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Zeke(HG)ラノベ版  作者: yatsureCreate
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プロローグ

「あと、一歩だった。」


蛍光灯に照らされる白い壁とフローリングの床。

私の部屋にある家具は白いベッドと白い机。

オシャレに無頓着な私は、クローゼットの中に収まる程度の洋服しか持ち合わせていないし

所有する物も少ないので、部屋はとても片付いているといえば聞こえはいいが

言ってしまえばとても殺風景な部屋ではあった。

今日は天気が良くて日差しが強い絶好のお出かけ日和だが、そんな中私は

机に向かい、ノートを広げペンを滑らせている。

「日記」とだけ表紙に書かれたノートの中身は、

ここ数十ヶ月間の冒険記に見せかけた懺悔や後悔の文字が延々と綴られている。

過去を思い起こしながら、ノートに予め印刷されている罫線に沿って文字を書いている最中

たらればの思考が脳裏に過る度に犠牲となったペンの数は

それこそ、これまで食べてきたパンの枚数が如く覚えていない。

だが、もうこれ以上はペンをへし折らずに済みそうだ。

間もなくこの日記は完成する。


ガヤガヤと、若い男女や働き盛りの者たちが活気づいてるこの街は

特に猫族と呼ばれる、全身にもふもふした体毛を纏わせた亜人が多い。

魔界で一番大きい城下街として有名なこの地は

今や私が住む人間界からも魔法陣で一瞬だが、そういえばその魔法陣の構築には苦労した。

元々私が所属するガーデンは

人間界と魔界を隔てる次元的壁に空いた穴を利用して、人間界に理解ある鍛冶屋と提携していたが

それはたまたま空いた穴がその地域に近かっただけの事で

このメガロには、次元的壁が薄まってこそいたが穴など通じてなかったのだ。

しかし、とても数ヶ月前まで鎖国していたとは思えない程

不思議とここに住む亜人達は私達人間界を快く受け入れてくれたものだった。

元々人間族も暮らしていたが、それは魔界に住む人間族の話で

人間界の人間と言ったら、魔界では得体の知れない生物だったはずなのに。

初め私は戦争をも覚悟し、一人で使者としてこの国にやってきた。

流石に魔界一大きく発展した国なだけあり、国境には大きく立派な砦が形成され

屈強な猫族の戦士達がそれを見張っていて、外に潜む野生のモンスター達が入り込む様な隙は無い。

上手いこと砦の内側に転送できた私は、多くの者が出歩き、数々の商店が我こそ一番と声を張り

活気と笑顔に満ちたこの国を

如何に効率よく破壊出来るかを思案しながら国王の住む城に向かっていたのだから我ながら呆れる。


コツン・・・コツンと

白く光沢のあるタイルが張られた

この神聖な神殿の廊下を一歩、また一歩と踏み出す度に響き渡る私の足音は

さながら運命への時を刻んでいるかの様に思えた。

両脇に建つ円柱の柱や高い天井を含め、全てが白く形成されている筈なのに

闇に向かっている様な錯覚を覚えるのは、世界平和の象徴と呼ばれる結晶がこの先に待っているからか

はたまたこの先で交わす契約に今更怖気付いているのかは、今の私にはわからない。


音もなく光が灯され、一気に室内が明るくなったから、私は一瞬目をそらしてしまった。

私たちが若い頃に流行ってたフットサルという球技が出来そうな程広く綺麗なこの空間は

その壁、床、天井の裏にびっしりと複雑な魔法陣が刻まれ

中央にある結晶を今も制しているという事実を知る者は少ない。

目の前に視線を戻し、過去を直視する。ここに来るのは半年振りくらいか。

普段この空間は一般公開され

恒久的な世界の平和の誓いとして他国の者達も含めて多くの者達がここに参拝目的でやってくるが

今日は前々から予定していた「神殿内整備の日」となっている為、この神殿にいるのは私一人だけだ。

街の喧騒も、ここまで距離があると一切聞こえない。

聞こえるのは、私の心臓の音と、頭の中で飛び交う葛藤、そして水が滴り落ちる音。

目の前にある二つの大きな結晶を、ぼやけた視界の中で見つめていた。

どれくらいそうしていただろう。

左の結晶には、長く澄んだ水色の髪をした、若い女性。

右の結晶には、金髪で、線は細めだが筋肉質の若い男性。

数え切れない程の戦争を終わらせているうちに、いつしか私は「瑠天大聖」などと世界中から呼ばれ

最強の英雄として祭り上げられたが、私がやっていた事は単なる憂さ晴らしに過ぎなかった。

いや、今思えば殺して欲しかったのだ。

私を愛してくれる最愛の人が存在した以上、自殺なんて出来る道理は無かったが

何もしないでいられるほど精神力が強い訳でもなかった。

あの日以降、尚も各所で続いた争いを、弱者の味方をし続ける事で

常に強大な力に対して八つ当たりをし続けた。

結果としてその日々は、より一層瑠天大聖を磨き上げる研磨剤となったが

そんな事は望んでいなかった。

私はそんな事の為に強くなったんじゃない。私は英雄なんかじゃない。

英雄を救えなかった私が英雄だなどと、世界が認めようと私は認めない。

ここ最近は子育てをしながら文献を読み漁った。

丁度この神殿は、これまた魔界一の書物庫でもありうってつけだった。

そして見つけてしまった。私の日記を終わらせる方法を。


コツン・・・コツンと、足音が聞こえる。

私は呪文を唱え、準備に取り掛かる。決心が揺るがない様に。

まばゆい光が私を包み契約を問いかけてくるが、答えは決まっている。

ただ、少しだけ時間を頂戴。

もう少しで夫が来るから。もう後には引けない。

折角手に入れたこの力と英雄という地位は、この時の為に与えられたんだと思っている。

だから、最後の挨拶をさせて頂戴。


何十冊ものノートに及ぶ、この日記の事を私はZekeと呼び、託す事にした。

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