第6話
「いたたたた・・・・
公共施設にギミックなんぞ設けるな!!
ラ◯ーンシティじゃ無いんだぞここは!!」
先ほどの本を手に取った瞬間、あろうことか床が開き
ダストシュートの様な通り道を抜け
地下と思われる階層に叩き落とされた。
途中滑り台の様になっていたので、落ちた衝撃は大した事無かったが
周りを見渡すと、明らかにごみ捨て場では無い空間の様で
不用意に声を出してしまった事を後悔した。
石で出来たタイルの床はひんやりと冷たく
灰色をしたブロックの壁が長く続いているが
壁に設置されている明かりが弱い為に
あまり遠くがよく見えない。
不気味な無音に思わず引き返そうかと思ったが
ダストシュートは登れる様な造りになっておらず
だからと言ってこの先に一歩たりとも踏み出したくは無かったが
ここが安全な場所にも思えないので進むことにしたのだった。
進み始めて間もなく、自分の足音以外の異音に気づき
少し心拍数が上がったのを感じた。
立ち止まり、耳をすませると、先ほどまでは何も聞こえなかったのに
確かに何かが這いずっている様な音が複数
この空間に鳴り響いていて、方角はわからないが確かにそれは
どうやら近づいてきている様だった。
正面の見える範囲では何も見えない。後ろは先ほど私が来た道で
明かりを標べにしている為右手を伸ばせば触れる距離に壁がある。
問題なのは左方向で、こっち方向の壁には明かりが灯っておらず
自分が進んでいる通路の幅がどのくらいのものかは見えなかった。
ともすれば恐らく左方向の暗闇な中で何かが起きているのだろうが
明かりの先には今のところ何もないのだ。
こうなったらと、少し控えめの駆け足で進むことにしたのだが
割とすぐに、あえなくその這いずり音の正体と出くわす事となり
足を止め、思わず声をあげそうになり口元を両手で覆った。
目の前に、何かの肉を貪る軟体生物が現れた。
現れた、と言ってもそいつは元々この位置にずっといて
近くなるにつれ見えるようになっただけの話だが
まだ先ほどの怪物の方が精神衛生上良かったと思えるほど
この体長1メートルほどありそうな生物は
私に気づいていないのか、或いは食事に忙しく興味がないのか
グジュグジュと対象の肉を溶かしつつ、ゆっくりと栄養を摂っていた。
危うく思考が停止しかけたが、酷い事実を思い出し
私は食事場を避けるようにして、再び足を走り出した。
這いずり音を先ほどから聞こえていて、今見かけた軟体生物は
食事の真っ最中、ということは、食事を探している個体がいるという事だ。
それも複数、確実にこの空間に存在する。
足を動かしながら、先ほど行われていた食事の光景が浮かんできては
私の口内を乾かした。
そうして先に進んでいると、何やら祭壇のようなものを見つけ
そんなモノどうだっていいだろうと無視しようとしたが
何やら怪しげな本が祀られており、気づけば祭壇の前で呼吸を整えていた。
表紙には何やら紋章のような模様が描かれていて、タイトルは無く
そのページを開こうとした瞬間、生暖かい空気が頬に触れ
反射的に飛び退くと、間一髪、軟体生物が大きな口が閉じる瞬間を目の当たりにして
ゾッとした。
咄嗟に本を祭壇の上に置いてしまったので
私の中にこの生物と戦う選択肢が現れてしまい
上着のポケットに手を入れ、先ほど使ったと思われる扇子を握りしめ
必死にあの怪物とのやり取りを思い出そうとしていると
軟体生物が間合いを詰め、再び大きく口を開けた。
直接蹴り飛ばしてみたいが、何せ相手が軟体であるので
下手に直接攻撃を加えてそのまま取り込まれる様な事は御免である。
だからと言って扇子の使い道なんて2つしか思い浮かばず
半ばやけくそに、間合いを取り直し扇子を広げ
先の戦いを強くイメージしながら、扇子を持った方の腕を
思い切り振り抜いた。
扇子を”仰ぐ”か”投げる”かの2択だったのだが
先の戦いの後、私が扇子をどうしていたかを思い出し
数十分前の自分を信用し、扇子を仰ぐことにしたのだが
我ながら、今までこんな凶器を自分に使っていたのかと思うと
背筋が凍る思いだ。
結果として、私の扇子は
信じられないほどの強風を作り上げ、軟体生物を退けた。
いや、あの風を受けた直後から軟体生物はピクリとも動かないので
完全に絶命している。
そしてどうやら軟体生物は、スライムの様に見えていたが
実態はタコやイカの様に、液状では無かった事が
風を当てたことで判明し、その後立て続けに襲われるも
直接攻撃で倒して退けていった。
自分の攻撃が通用することがわかったので
次からは怖気付くことなく、何者が相手であろうと戦おうと思えたが
しかし自分があまりにも自然に
素手や脚を使った打撃技を繰り出せた事については
いまひとつ解せなかった。
少なくとも私の通っていた女子校にそんな授業は無かったし
キックボクシングジムに通っていたわけでもないからだ。
自分の恵まれたセンスと扇子に感謝しつつも
再び本を手に取ると、ハラリと何かが落ちた。
拾って見てみると、何やらメモ用紙のようで
消えかかった文字は
”この先に眠る鬼の封印を解くべからず”
というように読め、噂の鬼が封印されていることに安堵しつつ
「そういうネタ振りは
押しちゃダメだっていうスイッチを押しちゃう様な
おっちょこちょいにでも伝えろよ」
と、ここに出現する軟体生物を複数倒す事によって
恐怖心が薄れた私は、強気の独り言を呟き
再び本に目を向けると同時に、腕を何者かに掴まれそのまま
吊るし上げられてしまい、また本を落としてしまった。
二足歩行をしてはいるが、見るからに人ではない生物が
突如3体も現れた上、既に片腕を掴まれ足は宙を舞っている。
丁度良い高さじゃないかと、鋭く蹴りを繰り出そうとするも
上手く繰り出せないように掴まれた腕を操られてしまう。
脇の2体が何やら好き勝手な事を叫んでいて腹が立ったが
真ん中のリーダー格の
「貴様は罪なき魂を手にかけすぎた」
という言葉で、一瞬怪物のことや軟体生物の事が脳裏を過ぎり
殺ろうとしてきた相手が悪い、と自分の中で答えが出た頃
その隙にノーガードでリーダー格の一撃を食らう羽目になり
私はそのまま奥の壁まで吹っ飛ばされ、接触した壁はもろくも崩れ去り
壁の向こうに空いていた空間まで辿り着いたのだった。