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107話 - 終わりの挿話

『はい! 世界6ヵ国の主要都市にお住いの皆さん、こんばんは! 私はラーウェイブ王国は第二百八十三号正騎士、エイトと申します!』


 クラマ達のいるサーダ自由共和国から遠く離れた、魔導帝国イウシ・テノーネ。

 その首都テノーネの中心にある大通り。

 すでに日は暮れているが、大勢の人並でごった返している。

 そんな中、真っ白な壁に大きく、変装を解いたイエニアの顔が映し出されていた。


 突然始まったゲリラ放送に、道行く人達がどよめく。


『皆さん仕事帰りでお疲れのところ失礼します! 今日はですね! なんと! サーダ自由共和国……通称“中立国”が国ぐるみで行っていた、許されざる犯罪を! ここに暴露しようと思います!! ……なお、この放送はラーウェイブ王国伝来の魔法具、正騎士の盾により行われています。あしからず!』


 その正騎士の盾を持つ者は、四階建ての建築の屋上にいた。

 映像を発信できる正騎士の盾。それにティアが製造指示した拡大器を取り付け、壁に向かって映し出している。


 騎士の名はヴィーツピエ。

 第二百八十号正騎士にして、その二つ名は“奔馬(はんば)の騎士”。


「ははっ、生き生きしてるねぇー、エイトくん。いやー久しぶりに見たなぁ」


 痩身(そうしん)だが野性味の溢れる騎士は、緑色の長髪をなびかせて、淡いパープルの瞳で眼下の騒ぎと映像を見下ろした。






 ――場所は変わって神聖皇国ワイヤール。

 四大国の一つとして数えられるこの国では、品行方正を(むね)とする、敬虔(けいけん)な神の信徒が数多く暮らしている。

 そんな人々が祈りを捧げるべき礼拝堂。

 その壁面に大きく、拡大された映像が映し出されていた。


『ここ中立国では国際法で禁止されている地球人の召喚が行われていました! 皆さんおかしいと思いませんでしたか? なぜこの国だけ許されるのか? その秘密は、なんと! 評議会議長ヒウゥース氏と、四大国首脳との裏取引であったのです!!』


 礼拝堂にどよめきが広がる。

 誰もが皆、信じられない……信じたくないといった表情だった。


 その様子を礼拝堂の上部、突き出した装飾に腰かけて見下ろす騎士がいた。

 第二百七十八号正騎士“友誼(ゆうぎ)の騎士”こと、ユド・スダセ=ハイネトゥーラ。

 肩口までのオレンジ色の髪に黄色の瞳をした、まるで女性のように線が細く、見目麗(みめうるわ)しい美男子だった。


「信じたくはないでしょうね……彼らはただ信心深く、日々を健やかに過ごしていただけなのですから……。だからこそ、その信を(あざむ)いた為政者(いせいしゃ)の罪は大きい……」


 騎士ハイネトゥーラは、下から届いてくる罵声など聞こえていないかのように、(うれ)いを帯びた瞳で、悲しげに首を振ったのだった。






 竜王国ヴァイダスを訪れたのは、第二百七十六号正騎士“頑冥(がんめい)の騎士”ワイプ・スダセ=ポルフ。

 ごく短い赤髪に橙色の目をした男は、その渾名の通りに寡黙。(いわお)のような剣士であった。


『にわかには信じられないでしょう! しかし我々は動かぬ証拠を取り揃えております! それらは後日、魔法使い相互扶助組合をはじめとした各種国際機関へ提出しますので、お待ちください! 今日はその前に……ここで行われていた非道の数々を、皆さんにお伝えしようと思います!』


