第八章〜桜花祭二日目〜
「ん〜いい朝」
カーテンをあけた窓から飛び込んでくる、朝の日差しを浴びながら身体を伸ばす。
「……全くこの子は」
私の視線の先には、身体を猫のように丸めて幸せそうに眠る欄がいる。
苦笑を漏らしつつ優しく頬を撫でて、横にやられた布団をかけ直す。
「朝食できるまでだよ」
そう耳元でささやくと、
「ん〜」と言う、微妙な返事が帰ってきた。
「ふふふ、欄ったら」
そして身支度を整え、朝食の準備を終わらせて欄を起こし、戦場に向かった。
「……いいじゃない、少し位大袈裟でも」
自分で考えた、戦場と言う例えが少し恥ずかしくて、思わず独り言を呟いてしまった。
昨日の例があったので、今日は一人三十分までという決まりを作った。
自意識過剰と言われるかもしれないが、備えだけはしておかないと。
「鞘〜準備終わったよ〜」
「うん、解ったよ、ありがとうー」
そう返事をしながら、コーヒーの豆、紅茶の葉等の準備を済ませる。
「調子はどうだい〜?」
そう言いながら入ってきたのは、欄の御姉様二人だ。
「はい、なんとか準備は終わりました」
周りを確認しながらそう答え、コーヒーを出した。
「おっ、これが噂のコーヒーだね、すぐ出てきたけど、もう作り初めてたのかい?」
美味しいと言いながら、コーヒーを啜りながら、こちらに向き直る。
「人聞きの悪い、準備が整ったので、丁度一息入れるところだったんですよ」
欄と私もコーヒーを啜りながらそう答える。
「ははは、解ってるよ、にしても……」
軽く笑い、少し驚いたように欄を見る。
「コーヒー飲めるようになんていつなったんだ?」
「鞘が入れたもの以外は飲めないよ」
ふーふーと熱いコーヒーを冷ましながら、答えた。
「本当に鞘さんはすごいのね、私達じゃどんなに頑張っても無理な事を簡単にさせちゃうんだから」
今まで黙ってコーヒーを啜ってたもう一人の欄の御姉様が心の底から感心したといった感じで私の手を握った。
「!!御姉様何してるの、全く油断も隙もないんだから」
それを素早く関知した欄が驚くべき速さで間に入ってきた。
「いいじゃない〜私だって鞘の事好きなんだから、たまに少し位」
「駄目!」
嬉しいんだけど、こういった時どうしていいかが解らなくなる。
「全く面白いね二人とも、欄はともかく、いつも冷静で表情を崩すことのないあの子をあんなに人間らしくさせちゃうんだから」
「そう言いながら、私を抱きしめるのをやめてください」
溜め息をつきながらそう言うと、言い争っていた二人が今度はこっちに向かって慌てたようにやってくる。
こうして、二日目の桜花祭が始まった。
今日は予想通り昨日と同じく始終込み合っていた。
朝決めた新しい決まりが役に立ち、少し昨日よりは楽になった……気がした。
結局欄は昨日と同じように、いっぱいいっぱいになり、最後はまた二年、三年の生徒会の人に助けてもらい、くたくたになって終わった。
今日はさすがに私も部屋につくたび欄が倒れ込んでる、私のベッドに横になった。
「…ゃ…ゃ」
欄の声が何処か遠くから聞こえてきたが、答えることも出来ずそのまま眠りについた。
「鞘、鞘そのまんまだと起きたときこわいよ」
珍しい、というよりも初めてだ、こんな疲れきった鞘を見るのは。
寝顔も珍しい、何回かは見たことあるが、鞘が起こしても起きないなんて本当に初めてだった。
「でも、やっぱり鞘綺麗だなぁ」
起こすのを諦め、寝顔を見ていたけど、思わずキスをしていた、それも唇に。
誰も見ていないというのに、周りを確認して、
自分の唇をふれる。
まだじんじんとした暖かさが残ってる。
「鞘、鞘は私の一番、命よりも大切な人、絶対に…絶対に離さないからね」
そう呟いて、鞘の胸の中で眠りに落ちた。