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17話

 抜け道を使うというクラマの提案に、サクラとパフィーは賛成。レイフとイエニアは保留という形で、翌日に結論を回すことになった。


 話し合い終了後、オノウェ隠蔽に関してクラマはパフィーと三郎に尋ねたところ、


「拙者、女の子の情報を得るためオノウェ調査は磨いてきたでござるが、隠蔽の経験はないでござる」


 ということなので、やるならパフィーの担当になる。


「うん。任せてくれていいわ」


 と快く受け持つパフィーだったが、三郎は懸念を表す。


「オノウェ隠蔽は大罪でござるよ。見つかればタダでは済まないでござる」


 そうなのか、とクラマが尋ねると、パフィーは少しの静黙を経て、笑顔を見せた。


「わたしは大丈夫よ。みんな頑張ってるから、わたしもみんなの役に立ちたいの!」


「そっか……ありがとう、パフィー」


 自然とクラマの手はパフィーの頭を撫でていた。

 背後では三郎が、天使だ天使だと震える声で繰り返していた。




 それぞれ自室に戻り、夜も更けてきた頃。

 ノートにこれまでの情報を整理していたクラマの所へ、意外な人物が訪ねてきた。


「旦那、ちょっとよろしいですかい」


 声を受けたクラマは、メガネを外して振り向いた。


「一郎さん。どうしたんですか、こんな時間に。……てゆーか旦那ってなに?」


 クラマの見たところ、一郎の年齢はクラマの2倍以上はあった。


「嫌でしたら変えやすが」


「や、べつに嫌なわけではないけど。……それで、何の用ですか?」


 神妙な佇まいをしていた一郎だったが、クラマに促されると、やおら頭を垂れた。


「アネゴを助けてくれて、ありがとうごぜえやす」


 クラマは慌てた。


「え? いやいやいや……そんな、いいですから。頭を上げてください」


 言われて一郎は下げた頭を戻す。


「いえね、旦那には一度、改めて礼を言っとかにゃならんと思いやして」


 どうやら一郎は、恩義だとか、そういった事にこだわる性格らしかった。

 クラマはそれから、一郎が「自分たち」ではなく「アネゴを助けてくれて」と言ったところが気になった。


「いやあ、ずいぶん慕われてるんだなあ。サクラは」


「えぇ、まぁ、アッシらはアネゴに救われたみたいなところがあるんで」


「そうなの?」


「元々、アッシは冒険者じゃなくて漁師だったんでさぁ、ダンジョンに潜るのは無謀だったんすよ」


 それから一郎はクラマに自身の身の上を語った。


 漁師であり料理人であった彼は、この歳でようやく一人前と認められて船をひとつ任されるようになった。

 しかし大勢の部下をまとめるプレッシャーに耐えられずに、逃げ出してしまう。

 そうして放浪していたところを、居酒屋で会った次郎に儲かる場所があると誘われて、この街へやって来たのだった。

 次郎と三郎も似たようなもので、皆それぞれに自分の居場所から逃げてきた、負け組の集いであった。

 船の上での暮らししか知らない一郎は、船を降りてしまってからは、人生の目的も、楽しみ方も分からず、ただ漠然と流れのままにダンジョンの中で朽ち果てるのだろうと考えていた。


 そんな時に現れたのが、サクラだった。


 彼女は子供ながらに強力なリーダーシップを発揮し、腑抜けた彼らを強引にグイグイと引っ張っていった。

 サクラの言う事、やる事はいつもムチャクチャだったが、そんな彼女の後ろをついて、一緒に馬鹿騒ぎをするのが、一郎は楽しかったのだ。


「人に話すにはみっともねえ話ですがね、アネゴに出会ってから今までが、アッシの人生の中で一番楽しかったんですわ」


 親子ほどに歳の離れたサクラが、彼らのリーダーを務めていた経緯が分かって、クラマは色々な疑問が腑に落ちた。

 しかし一郎は先日、サクラの無茶に付き合って本当に危険な事態になったことで、自分らがしっかりサクラを守らなければと思うようになったと語る。


 なお、一郎次郎三郎という名前もサクラが名付けたもので、それぞれの妙な口調も、「あんたたち分かりにくい!」という理由でサクラが割り振ったとのことだ。


「ムチャクチャだなあ……ってことは、ちゃんとした本名があるんだよね?」


「えぇ、アッシはテデス、次郎はチナエ、三郎はニシイーツって言いやす」


「じゃあテデスさんって言った方がいいのかな」


 クラマが訊くと、彼は首を振った。


「いや、今のアッシはソードマン一郎でさぁ」


 言って、一郎はくしゃっと顔を崩して笑った。

 つられてクラマの顔も綻ぶ。


「なるほどね。じゃあ、これからもよろしく。一郎さん」


 クラマが手を差し出すと、一郎は両手で握り返した。


「えぇ、それじゃあアッシはおいとましますや。長ぇことつまらねぇ話に付き合わせちまって、すいやせんでした」


「そんなことないよ。話を聞けてよかった」


 そうしてクラマは立ち去る一郎を見送る。

 人に歴史あり。その言葉の意味を、一郎の背中を眺めてクラマは実感したのであった。


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