 ポルフが持ち込んだ映像配信は、なんと地方都市の大劇場にて、大勢の人を集めて開かれた鑑賞会によって上映されていた。

 ポルフに声をかけるのは、この都市の領主。


「彼女が新しい正騎士ですか。若くて、快活で、華がある。ラーウェイブは安泰ですな。そう……年老いて腐敗の進む、このヴァイダスと比べて遥かにね」


 彼は竜王国ヴァイダスで三指に入る有力者。

 そして憂国者(ゆうこくしゃ)でもある。

 他の大国と結託して私腹を肥やす国家の重鎮(じゅうちん)たちを追い落とすために、革命を計画している。


 寡黙(かもく)な性格に反して、正騎士ポルフは貴族らしく、権謀術数(けんぼうじゅつすう)に長けていた。

 彼は独自に持つ諜報機関により、この領主に渡りをつけて接触し、こうして互いの利害を一致させて協力関係を結んだのだった。


「………………」


 ポルフはわずかに目を伏せ頭を下げる。

 一言も喋らず、仲間が送る映像配信を見守った。





『この街ではなんと! 驚くべきことに! ダンジョン内で捕まえた冒険者と地球人を、奴隷として売り払っていたのです! そう! この地で行われていたダンジョン探索支援政策とは……冒険者を集めるための()()! そして地球人を召喚するための建前であったのです!!』


 古代公国イソバフィ。

 ここもまた四大国のひとつであり……現存する国々の中で、最も歴史の古い国家である。

 イソバフィはディーザの故郷でもあり、最も政治的な腐敗が進んでいる国家とも言われる。


「動くな! 内乱扇動罪、騒乱罪、不法入国、並びに……えーと……公共……あ、公共物占拠罪によって貴様を逮捕する!」


 長々と罪状を並べたてて、騎士の周囲をぐるりと囲む憲兵たち。

 騎士は紫色の目と髪の色をした、凛々しく精悍(せいかん)偉丈夫(いじょうふ)だった。

 その騎士は大勢の兵に取り囲まれても微動だにせず、ただ静かに口を開いた。


「そんなところで立っていないで、座って見るといい。君たちも国に忠誠を誓う戦士であるならば、己が(あるじ)の罪から目を逸らしてはならない」


 第二百七十七号正騎士アウォール・スダセ=ウィーツワナー。

 “極光の騎士”の異名をとり、精鋭揃いの正騎士の中にあって、彼こそが王国最強との呼び声も高い。


「知ったことか! 従わないなら強制連行だ!」


 取り囲んだ兵が一斉に襲いかかる!

 その時、光が走った。

 憲兵たちには何が起きたのか分からない。

 そこには手にした武器のことごとくを断ち切られた兵士達と、剣を抜いて立つ騎士があるのみだった。


 呆気(あっけ)にとられる兵士たち。

 騎士はそれまでとは一転して、(ほとばし)る闘気を(あら)わにして言い放つ!


「ならば証明しろ!! 己が魂の正しさを! さあ来るがいい……裁定は我が剣が執り行う」


 その圧倒的な技量、威風を目の当たりにした兵士たちは、誰もがその場で釘付けとなり、動ける者は存在しなかった。






 騎士王国ラーウェイブから見て、帝国とは反対側にあるユダス王国。

 ここには第二百七十三号正騎士“怪腕(かいわん)の騎士”アビィッド・トラセフ=ディクソスが訪れていた。

 黄色の髪と瞳を持つ初老の騎士は、隣国の王とにこやかに会談していた。


「――ということで、帝国の侵攻に対する準備は万端です。ユダス王国にご迷惑をかける事はございませんので、ご安心頂ければと」


「本当だな? ……まあ良い。その方らとは長年の同盟国であるゆえな。うむ。儂らの力が必要であれば何でも言ってみるがいい」


「おお! これは心強いお言葉! お心遣い、痛み入ります。しかしながら今の時点では、民草への放映をお許し頂けただけで充分にございます」


 うやうやしく頭を下げる老騎士。

 だが、彼はこの隣国の王を微塵も信用していない。

 ユダス王国は歴史的にラーウェイブを帝国への防波堤として利用し続けてきた。

 いざとなれば背後からラーウェイブを襲い、帝国へ差し出す腹づもりなのは分かりきっていた。

 老騎士がここに派遣されたのは、ユダス王への牽制、そして暴露放送によるユダス王国民への世論操作であった。

 もし帝国と戦争になった時に背後から刺されないよう、今から対策はしておかなければならない。


 遠く、宮殿前の王立公園から、女騎士の声が王と老騎士の耳へと届いてくる。


『――さあ! やってきました屋敷の奥深くの研究施設! どうしても従わない冒険者は、ここで違法薬物や魔法の人体実験に使われていた模様です! ご覧ください、壁に染みついた血の染み……悲痛な呻き声が聞こえているでしょうか……?』






