魔王様のおなぁーりぃー
この世界ルクトフェルミナは人間族の支配する人間界と魔族の支配する魔界、2つに分けられていた。
人間界は純人族、長耳族、侏儒族、小人族、獣人族等各種族、更にはそれらから派生する各部族が幾つもの国を作っている。
それに対し魔界には国がない。魔族も様々な種族、部族に別れ生活しているが常に魔王を頂点とし1つに纏まり魔王に与えられた領域を守り生活している。そして彼らはルクトフェルミナ全域を魔王の物と考えており今の魔界の領土をもって国家を名乗るつもりがない。また人間達は魔族の領土を『縄張り』、魔族の集団を『群れ』、魔族の街を『巣』または『繁殖地』と見ている。そもそも動物である『魔物』と知能があり文明を築いている『魔族』を区別すらしていない、『モンスター』と言って一緒くたに扱っている。人間でなく動物と変わらない魔族に国家を認めていない。なので魔界は魔族の縄張りであり、それは1つに纏まっているかもしれないが国家ではない。
これがすべて根幹にある問題だ。
人間族と魔族は太古の昔、それこそ有史以前から戦争をしてきた。
領土や食糧と言った生活の基盤から、種族や宗教の違いと言った文明の悪しき側面、復讐心や功名心と言った限られた者達の感情に至るまで、その時々に応じて様々に大義名分を変え戦争は続けられてきた。
そしてそれは今尚続けられ、今まさにまた新たな戦火が灯されようとしている。
ここは魔王城、会議の間。
魔王は上座に置かれた玉座から各種族から集まった族長達が繰り広げる会議を眺めていた。
「魔王様、どうか我等オーガ族に侵攻許可ヲ。」
平行線のまま煮詰まった会議に業を煮やし、オーガ族の族長が直接奏上してくる。
この侵攻を許可すれば勇者の襲撃により大きな被害を受けて以来数十年ぶりの戦争となる。
反対派はドラゴン族を中心とした寿命が長く繁殖力の低い未だ被害から完全には回復しきれていない者達、賛成派はゴブリン族等の短命だが繁殖力の高い者達だ。
さて、どうしたものか…
魔王は思案する。
魔王の元、1つに纏まっている魔族にも序列はあり権力闘争もある。そして実力主義の魔族の序列は概ね戦果によって決まる。
現在序列上位のドラゴン族達は自分達の参戦の儘ならない今はまだ戦争を始めたくない。逆に序列の低いゴブリン族達は戦果を上げねば折角増えた一族の維持も儘ならない。
戦力が整っていないのに戦いを始めるは愚策、然りとて魔族が人間相手に足踏みするのも面白くない。
さて、どうしたものか。
魔王は数瞬思案し、
「援軍として向かわせる魔王直属軍の募集を行い、侵攻はその部隊の練度が整い次第とする。」
魔王は言った。
オーガが総大将となるのでそれより上位の種達は彼らのプライド的に参戦しない。ただ手柄を独占させないために各自傘下の下位種族を送り込むだろう。そしてわざわざ『練度が整い次第』と言ってオーガにはその部隊を飼い殺しにしないよう暗に釘を刺しておいた。
オーガは武勇に優れるがこういった機微には疎い、後で直接伝えるべきか…
そんなことを考えていた魔王はふと懐かしい気配を感じ思案を止める。
「魔王様、どうかなさりましたか?」
将軍の1人が声をかけてきた。
「いや、お前達はなんの気配も感じぬか?」
「いえ、わたくしめはなにも…」
俺も、自分も、と将軍達は目を合わせては首を横に振る。
「…そうか。」
魔王はそう答えるが自分の感じている気配から意識を離さない。
それはまだ遠く弱々しい微かな気配だが確かにかつて死闘の末に討ち果たした勇者とよく似たものだ。
そしてそれはどんどんとこちらへ近付いて来る。
「…ぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
それは悲鳴のような雄叫びのような叫び声をあげながらこちらに向かって来る。
「っ! これは‼」
将軍達も気配に気付き、武器を構え衛兵を呼び周囲を警戒して会議の間は騒然とする。
どこだ、どこから来る。
魔王は焦る。
油断はあった。だがこんなにも早く、しかもこちらの警戒網をすり抜けて勇者が現れるなど考えもしていなかった。
「っ! 上かぁ‼」
見上げた魔王の視界を勇者は一瞬で通り抜け、
「ぁぁあああのアマぶちころ」
グチャアァ‼
なにか叫びながら床に叩きつけられ潰れる。
…
舞い上がった土埃が収まっても理解を越えた事態に誰一人として動けず会議の間は静寂に支配されている。
やがてその包み込むような静寂の中、1人の衛兵が勇者(だった物)に慎重に近付いて槍でつつく。
「…死んでます。」
うん、見れば分かるよ? だって生き物と呼ぶよりミンチと呼んだほうが良い状態だもん。アニメ化したらモザイク処理必要な映像だもん。
…
「…どうしましょうか?」
…
…どうしよっか?
…
「…悪魔修道士呼んでもらえる?」
「はっ!」
衛兵はドタドタと走っていった。
…起こしてとりあえず話聞いてみる?
色々とぐちゃぐちゃになったが本日の会議はこれでお開きとなった。
魔族と獣人族の違いは人よりの魔物が魔族、動物よりの人が獣人族って感じです。
ただ、知能や器用さの高い上級魔族はほとんど人と変わらない外見になります。