1話
どうやら俺は異世界に来てしまったようだ。
いつも通りに寝て起きたら変な所にいて、なんだかよく分からんモルモットみたいな扱いを受けたと思ったら、冒険者と一緒にダンジョンへ潜って探索しろという。
「いや、さすがに? スマホもパソコンもない世界に用はないんだけど?」
当然、俺は日本へ帰らせろと要求した。
「すまないが、元の世界には帰れない。少なくとも私はその方法を知らないのでな、諦めてくれ」
そう返してきたのは、冒険者の中でリーダー格の女だった。
女の名前はトゥニス。
長身でやたらスタイルが良く、凛としたというか、豹みたいなイメージ。
オレンジ色の髪と瞳で、長い髪を後ろで縛っていた。
あと露出が多くてエロい。誘ってんのか?
「どうか私たちにご協力くださいませ……無理を承知でお願いいたします」
そう言って頭を下げてきたのは、杖を持った少女。
オルティと名乗った少女は、トゥニスとは逆に、ゆったりとした白い服で清楚感があった。
こちらは赤い目に朱色の髪。肩口までの癖っ毛だ。
……丁寧に頼まれると断りにくい。
でも無理って分かってるなら、最初から頼まないで欲しいんだが?
「……嫌なら断れば。べつに、ダンジョン行かなくても生きていける」
ぼそっと呟いたのは、一番小柄な少女。
最初にイクスと名乗ったきり、ほとんど喋らず、俺と目を合わせようとしない。シャイなのか。
紫の瞳に、水色のショートヘア。
服はローブというのか、大きな布をかぶっており、布から出た生足とか、ぴっちりしたスパッツがちらちら見えて気になる。
この3人が、俺をダンジョンに連れて行こうとしている冒険者パーティーだ。
女3人の中に男が1人。
これはいい。かなりの好材料だ。一瞬でOKを出してもいいくらいの良環境。
だがしかし、ひとつの懸念材料があった。
――女3人と一緒にいるからって、本当にそういうイベントって起きる?
甘酸っぱかったり、甘々だったり、ふたりきりでイチャイチャしたり、ひょっとしたら全員から迫られたり、エロエロなトラブルがあったりとか、そういうのを俺は求めているわけだ。
これが一生ただの荷物持ち、男として意識されることもなく、道ばたの石ころと同等の扱いではたまらない。
そんなわけで、俺は警戒しつつ情報を集めることにした。
そもそも何で俺はこの世界に呼び出されたのよ?
俺の疑問に答えるようにトゥニスが言う。
「ダンジョンを踏破するには、地球人の協力が不可欠だ。地球人の持つ“運量”がなければ、ダンジョンを探索することはできない」
「運量?」
なんだその宗教の勧誘に使われそうなワードは。
横からオルティが割り込んで説明してくる。
「運量とは、幸運を量的に表したものです。より正確には、未来の不確定要素を自らの望む方向へ導く事を可能とする地球人固有の力……及びその力を測る単位の事ですわ」
「……えー……なんだって?」
何のこっちゃ分からず首をひねる俺に、トゥニスが助け舟を出す。
「簡単に言うと、地球人は運量というものを持っていて、それを使うと幸運を起こしたり、不運を避けることができるのだ。
未知の地下遺跡を進むには、何よりも幸運が必要になる。だが、我々は運量を持たない。運量はおまえたち地球人しか持っていないのだ」
「いや、幸運を起こすって。そんな事できたら苦労しねーんだが?」
「うむ、そのようだな。地球人は運量を操る技術を持たないと聞いている。しかし、この世界には運量を使って幸運を起こす術があるのだ」
「……まじで?」
「ああ。そうだな、試しにやってみるといい」
うさんくさい話だ。
そんな事できたらソシャゲでガチャ回す時に使うわ。
っていうか、スマホねーじゃん!
やっぱ元の世界に帰らなきゃダメじゃん!
とはいっても、それは幸運を操るというのが本当だったらの話だ。
本当かどうかは、やってみれば分かる。
ここは素直に従ってみることにした。
「そうですわね。それではまず、《エグゼ・ティケ》……と唱えてみてください」
呪文か。
俺はオルティの指示に従って呟いた。
「……エグゼ・ティケ」
すると――
「うぉ……」
俺の体から金色の光が……!
「ままま、まーじかこれ!」
やっべえええええええええええドッキリじゃなかったあああああああああ!!!
「これマジ!? え、どうすんの? どうすんのコレ!?」
興奮してキョドる俺を落ち着かせるように、オルティが次の指示を出す。
「その状態で、願いを言葉にしてください。それで幸運が発動します」
「簡単すぎない? 大丈夫それ?」
下手なこと言ったらやばそうなんだけど。
俺の不安を察してか、トゥニスが口を挟む。
「運量の消費は願いが簡単なほど少ない。逆に、無理のある願いは心量を浪費してしまうか、発動しないので気をつけてくれ」
……っていうと、これで元の世界に戻るっていうのは駄目くさいな。
案外よくできてやがる。
ちょっとテンション下がった。
「まずは小さくて簡単な願いでお試しを」
と、オルティに言われたものの。
いや、願い事って言われてもなぁ。
大きな願いはダメっていうと、結構限られてくるわけで。
そもそも何が小さくて何が大きな願いなのか、まずそこがよく分からない。
悩んでいるとトゥニスとオルティがアドバイスをしてくる。
「あまり悩まなくていいぞ、適当でいい」
「そうですわ、思いついた事で構いません」
イクスは何も言わずに横目でこちらを眺めていた。
心なしか、その目は退屈しているような、「さっさとやれ」と視線で言っているような気がした。
しかし思いつかない。
思いつかない時は思いつかない。そういうものだ。
だが急かされ続けるのも耐えられない。
なので俺は思いついた事をそのまま言うことにした。
「パンツ見たい」
空気が凍った。
そして、次の瞬間だった。
トゥニスのベルトが切れてショートパンツがずり落ち、
隙間風が吹いてオルティのスカートがまくれ上がり、
イクスのスパッツが破れた。
「おぉ……」
この瞬間――
俺は、この世界で生きていこうと決めた。