 映像の中のイエニアは、石畳の地下室を進んでいく。


『長らくお付き合い頂きありがとうございます! ここが最後です! 見てください、この拷問具の……うわ……拷問具の数々! あっ、まだ人が残ってるみたいですね! そこの人、大丈夫ですかー!?』


 イエニアと撮影者は鉄格子の奥にいる人影に向かう。

 こちらに背を向けた地球人の男。

 映像はだんだん男の傍に近付いていき……


『ここに囚われていた人ですか? 助けに来ましたよ、もう大丈夫で――』


『ぅおれの目玉ぁぁぁぁぁああああああ!!!』


『わひゃあっ!?』


 突如、映像には両目を潰された男の顔がアップで映し出された!


『おれの目玉かえせ!! かえせよよぉぉぉぉぉ!!』


『うわっ、わっ……ちょっとこれホント怖すぎなんですけ――』


 ぷつ、と。

 そこで映像は終了した。


 それを最後まで見ていた男は声をあげた。


「……茶番だ!!!」


 低く、しかしよく通る声が地下空洞に反響する。

 ここは地下王国アイディーニ。

 地下大空洞を拠点とする、地上からは謎に包まれた王国だ。

 先ほど声を荒げたのはその国王、ヴァエレイ七世である。


「デライバ!! 貴様ともあろう者が、かような茶番をこの(ちん)へ見せに来たというのか!!」


 ヴァエレイ七世の尋常ではない声量に、大気は震え、上からぱらぱらと石の欠片が降ってくる。

 その声量は、王の姿を見れば頷けるものだった。

 おそらく普通の人間の3倍ほどはあろうかという巨躯(きょく)

 肌はぽっかりと穴が開いたかのような虚無の黒。

 そして顔の右半分には、いくつもの棒状の器官が突き出し、不気味に(うごめ)いていた。


 およそ人間とは思えぬ奇怪な巨人。

 しかしそんなヴァエレイ七世を前にして、その騎士は臆することなく自然体で佇んでいた。


 第二百七十九号正騎士“遊走の騎士”アウォール=デライバ。

 橙目、橙髪の青年騎士は、まだ年若いが、妙に老成した雰囲気をその身に(まと)わせている。


 デライバは軽くもなく重くもない口調で言う。


「……それで、先ほどの内容は王国民に報せてよろしいので?」


「良い! 許す!!」


 ヴァエレイ七世は難癖(なんくせ)をつけていたのが嘘のように即答した。

 騎士デライバは頭を下げる。


「ありがとうございます」


「つまらん内容だったが、我が友たっての頼みとあっては聞き入れんわけにもいくまい!! 貴様が盾を持つ姿など、二度と見られんかもしれんからな! 映像はつまらんが、そこだけは面白い!!」


