スカイランドのビスク
「開門せよ!ビスク様一行の到着である!!!」
遣い鳥は大声で扉に向かって叫んだ。
すると、
「開錠せよ!」
「扉を開けよ!」
中でいくつもの声が響いて、重い音を立ててゆっくりと扉が開いた。
空いた扉の向こうに広がる街は、エリーナの住む村とは全く別の世界のように賑わっていた。
綺麗な建物や小さな店が並び、まるで絵本で見た「よーろっぱ」の街並みそのものだった。
「素敵...」
エリーナの目に映るものは全てが美しく輝いていた。
「ビスク様、よくぞお戻りになられました。女王陛下が是非一度お顔を見せに来て欲しいと仰っております」
扉で出迎えていたのは、黒い瞳の藍に近い濃い青の羽を持つ鳥だった。
ビスクの前に低く構えている。
「グレイ、いつも言っているけど、毎回出迎えてくれる必要は...」
「承知しております。私の自己判断ですのでお構いなく」
「まあそれがグレイの良いところでもあるから構わないさ。それよりどこか宿を探さないといけないんだ。連れがいる」
「それでしたら、ご自分の住まいへ案内されれば宜しいかと。それが一番安全だと思われます」
「やっぱりそうなるか。...うん、そうしよう」
「ではそのように。到着の知らせを女王陛下の元へ伝えに戻ります。どうかゆっくり街を見ていかれると良いでしょう。それでは」
そう言って藍の鳥は飛び立った。
ビスクは振り返る。
「じゃあ、街を見てから僕の家に行こうか!」
「待ってビスク。今のは誰?女王陛下って?」
「ビスクもしかしてあなた、エリーナにちゃんと言ってなかったの?」
ビスクは肩をすぼめて、苦笑いをして頷く。
エリーナには何がなんだかわからない。
「リンダさんは知ってるの?」
「ええ。ビスクはこのスカイランドの第一王子、つまり皇太子。ついでに言うと、私は貴族の生まれ。右大臣の娘で、ビスクとは幼なじみ」
エリーナは驚きのあまり声も出なかった。
皇太子やら、貴族やら、エリーナが一生を過ごす中ではまず会うことはなく、絵本や大人の話でしか知らなかった。
それだけ身分も違って遠い存在なのだ。
「...ごめんよエリーナ。黙っていたことは謝るよ」
俯くビスクに声をかけようにも、エリーナは戸惑ってしまった。
-この方は私が隣を歩いていいようなお方じゃない...
「えっと...、これまでの無礼な態度、お許しください。願いを叶えて下さり、このような素敵な場所まで連れてきていただき、とても嬉しく思います。私はここまで来られたことだけでも充分です。これまでどうもありがとうござ...」
「ちょっと!ちょっと待っておくれよエリーナ!いきなりどうしたんだい!?」
ビスクは戸惑うエリーナをなだめる。
「だって、ビスクがそんな偉い方だと思っていなくて...です」
「それは僕が黙っていたから...。気にしてほしくなかったんだ。だから、さっきみたいに接しておくれよ」
「でもここにいるビスクは皇太子で、私なんかが気軽に関わっていい相手じゃ無かった。だから出来ない...です」
言ってエリーナはビスクの前に低く構える。
「これまでの無礼お許しください」
「エリーナ、顔をあげなさい。ビスクも困っているわ。これまで通りでいいのよ。何も深く考える必要なんてないわ。私だって今こうやって普通に接しているもの」
「けれどリンダさんだって貴族よ!!」
エリーナの目は潤み、光を反射している。
「エリーナ...!」
ビスクは足元に構えたエリーナを抱き上げた。