第四章〜入学式〜
「鞘さん、今家族で誰が一番頭がいいかちょっとしたテストをしていたの、ついでに鞘さんもやってみて」
私が燗の説得に失敗して、次の日その事で謝りに燗の家にいった瞬間、燗のお母様に突然そう言われた。
「あ、あの、昨日は…」
「ああ、気にしないで、家族の事だったのに鞘さんに頼んだ私達の方がいけなかったのだから…それでも気になるなら、このテストやってみて……あ、あのね今の所私が一番下だったので、少し慌ててしまったみたいねごめんなさい」
何故か慌てたように、何かをごまかすように、そう捲し立てる。
ただその瞳をみると、このテストをやらないと帰さないといった感じの雰囲気が漂っていた。
私が解りましたと言うと、とても嬉しそうに準備を始めた。
「手を抜いたりしては駄目よ」
どこか鬼気迫る感じでそう言われ、思わず頷く事しか出来なかった。
この時、確かに何かが怪しいと思っていたのに、説得出来なかった申し訳なさと、その勢いのせいか、順位が低くて悔しいんだなぁ、少し子供っぽい所があるんだなぁとしか思わなかった。
今から考えると私はどれだけ馬鹿だったんだろうと思う。
燗のお母様がそんな事で剥きになるはずもなければ、その受けたテストも高校の入試問題と似てた所もいくらでも気付く要素があったのに、気付かなかったのだから、いや、考えもしなかったのだから……燗の説得が無理なら私を攻めて来ると言うことに。
「新入生代表、榊鞘」
「はい」
私はそうして今ステージの上にいた。
その受けたテストはこの桜華学園の入学テストだった。
まかり間違って、一番という成績までとってしまった。
「無理です、私にはそんな学園行けるだけの力はありません」
テストを受けて一週間後、燗とそのお母様が家にきた、合格届けとともに。
「ご存知だと思われますが…」
「鞘さんが気にしていることは解ります、まず第一に費用の問題、これは鞘さんが特待生に選ばれていますので、全てただになります、一番気にしていることはこの家のことだと思います、これに関しては理事長先生にお願いするしかなくなってしまうのですが、さ…」
「深淵迩さん、判っています、元々鞘が近くの高校に行くと決めたと聞いた時、情けなくて仕方なかったんです、鞘の力であればもっと上を目指すことも出来るのに、背中を押してあげることも出来なかったのですから、ですのでこんないいお話があるなら、私達は全力で後押しさせていただきます」
お義母さんはとても嬉しそうにそう言った。
「で、でも、私が今…」
「鞘…確かに、今までいろいろと貴女の助けがあったおかげでこの家は助かっています、自分のほしいものも買わずアルバイトのお金を全額入れてくれたことも、子供達の面倒をみてくれたことも、鞘がいなくなれば、きっと大変になると思います」
「それならっ!」
「でも、今まで私達の事を一番に考えてくれたのだから、これからはせめて自分の為に頑張ってほしいの、散々助けてもらって今更なのだけどね」
「お義母さん…」
「何より、少し位はお義母さんらしいこともさせてほしいの」
私は場の雰囲気に飲まれていたと今だから思う。
涙を流して抱きついていた。
そして落ち着いて考えて、その時のやり取りを思うと、全て打ち合わせ通りだった事に気付いてしまったのだから。
確かに、お義母さんの気持ちは本当だと思うけど、騙された感じがして少し悔しかった。
「以上をもって答辞とさせていただきます、新入生代表、榊鞘」
自分の席に戻って、誰にも気付かれないようにため息をついた。
まぁ、私もなんだかんだ言っても実際凄く嬉しい想いもあるし、隣には燗もいるし、頑張って行こうと、改めて決意した。