20話
地下1階は人工的に掘り進められた炭坑のようなイメージだったが、対する地下2階はまさに天然の洞窟であった。
壁も足場もすべて岩で出来ており、通路の大きさも不規則。
高低差も激しく縦横無尽に入り組んだ、自然によって作られた迷宮であった。
「うわああ~……聞いてはいたけど、これはきっついわね~」
マッパーのレイフが激しく嫌な顔をする。
クラマもこんな所の地図を書けと言われたら、自分だって頭を抱えるだろうと思った。
「ここはかつて神の怒りに触れた古代人が滅ぼされた《神の粛清》の折に、天の滝によって大小様々な穴を穿たれた山脈が、長い時間をかけて埋もれたものと考えられています」
「神の粛清……天の滝ってのはあれだよね、空に4つある」
この世界では、東西南北の空に地面から巨大な管が伸びており、その頂点から滝のように地面へと水が落ちてきていた。
地球では有り得ない異様な光景であり、クラマが「ああ、違う世界に来たんだなあ」という実感を抱いたのも、外に出て天の滝を目にした時であった。
「そういえば、クラマにはこの世界の神について話していませんでしたね」
「帰ったら、わたしが教えてあげる」
クラマがパフィーと約束を取り付けると、改めてダンジョン攻略へと向かう。
「マップはある程度は妥協をして、目印をつけて進んでいきましょう」
イエニアが壁に剣で印を刻みながら、後は1階と同様にクラマが先行して、でこぼこの岩場を慎重に進んでいく。
歩きながらイエニアが探索の注意点を述べる。
「2階も1階と同じく、冒険者の出入りが多いので人工的な罠はほぼないでしょう。しかし滑りやすい岩もあるので、足元には気をつけてください」
クラマは棒を小脇に抱えて片手を空けておき、必要な時のみ両手で持つようにする。
「それから、こんな地形ですから探索も隅々まで行われていません。1階と違って危険な生物が潜んでいる可能性もあります」
それ以外にも適宜イエニアのアドバイスを受けつつ、クラマは注意深く探索していく。
そうしているとクラマは不意に、あるものに気がついた。
「みんなストップ。レイフ、網貸して」
クラマはレイフから投網を受け取ると、やおら靴を脱ぎ、棒の先端に取り付けた。
棒の先についた靴を手前からぺた、ぺた、と少しずつ奥へ進ませる。
クラマのいる位置から2メートル半ほど靴が進んだところで……
「キィィィィイイイッ!! ギッ! キィッ!」
まるでガラスを引っ掻いたような耳障りな鳴き声とともに、何もなかったように見えた壁から何匹もの小動物が飛び出し、棒の先端についた靴に飛びついた!
「よしきた! そらっ!」
クラマは構えていた網を投げる!
投網は見事に獲物を捉え、クラマは計4匹の小動物を捕獲した。
「クラマ、すごーい!」
背後の3人から歓声が上がった。
イエニアは網の中でぐったりしているそれらを確認する。
「これは……サイヨロアーピント。別名、隠れ岩ねずみですね。鍾乳洞などの岩場に生息して、壁に擬態して通った生き物を襲う獰猛な生物です。よく気が付きましたね」
深く感心しているイエニアに、クラマは答える。
「うん、壁の両側に細いフンがいくつか落ちてるでしょ? それがあったらこいつに注意しろって、ギルドにいた冒険者の人達に教わったんだ」
「そうでしたか……冒険者はライバルとなる他の冒険者には、タダで情報を与えることを嫌うものですが……珍しいですね」
レイフもしげしげと隠れ岩ねずみを眺める。
「へえ~、目も耳も鼻もないのね。そんなに危ないやつなの、これ?」
「ええ。集団で狩りを行い、獲物が人間であればまずアキレス腱を強靭な顎で食いちぎり、逃げられなくしたところで、2~3日かけてゆっくりと全身を貪っていきます」
「うわぁ……」
生きたままじわじわ食われることを想像したのか、レイフは引きつった顔で後ずさった。
捕獲した隠れ岩ねずみはイエニアがしっかりしめてから、レイフの荷袋に入れられた。
イエニアによれば、
「皮を剥けば、似ても焼いても全身あますところなく頂けます。滋養強壮にもいいんですよ」
とのことだった。
それからもクラマは他の冒険者から得た知識で危険を避け、運量の消費を少なく抑えて探索を進めていった。
> クラマ 運量:9572 → 9527/10000(-45)
> クラマ 心量:94 → 89(-5)
> イエニア心量:423 → 416/500(-7)
> パフィー心量:489 → 484/500(-5)
> レイフ 心量:411 → 404/500(-7)