 ヴァエレイ七世の言う通り、デライバは正騎士の盾を持っている。

 それで投影した映像をヴァエレイ七世に見せていたのだが……彼は正騎士の中で唯一、国王から賜る正騎士の盾を持ち歩くことのない騎士だった。

 騎士の規則に反しても除籍されることのない、ティアと並ぶもうひとりの例外。

 それが“遊走の騎士”デライバである。


「それでは配布用の石板にしたためて来ます」


「待てぃ!! 貴様ッ、そんなことは他の者にやらせろ!! 朕を退屈させようという(はかりごと)であるなら、その罪、我が友といえど裁かねばならん!!」


 デライバは溜め息を吐いて王へと振り返った。


「やれやれ、仕様がない人だ。それでは相手をして差し上げましょう」


 そう言ってデライバは正騎士の盾を投げ捨てた。






----------------------------------------


 ラーウェイブ王国騎士団はアギーバの街に入った後、街の憲兵と連携して事態の収拾に務めた。

 その騎士団を率いてきた国王パウィダ・ヴォウ=ウェイチェ。

 彼がひととおりの指示を終えて、わずかに時間の空きが出来た時だった。


 深夜の街角。

 真っ暗な道の先、枯れた老木の下に、ウェイチェ王はひとつの人影を見つけた。


「まさか……!」


 ウェイチェ王は駆けた。

 木の下の人物のもとへ。

 果たしてそこにいたのは……。


「先生! やはり……ヨールン先生!」


 地下にいたはずの“陽だまりの賢者”ヨールンであった。


「ふむ。魔法で認識を誤魔化(ごまか)していたが……気付かれるとはな。おぬしと最後に会った時とは肉体も違っておるはずじゃが」


「分かりますとも。あなたの纏う気は独特だ」


「そんなもんが分かるのはお前だけじゃ。……なればこその至妙の技か。儂が教えた一の太刀、ものにしたようじゃな」


「ご覧になっていたのですか。いや、先生に比べたらまだまだです。そうだ! 先生さえ良ければまた稽古を」


阿呆(あほう)! こんな細い体では剣など振れんわい」


「ですよね! ははは」


「まったく、おぬしは(わらべ)の頃から変わらんの……」


 子供のように笑うウェイチェ王。

 やれやれと嘆息(たんそく)するヨールンも、その表情は柔らかい。

 その緩んだ表情を若干引き締めて言う。


「さて、儂を見つけたからには助言をくれてやろうかの」


「懐かしいですね、それ」


「儂を二度も見つけたのもおぬしだけじゃ。それはともかく、(いくさ)の準備は怠るでないぞ」


「なりますか、(いくさ)に」


 ヨールンは重々しく頷く。


「うむ。だが留意すべきは背後ではない。おぬしの喉元に切っ先を突きつけるのは、おぬし自身の懐刀が一つであろう」


 それは助言というよりは予言であった。

 帝国と戦争になるにあたって、後ろにあるユダス王国の裏切りよりも、自分の懐刀――すなわち正騎士の誰かが破滅の引き金となると。


「……それなら構いません。ラーウェイブの滅びが正騎士によるものなら、避ける理由はない」


 それも良し、と。王は言い切った。

 しかしヨールンは不満顔だ。


「覚悟の出来ておる者ほど助言のし甲斐のない者はおらんな……なら特別にもうひとつ。戦に勝ちたいのなら、この地にいる地球人をうまく使うといい」


「なるほど……覚えておきましょう。ご忠告ありがとうございます」


 頭を下げるウェイチェ王。

 言うだけは言ったといった感じに、ヨールンは歩きだした。


「これから、どこへ?」


 ウェイチェ王の問いに、賢者は肩越しに振り向いて答える。


「回天の歯車は動き出した。心せよ、儂は千年の悲願を果たす」


 そうして賢者は夜の闇に消えた。

 王には賢者の言葉は把握できなかったが、王は街を取り巻くざわついた空気から、大きな運命が動き出す気配を感じていた。



----------------------------------------


「え? マジで治せんの俺の目? 魔法で? まーじかーーー! 魔法ありがとーーーー!! ……え? 時間かかる? 施設が必要? そっか……」


 両目を失った地球人の少年を、パフィーが手を引いて地下から地上へと連れていった。


 ……それから。

 ここ、ヒウゥース邸の地下に残ったのは、ひとりの男と女。

 ヤイドゥークと、イエニアだった。

 両手足を拘束されて床に転がっているヤイドゥークに、イエニアは声をかける。


「本当にいいのですか? あなたが証言台に立つことは、おそらく終身刑を受け入れる事と同義かと思いますが……」


「負けちまったからしゃーない。それくらいの事はやらかしてっからなー」


 ヤイドゥークはイエニアの方は向かずに、ごろんと横になる。

 それをイエニアは複雑な表情で見つめた。


 ヤイドゥークが自分達の敗北を確信した後。

 彼はすべての部下に、逃走の指示を出した。

 ヒウゥースはすでに気球で逃げた、ここに自分達が留まる理由はない……と説明して。

 逃走の指示が早かったおかげで、捕らえられたヒウゥースの配下は少ない。


 その場から立ち去ろうとしないイエニアに、ヤイドゥークは荒っぽい言葉を投げかける。


「なんだなんだぁ? まだ何かあんのか? こっちは惨敗して(へこ)んでんだから、放っといてくれねーかなぁー?」


「いえ……少し不可解なもので。貴方なら逃げ出す事はできたのではないですか?」


「…………色々あんのよ、こっちにも。それともなにか? 俺も一緒に逃げてった方が良かった?」


「いえ、ヒウゥースの腹心である貴方が証言してくれるのなら助かります。それなら、交渉次第で帝国との戦争も回避できるでしょうから。……では、私は事後処理があるので失礼します」


