16話
「ただいまー」
「おかえり~」
「おかえりなさい!」
帰宅した2人をレイフとパフィーが出迎えた。
奥に入ると、サクラたち4人が何も置かれていないテーブルを囲んでいる。
「おそーい。いつまで遊んでたのよ」
テーブルに突っ伏して足をぶらぶらさせるサクラを指さして、クラマは隣のレイフに問いかける。
「この娘、いきなり馴染みすぎじゃない?」
「そうねぇ。でもそれ、あなたが言う?」
などと適当にお喋りをしつつ、買ってきた食材をレイフとパフィーが調理する。
全員で談笑しながら夕飯。そして片付けを終えて、話し合いが始まった。
「まずは報告します。冒険者ギルド内では、サクラ達の事は知られていないようでした。ただ、警備隊の管轄はギルドではなく行政ですから、警備隊に手配されているかを調べるのは、少し時間がかかるかもしれません」
「じゃあ私が調べてみるわ。そういうのは得意だから」
レイフが挙手して言った。
イエニアが頷いて、後の調査はレイフに任せることになる。
「その後のことも少し考えておきましょう。ずっとここに置いておくわけにもいきませんし」
イエニアの言葉にサクラが答える。
「外に出ても大丈夫なら出ていくわよ。もともと使ってた貸家もあるし。ダメなようだったら……どうしよう?」
どうしよう、と振られても、周りは困った顔をするしかなかった。
そこへクラマが手を挙げる。
「それなんだけどさ。ダンジョン攻略を協力できないかな?」
建設的な提案。
と思ってクラマは言ったのだが、見ると皆一様に渋柿を口に含んだような面持ちだった。
「あれ? だめ?」
事情の分からないクラマにパフィーが説明する。
「あのね、クラマ。ダンジョン内で複数のパーティーが協力して動くのは、冒険者ギルドの規約で禁止されているの」
「え? なんで?」
理解しがたい話だった。
パフィーの回答も歯切れが悪い。
「うん……それに登録してダンジョンに挑戦できるのは、1パーティーにつき4人まで。うち地球人は1人まで。負傷等による交代は1人までと決められていて、これに対する明確な理由は、公には説明されていないの」
「うーん、わけがわからないね。攻略させる気あるのコレ?」
「ないんでしょうね、それは」
横から答えてきたのはレイフだ。
「この街ってね、数年前までは小さな田舎町だったの。でも現評議会議長のヒウゥースが冒険者の誘致を始めてからというもの、あっという間に大都市の仲間入り。これには以前から手広く商売を広げていたヒウゥースの経営手腕によるものが大きいとされているわ。最近では観光地としての開発も進んでるみたいね」
「それってーのは要するに……最初から街興しが目的ってこと?」
レイフは肩をすくめる。
「……っていうのが、冒険者の間でまことしやかに流れてる噂。ま、本当に攻略したパーティーが出たとして、冒険者なんていうならず者たちが、お行儀よくギルドに5割を渡すとは思えないしね。運営してる側にとっては、実際にダンジョンを攻略されたら困るのは確かでしょうね」
「……なるほどね」
クラマはそう言ったきり、黙り込んで何事かを深く思案する。
その間にパフィーは説明を補足する。
「でもね、協力禁止とはいっても、ダンジョンの中で偶然居合わせた場合の、一時的な協調行動は認められているわ」
「そうね。だから実際のところは、おおっぴらに協力してます~、って言わなきゃ問題ないはずよ。他のパーティーに見られた時に、すぐ離れるとかして誤魔化せばね」
「でもでも、ばれたら10万ロウの罰金よ。密告の報奨金をねらう冒険者もいるから、あぶないわ」
レイフとパフィーがそれぞれに意見を言い合い、サクラはそれを眺めて興味なさげに頬杖をついている。
「……ま、協力したってあたしたちじゃ3階にも行けないし。ぶっちゃけ足手まといになるわよ?」
そう言って、テーブルにべたっと突っ伏す。
「しかしねー……やっぱりこっちの世界も、世の中お金なのね~。ハァ~、夢がないわ~」
「お金は……でもアネゴ……お金は、おっかねぇっすよ」
「い、一郎ォ!? それは……!」
「地球語ジョークでござるよ!? まさかそこまで使いこなすとは……一郎のインテリジェンス、甘く見ていたでござる」
「オヤジギャグ! バカ! おもしろくないから、それ!」
場が騒然としてきたところで、それまで沈黙していたイエニアが手を叩く。
「はいはい、これ以上何もないなら、今日はもう終わりにしましょう。クラマは……クラマ?」
イエニアはクラマが妙な顔をして自分を見ているのに気付いた。
困ったような、申し訳ないような、それでいていたずらっぽく誤魔化すような、なんとも言えない半笑い。
「ごめんね」
「?」
クラマの言葉の意味が分からず、頭に疑問符を浮かべるイエニア。
そうしてクラマは、全員に向けて言った。
「うん、やっぱり協力しよう。でもサクラ達にはここにいてもらって、僕達だけがダンジョンに潜る」
「え? ここで何するの? 料理?」
「それもいいけどね。本命はこっち」
と言って、クラマは人差し指で真下を指した。
「サクラ達には、地下から戦利品をここまで引き上げてもらう」
全員が呆気にとられていた。
その中でいちはやく衝撃から立ち直り、応答したのはレイフだった。
「え~っと……それってつまり……このまえ掘った穴を使って、入口の上納金から逃れるってこと?」
クラマは満足そうに頷く。
「そう。せっかく苦労して手に入れたものを、半分も持っていかれるのは馬鹿らしい。ただ、全部引き上げたらダンジョンを出る時に怪しまれるから、自分達で使えるものと、お金に換えるのが簡単なものだけだね。残りは普通に入口へ持っていく。使えないものの換金と販売手数料と考えれば、5割もそう高くない」
予想外の提案に皆が戸惑い、思案している中で、クラマの発言は続く。
「もちろん引き上げ作業中は冒険者が通らないように、僕らで周囲の見張りをする。オノウェ調査の対策はパフィーと三郎さんの意見を聞きたいな。1階に来た新人が運量で偶然見つける事の対策は、サクラの運量で対抗すればいいと思う」
そこまで言い切ったクラマは、一呼吸置いて全員を見渡す。
皆の視線が集まっているのを確認すると、ゆっくりと人差し指を立てて――
「向こうが汚い真似をするなら、こっちも素直にやる事はない。ズルしていこう」
ニヤリ、と口の端を吊り上げた。




