
2人ずつ交代して就寝と警戒をしようという事になるが、そこでクラマが提案した。
「運量で獣に見つからないようにすれば、見張りなしで休めるんじゃないかな?」
なるほど、といった目で皆がクラマを見る。
しかし寝ている間に運量が切れる可能性もないとは言えないため、1人ずつ交代で警戒を行うことになった。
「エグゼ・ディケ……寝ている間に野生動物に見つからないように」
クラマの体が金色に光り……そして収まる。
これで準備は完了した。
まずはイエニアが見張りを行う。
交代順はクラマ、パフィー、レイフ。
順番が決まるや否や、レイフはいちはやく毛布にくるまって寝始めた。
「おやすみなさ~い」
「あっ、だめよレイフ。毛布は一枚しかないんだから!」
「ん~? スピュ~……」
パフィーが声をかけた時にはもう寝ていた。
「よっぽど疲れてたんだなあ……」
「しかたないわ。レイフには、わたしたちのぶんの荷物も持ってもらってるもの」
そう言いながらパフィーは、レイフが被った毛布をシワのないように伸ばす。
「よいしょ……うん、これなら3人なんとか入れるわ!」
パフィーはレイフに背中を押し付けるようにして、毛布に潜り込んだ。
そうして横になった状態で、毛布に隙間を開けてクラマを誘う。
「さあ、クラマ。いっしょに寝ましょ?」
クラマは躊躇して、二の足を踏んだ。
毛布にしっかり入ろうとすれば、中で密着することになってしまう。
「どうしたの、クラマ?」
パフィーの純真な瞳がクラマを見つめる。
「……いや、それじゃあ僕も失礼して……」
クラマも毛布に入り、クラマとレイフでパフィーをサンドイッチする形になった。
やはり狭い。が、パフィーは気にせずニコニコしていた。
「うふふ、こうやってみんなで寝るの、久しぶり!」
「前は誰かと一緒に寝てたの?」
「ええ、私の他にも先生には弟子がたくさんいたから。……あ、クラマ。肩が出ているわ。もっと詰めて?」
クラマが詰めると、完全に隙間がなくなり密着する。
パフィーが苦しいのではないかとクラマは心配したが、むしろ喜んでクラマの胸元に顔を埋めてくる。
小さな体。
クラマは改めてパフィーの幼さ実感していた。
そして脳裏によぎる。
もし誰かに「こんな小さい子をダンジョンに連れて行って大丈夫なのか」と言われたら、自分はどう答えたらいいだろう……と。
しかし丸一日ダンジョンを探索して疲弊した体は、クラマに深く思索することを許さず、横になった途端に夢の中へと滑り落ちていった。
> クラマ 心量:81 → 85(+4)
しばらくするとクラマはイエニアに起こされ、見張りを交代する。
イエニアは見張り時の注意をいくつかクラマに告げてから、パフィー達の側で横になる。
鎧を着たままでは狭い毛布に入り込めないので、仕方がなかった。
クラマが見張りを開始して、小一時間ほど経過した頃だった。
コツ……コツ……と暗闇の奥から物音が聞こえてきた。
運量を確認するが、減っていない。
クラマは皆を起こすべきかと迷ったが、まずは軽く見える所だけ確認してみることにした。
メガネを取り出して装着。
足音を殺してゆっくりと。
そ~っとランタンを前に掲げて、物音のした方を照らす。
……何もなかった。
目を凝らして見えたものといえば、やや遠くにいくつかの小石が落ちていたくらい。
クラマはしばらく暗闇と睨めっこしていたが、何かがいそうな気配はなかった。
そうしてクラマが踵を返した時だった。
「……え?」
眠っている皆の枕元。
荷袋をあさる人影があった。
そいつはクラマの声に気付くと、バッと弾かれたように飛び退いた。
「みんな、起きて!」
クラマは叫びながら考える。運量を使って捕まえるべきかどうか。
だが、その人影はまるで雲のような身軽さで、岩から岩へピョーンと飛び移る。
「うっそでしょ……!」
クラマが運量を使う暇もない。
人影は瞬く間に闇の中へと消え去っていった。
「…………忍者?」
およそ人間とは思えぬ身軽さだった。
クラマに分かるのは、ランタンの仄暗い光に映った相手の漠然とした姿。
薄青色の髪と、体を覆うローブ。小柄な体格は、おそらく少女のものと思われた。
「クラマ……? どうしたの?」
「何かありましたか?」
クラマの声で起きてきたイエニアとパフィー。
レイフはまだ寝ていた。
クラマは2人に先ほど起きたことを説明して、荷袋の中を確認する。
すると持ってきた携帯食料と、捕らえた隠れ岩ねずみがない。また、4つあった水袋もひとつになっていた。
「水がなくなったのは痛いですね。これでは探索を続けられません。レイフが起きたら、すぐに帰還しましょう」
「見張りを減らしたりしなければ……」
クラマはいいアイデアだと思ったのだが、裏目に出てしまい後悔する。
「いえ、他の冒険者の存在を考慮に入れなかった私のミスです」
「しかたないわ。みんな賛成したんだもの。暗い顔しないで?」
「……うん。ありがとう」
クラマがガックリときている理由は他にもあった。
携帯食料の中にあったドライフルーツは、貧しい食生活の中の唯一の癒やしだったからだ。
次は必ず捕まえる。
クラマはそう決意した。