表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/115

19話

「というわけで、皆様よろしくお願い致します」


 翌朝。

 朝一番に現れたティアは皆に向けて挨拶をすると、そのまま朝食の支度を始めた。

 しばらくすると食卓に野菜を中心とした料理が並び、全員で囲んで朝食となった。


「あのさ、言っていい?」


 歓談しながら和気藹々と食事をしている中で、耐えかねたといった具合にサクラが声を発した。


「――狭くない?」


 狭かった。

 テーブルには皿が乗りきらず、料理に手を伸ばせば隣の人間に肘が当たる。

 食卓を囲んでいるのはクラマ、パフィー、レイフ、イエニア、サクラ、一郎、次郎、三郎、そしてティア。

 合計9人が、本来5~6人用のテーブル席に着いているのだから、あまりに当然すぎる話であった。


 しかし今さら感の溢れる話なので、乗ってきたのはレイフだけだ。


「狭いわよね~。何度クラマの肘に胸をつつかれたことか」


「なるほど確かにそういった事実があったことは認めるけど、僕は不可抗力を主張したい!」


「まぁ私から押しつけたんだけどね」


「トラップ仕掛けるのやめて」


 レイフはけらけらと笑ってから、少しだけ真面目なトーンに戻す。


「でも今日からもうサクラ達は戻って大丈夫よ。昨日のうちに手配が回ってないのを確認したから」


 素早い仕事に感嘆の声が上がる。


「すごいね。どうやって調べたの?」


 そんなことを尋ねたクラマに、レイフは目を細めると、舌先をちろりと出して唇を濡らし、そっと囁いた。


「聞きたい……?」


「……いや、大丈夫です」


 だいたい分かってしまったので、クラマは賢明な判断により質疑を中断した。


 食事を終えた一同は、今後の動きについて話し合った。

 まとまったところで、イエニアが音頭を取る。



「それでは次の探索は、クラマの運量が回復する8日後。それまで各自、準備を整えてください」


 運量の回復量は、1日に1000。

 地球人の運量が10000付近まで回復してからダンジョンに潜る。

 このサイクルが、どのパーティーにも共通するダンジョン探索の基本であった。


 それぞれが当日に備えて動き、そしてすぐにその日はやってきた。



> クラマ 運量:9516/10000

> クラマ 心量:97

> イエニア心量:428/500

> パフィー心量:493/500

> レイフ 心量:415/500



「さあ、それでは行きましょう! 準備はいいですね、皆さん!」


「ザッツ、オーライッ!」


「おーらい!」


「元気よね、ホント」


 元気に掛け声をかけて、ダンジョンの入口へ向かっていく。

 この日のためにクラマはしっかりと心量も上げてきていたので、気合は充分。


 心量についても、ここまでの期間にクラマは調べていた。

 心量は人によって、またその時によって差が激しいのに、あまり振る舞いに違いが出ているように見えない。

 それについてパフィーに尋ねると、


「心量は精神力を量的に表したもので、残りが多いほど強い集中力を発揮できて、少ないほど集中できなくなるの。そして集中力を発揮するごとに削れていくわ」


 つまり気分やテンションの高さを表すものではないらしい。

 しかし低すぎると集中力がなくなり、思考から運動まで、全てのパフォーマンスが低下してしまう。


 ちなみに地球人の中でも心量はかなり個人差があり、クラマは通常70~90程度だが、サクラはたいてい100を超えている。

 何もなければ80~100あたりに収まるのが、地球人の平均だという。

 また、地球人には心量の上限はない。だが、


「でも、200を超えた事例はほとんど報告されていないわ。公に確認されたのは、数えるほどよ」


 とのことだ。

 ともあれ今のクラマにできることは、高いパフォーマンスを発揮するために、ダンジョンに向かう前には心量を高くしておくという事くらいであった。




 ダンジョンへ入る際にクラマが見知った警備員に手を振って笑いかけると、ムッツリとした顔を返された。


「覚えられてるわね~、手配犯」


「いやー参ったね、ハッハッ」


 今ではクラマの顔は腫れが引いて、うっすらと痣が残る程度にまで治っていた。


「あまり目立つ事は控えてください。保釈金で罪が消えたわけじゃありませんからね」


 この国の司法では保釈金の支払いがされると、その時点で捜査は中止され、判決を保留とする制度を採用している。

 保釈金が帰ってくるのは、無罪であるという証拠を被疑者が出してきた時のみ。

 カネさえ払えば刑罰から逃れられるという、圧倒的に金持ち有利の法制。

 こうしたお金で解決する法律が増えたのは、現評議会議長ヒウゥースが国政を握ってからの事であった。


 しかしながら無罪となったわけでなく保留しているだけなので、もう一度犯罪を犯して捕まった場合は、過去に保留となった事件も捜査が再開され、刑が加算される仕組みとなっている。

 つまり次に何か騒ぎを起こして捕まればアウトという事である。


「ウィッス、肝に銘じております」


「目立つ必要のある時は私が目立ちますから」


「……それはいいの?」


「私が目立つのはいいんです。さあ、それより今はダンジョンに集中しますよ。今日は地下2階を攻略します」


 前回の探索とは違い、今回は地図を頼りにまっすぐ下りの階段へと向かう。

 地下1階は滞りなく進み、一行は次のフロアへと足を踏み入れた。



> クラマ 運量:9516 → 9571/10000(+55)

> クラマ 心量:97 → 94(-3)

> イエニア心量:428 → 423/500(-5)

> パフィー心量:493 → 489/500(-4)

> レイフ 心量:415 → 411/500(-4)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