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102話 - ヒウゥースの挿話

 ヒウゥース邸、三階。

 屋敷の(あるじ)たるヒウゥースは、窓越しに外を見下ろしている。

 セサイルとフォーセッテの死闘、その決着を見届けたヒウゥースは、大きく息を吐いて(つぶや)いた。


「ぬぅ……これは……ミスか。生かしたまま利用しようと考えた、私の」


 セサイルを生かしておくのは危険だと分かってはいた。

 しかし、手元に残しておきたかったのだ。

 優れた人材を集めたい。

 彼はずっと、その思いに囚われていた。


 今となっては根っからのビジネスマン、エグゼクティブな立ち振る舞いをしているヒウゥースだが……こんな彼にもかつては、武術の頂点を極めんと、日夜稽古(けいこ)に明け暮れていた時期があった。

 その彼が幼少から修行に励んだ道場も、土地の利権争いから村ごと滅ぼされてしまったが。

 当時の彼も師や他の門下生と共に戦った。

 しかし一騎当千と思われていた豪傑揃いの武術家集団であったが、最新鋭の装備に身を包んだ兵士たちの人海戦術には歯が立たなかった。

 彼らとて丸腰ではない。

 一流の武術家はあらゆる武器術に通ずる。

 それでも金の力、そして数の力の前に、成す(すべ)もなく蹂躙(じゅうりん)された。


 ……それからだ。

 彼が財力と権力を求めるようになったのは。


 ただひとり生き残った彼は武術を捨て、名を変え、そして会社を(おこ)した。

 復讐(ふくしゅう)は考えなかった。

 それよりもっと大きな力があると知って、求めるものを変えたのだ。


「やるなら目指すは頂点!」


 ……彼の座右(ざゆう)(めい)は今も昔も変わらない。






「ヒウゥース様! ここはもう駄目です! 早く脱出の用意を!」


 配下が叫ぶ。

 階段の下には一気呵成(いっきかせい)に攻め込んできた冒険者たち。

 館を守る配下たちも必死に(あらが)うが、もはや突破されるのは時間の問題だった。


「ぬぅううううう……! なぜだ! なぜ来ない!? もう夕方だぞ! 昼には着くはずだろう……首都の国軍は!」


 そう。

 本来ならば、とうに国軍がこの街に到着しているはずなのだ。

 ヒウゥースとヤイドゥークの立てた作戦は、それが前提としてあった。

 時間が来れば勝てる。

 だからこそ、本来不利であるはずの籠城戦(ろうじょうせん)を選んだのだ。

 だというのに……一向に国軍が現れる気配がない。


 (いきどお)るヒウゥースのもとへ、ひとりの配下が駆け寄ってきた。


「ヒウゥース様! たった今、国軍から伝書鳥が……そ、それによると、その……」


「なんだ!? 言ってみろ!」


 口ごもる配下をヒウゥースは促す。


「は、はっ! この街へ向かう街道の途中でラーウェイブの騎士団に(はば)まれ、到着が遅れる……とのこと、です……!」


「な……なんだとォ!?」


 衝撃の報告に、のけぞったヒウゥースはひっくり返りそうになった。


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