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桜と二人  作者: 榊燕
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第九章〜桜花祭最終日〜

今日で最後だ…そんなことを考えると何だか寂しいような、悲しいような気分になる。

「鞘、今日で最後だから頑張ろうね!」

欄の声を聴いて我にかえる。

そうだ、そんな感傷を覚えるのは終わった後でも遅くない、今は最終日の今日を精一杯やりきることを考えよう。

「欄ありがとう…うん、今日で最後なんだから精一杯頑張ろうね」

少し不思議そうな顔をしたが、そんなのは一瞬ですぐに笑顔で

「うん!」という返事が返ってきた。

そして二人で学園へ向かって歩き出した。


「ご来園頂いた皆様有り難うございます、桜花祭三日目、最終日存分にお楽しみ下さい」

欄の御姉様の挨拶が終わると同時にいろんな人が学園に入ってくる。

他校の学生、生徒達の父兄や一般の来客。

沢山の人達だ。

もともと人混みが苦手な私は、人通りの少ない所に逃げ込んだ。

「凄い人の数だね」

手を引いて連れてきた欄がそう言って私の隣に並ぶ。

「本当にね、どうしても人混みには慣れないわ」

疲れたようにそう言うと、相変わらずだねと欄が笑う。

私も釣られて本当よねと笑ってしまった。

今私達は学園の中を見て回っていた。

何故か……欄の御姉様二人が、数人の生徒を連れて休憩所に来たことから、今の状態になった。


「今日で最後だけど、桜花祭はたのしんだかな?」

おはようと挨拶をしながら、欄の御姉様達と数人の生徒が休憩所に入ってきた。

「ええ、楽しませてもらっていますよ」

私がそう言うと、やっぱりといった感じで苦笑しながら欄の御姉様がいった。

「鞘ならそう言うとは思ったけどね、でも少しは外の祭りを見て回らないと本当に楽しんだ事にはならないと思うんだ、だから今日はこの子達にここを任せて、遊んできなさい」

私が何かいう前に、欄が突然前に出た。

「嫌、鞘と私のこの休憩所は最後までしっかり自分達でやりとおしたいの、だから嫌」

少し驚いたけどそれ以上に、自分と同じ考えでいてくれた欄が嬉しくて思わず後ろから抱きしめてしまった。

「はい、そう言うことなので、折角のご好意は有り難いのですが、遠慮させていただきます」

そう言って、欄の御姉様を見ると、物凄く驚いた顔をしていた。

しばらくたっても動かなかったので、大丈夫ですかと声をかけると、ようやく我にかえって話し出した。

「あ、ああごめんね、鞘がそう言うとは思ったけど、欄がこんなこというなんて想像も出来なかったから少し驚いてしまったよ、そんな責任感、やる気を見せるなんて凄く嬉しかったから、言うとおりにさせてあげたいけど、生徒会として、一度も桜花祭をお客として楽しまないと言うのは許可出来ない」

私が反論しようと身をのりだした瞬間、それを制するように、また欄の御姉様が話し出した。

「だから!午前中だけでも遊んできなさい、そして午後から最後まで思うとおりやるといいよ」

最初から最後までやりたいと言おうとしたが、欄の御姉様の顔を見ると何も言えなくなってしまった。

「はい、わかりした」

だから、私はそう言うしかなかった。

多分欄も同じだろう。

あの顔は卑怯だと思う。

だって、凄く嬉しそうで幸せだって顔して私達を見るんだから。


こうして私達は今午前中だけお客として桜花祭を楽しんでいた。

屋台でたこ焼きや焼きそば、綿あめ など定番の品々を食べ、いろんな手作り品の店を見て回った。

悔しいけど欄の御姉様の言う通り凄く楽しい。

こうやってお客として遊び、自分達の仕事を精一杯やってこそ、本当にこの桜花祭を楽しんだことになるんだろう。

存分に桜花祭をお客として楽しみ、そして自分達の休憩所に戻ってきた。

お昼まで開けませんといった張り紙をしているにも関わらず、かなりの人数の人達が休憩所の前に集まっていた。

私達はお互い嬉しそうな顔をしていたと思う。

私達をこんなに沢山の人達が待っていてくれたんだから。

御待たせしてごめんなさいと二人で謝りながら、休憩所の扉を開けた。

凄く忙しかった。

でも今日は疲れなんて感じない、欄も同じ見たいで、昨日までより生き生きと動いていた。

こうして、私達の桜花祭は終わった。

私達は……凄く楽しんだ。


パチパチっと外から音が響いてくる。

桜花祭で使ったものを燃やしているのだ。

その周りでは、その持ち主であった生徒達が囲んでいた。

そんな風景を私と欄は自分達の休憩所があった所から肩を寄せあって二人で見ていた。

今にも泣いてしまいそうな程に悲しくて寂しい気分なのだ。

多分欄がいなければ私は泣いていたかもしれない、嫌きっと泣いていた。

欄はすでに涙を目の縁に貯めて泣くのをギリギリの所で我慢している。

私はそんな気分を吹き飛ばすように、かくしてあった、手作りの店で買った可愛い銀細工の指輪を欄につけてあげた。

「鞘……」

欄が驚いた表情でその指輪を見てると、クスッと笑いがこぼれ落ちた。

そして欄はポケットの中から、私があげた指輪と同じものを取り出した。

「私も可愛いなぁって思って鞘に買ってきてたんだ」

そう言って私に指輪をつけてくれた。

寂しい気持ちはまだ残っていたけど、それ以上に欄と私が同じことを考え、同じことをしていた事が暖かい気持ちにさせてくれた。

だからさっきまでの泣きそうな雰囲気はなくなり、二人で嬉しくて笑いあった。

こうして私達の桜花祭が終わった。


ちなみにあとから聞いたことなんだけど、私達の休憩所があんなに込んだのは、欄の御姉様達がいろいろと手を回したからだった。

ごめんねと謝られたけど、私達は笑いながら逆にお礼をいった。

参ったなぁといった感じで苦笑する御姉様達を見ると少し、してやった見たいな気分になった。

でもお礼をいった気分は本当なので、だからこその反応なんだろう。


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