「へ~いへい」


「後で他の者をよこしますから、しばらくそのままで辛抱してください。何か要望があれば聞きますが」


「別に……あぁいや……」


 そこで突然、ヤイドゥークは口ごもる。

 イエニアは怪訝(けげん)な顔で尋ねた。


「何ですか?」


「そうさな……ひとつ、伝言だけ」


「ええ、構いませんよ」


 呟くように、躊躇(ためら)いがちな声で、ヤイドゥークは言った。


「ここで拷問を受けてた娘に……悪かった……と」


 それを聞いてイエニアは(まゆ)をひそめる。

 ……が、頷いて了承した。


「分かりました。たしかに伝えます。……それでは、これで」


 そう言ってイエニアも地上へ戻っていった。

 暗く、湿った地下室に残されたのはヤイドゥークひとり。

 石に覆われた空洞に、ヤイドゥークの溜め息が響いた。


「ハァ~……。ったく、ガラじゃないよねぇ、こんなの」


 先ほどの伝言もそうだし、ここで捕まっている事もそうだ。

 彼のガラではない。


 ただ、オルティの顔をあそこまでするつもりは、本当はなかったのだ。

 ……しかしこの拷問室の意義は、かつて拷問によって心を折られてヒウゥースの配下に加わった丙組の精神安定剤でもあったのだ。

 不安定な精神を慰めるための、加虐(かぎゃく)

 拷問を受けた者が次の拷問官となる負の連鎖。

 歯止めを失ってやり過ぎる事はままある。

 今回はそれに加えて、ヤイドゥークの失策があった。

 オルティが恐怖に弱いことは初見で見抜いていた。

 だから両目を潰された仲間の姿を見れば、わざわざ拷問するまでもなく心が折れるだろうと思ったのだ。

 だが、結果は逆効果。

 悲惨な仲間の姿に己の責任を感じたオルティは、逆に不屈の反骨心を手に入れてしまった。

 そのせいで、折れない彼女に対してやりすぎてしまった。


 そしてガラではない事がもうひとつ。

 ヤイドゥークは一人この場に残り、抵抗することなく捕まった。

 何故か?

 それは責任を取るためだ。

 ここで彼が逃げ出してしまえば、終わりのない残党狩りが始まるのは明白だ。

 事件の全容を明らかにするため。

 また、この国の議員達にとっては、誰かに責任を(かぶ)せるために。


 ヒウゥースの右腕であるヤイドゥークがいれば、当局が手を尽くして有象無象を捕まえる必要などない。

 つまり仲間を守るために、ヤイドゥークは自分を売ったのだ。


「へぁ~あ……どうしてこんな事になっちまったかねぇ」


 こうなった原因は何処か。

 ガーブを派遣してクラマ=ヒロを仕留められなかった時か?

 それともヒウゥースが嬉しそうに提案した地球人召喚計画を、右から左に流してスルーした時か。

 あるいは……


 ――おぬしが魔法使いとして、その才を振るう時――その身に避けられぬ滅びが訪れるであろう。


「……は」


 ヤイドゥークは苦笑した。


「ま、しゃーないか。ヒウゥースのオッサンには、ずいぶんいい目を見させてもらったしな」


 考えるのをやめて寝るかと、拘束されて不自由なまま、ごろんと転がって体の向きを変える。

 その時だった。

 耳に届いた足音。

 ヤイドゥークが目を向けると、そこにいたのは――


「……コイニー!? お前、なんでここに……」


 驚くヤイドゥークの前で、彼女は口を開いた。


「これでは彼女好みの展開ではありませんか……なぜ私がこんな……規則とはいえ……しかしこれはこれで芸術的と言えなくも……」


 彼女はヤイドゥークの言葉が届いていないかのように、なにやらぶつぶつと独り言を呟いている。


「コイニー? ……じゃねえな。誰だアンタ」


 その言葉にようやく彼女はヤイドゥークに目を向ける。

 ヤイドゥークは見た。

 暗闇の中でも、その存在を示すかのように輝く紫色の瞳を。


 そして、半月状に歪んだ、その口元を。


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