第五章〜生徒会、百合会〜
この桜華学園には変わった制度がある。
各学年にそれぞれ生徒会があるのだ。
一年生、生徒会またの名を百合会。
二年生、生徒会またの名を黒百合会。
三年生、生徒会またの名を白百合会。
他にもいろいろ変わった所があるけど、今関係していることが、まさにこの生徒会のことなのだ。
燗の発言から、私の意図とは関係なく、生徒会会長に立候補することになってしまった。
「鞘が会長で私が副会長になります」
入学式が終わり、自分達のクラスについて、ホームルームで各々の自己紹介が終わると担任の先生が一年生の間で生徒会を決めないと行けませんので立候補する人はいませんか、と言い出した。
そして燗がそう言ったのだ。
「燗、私は…」
「はい、榊さんが会長で深淵迩さんが副会長に立候補ね」
私が否定する前に先生がいそいそと黒板に書き始める。
「先生!私はやる気ありません」
ここでやっと否定をしたのだが、先生は可哀想な子をみるように、小さく首をふった。
「一度決めてしまうと変更は出来ないの、ごめんなさいね」
絶句。
そうか、この学園では燗の発言力は絶対に近いものがあるんだった。
学園長は燗のお父様、二年、三年の生徒会は燗の御姉様二人。
そして学園に通う父母達を纏めているのが、燗のお母様。
そして、皆が皆、末っ子の燗を溺愛している。
学園の教師達も、生徒達のほとんどもその事を知っているのだ。
燗はその事が判っている、きっと入学が決まった時から決めていたんだろう、私はやられた、と思いながら、ため息をついた。
「燗さん、こういう時は相談というか、私に許可をとってからやるのが普通じゃないのかしら?」
私はニッコリと笑いながら燗に詰め寄る。
「えっと、なんていうか……ごめんなさい、許して!」
燗はひきつった笑顔で後退りながら謝ってきた。
「あら、燗さん謝るようなら、初めからやらない方がよろしいのでは御座いませんか?」
流石に私も少し怒っていた、そう簡単に許してなんてあげない。
「あのあの、あ……」
「………」
「うっ、ご、ご免なさい!ご免なさい!」
とうとう泣き出してしまった。
強がっていても、すぐ泣く癖はなかなか治らない。
「……もぅ、今度からこんなことしないでよ」
ため息をついて、抱き寄せた。
燗に甘いのは私もみたい。
泣いてる姿を見ると、それ以上怒る気がなくなってしまうのだから。
そんなこんなで、結局生徒会会長に立候補することになってしまったのだ。
やるからには頑張ろうと、気合いを入れたのは良かったけど、会長と副会長の立候補が私達しかいなかったので、何をするでもなくそのまんま決まってしまった。
元々、一年生は入学したばかりで誰々がいいと分かる人が少ない為立候補者が多い場合を除いて、選挙もなく決まってしまうらしい。
二年生からはしっかりとした選挙があるらしいけど、大体、三年間同じ人が会長、副会長をやることが多いらしい。
実績を残せれば、と言うことだろうけど。
問題は会計と書記の立候補がいなかったことだ。
燗が副会長になったことで他の人達が怯えてしまっているからだろう。
まぁ私みたいな誰とも知れない人の下につきたくないっていうのも多々あると思うけど。
「困ったわね、どうしましょうか」
と先生方は言っているものの、燗のことが大きいのだろう、無理に進めるようなことを一切しなかった。
「深淵迩さんの御姉様達も一年生の時は二人だけで、どうしても人手が必要なときだけ手伝いを入れるといった感じでやっていたので申し訳ないのだけど、一年生の間は二人だけでお願いできないかしら」
燗がいない、私一人の時に先生がそう言ってきた。
「ご免なさいね、よろしくお願いね、あ、あと、深淵迩さんにも伝えておいてね、それじゃ先生用事があるから、本当にお願いね」 私が何も言う前にそそくさと逃げるように去っていった。
あまりにも燗に怯え過ぎではないだろうか。
そう思えるのは、やっぱり私が燗と仲がいいからだろうか。
こうして二人だけの生徒会、百合会が生まれた。
「大丈夫、大丈夫なんとかなるし、二年になるときにはファンの子が絶対できるから、頑張れ」
燗の御姉様二人の言葉。
それもそれでどうなんだろう。