次の世代へ
「失礼します、陛下」
入ってきたのはエリーナもよく見知った姿。
それと、どこかで会ったことがある鳥と、その影に隠れる子供。
「よく来てくれたねリンダ。そちらが君の?」
「ええ。旦那のサイと、息子のルークよ」
サイは一歩前に出る。
「お久しゅうございます。陛下、エリーナ様。お元気そうで嬉しいです」
「あの時は世話になった。似てる奴がいるとは思ったが、まさか本人だとは思わず、申し訳なかったよ」
「いえいえとんでもない。自ら行ったのでお気になさらないでください」
「...あの...」
エリーナは手をゆっくり上げた。
「私、どこかで会ってます?覚えていなくて...」
「はい、1度お会いしていますし、お話も少し。と言っても一言くらいですが」
エリーナはさっぱり思い出せなかった。
なかなかの美形だし、会話をしたことがあるなら尚更覚えていてもいいはず。
「私達は、いつお会いしました?」
「貴方様が最初にスカイランドにいらした時です」
「最初に来た時...?」
エリーナは注意深く記憶を遡る。
-ビスクが怪我をしていたから部屋で助けて、願いを叶えに来てくれて、願いが失敗して、リンダさんが来た。
スカイランドに行けばまだ願いを叶えていない鳥がいるかもしれないからって言って、スカイランドに...
その時ビスクは人間の姿で飛べなくて遣い鳥を呼んで籠に乗せてもらって、虹に乗ってスカイランドに...
...ん?遣い鳥に似た顔が...
エリーナはその時を思い出す。
「私じゃないわよ。そこの遣い鳥たちよ」
「そんな訳ないだろ!彼らはそこで休んでるじゃないか!」
ビスクとリンダが言い合っているのを見ながらふと、足元の虹が動いていることに気付いた。
もうだいぶ進んだだろうか。後ろを振り返るとずっと先まで虹が伸びている。
「もうすぐ扉が見えてくるはずですよ」
教えてくれたのはビスクが乗っていた籠を運んでいた遣い鳥の中の一羽だった。
「この虹はまっすぐスカイランドに繋がっています。もうしばらくすれば虹の先に扉が見えます。その扉の中はもうスカイランドです」
エリーナが感心して前に目をやると、小さく何かが見えた。
「扉...。着くんだわ。ビスクの故郷」
...ここだ。教えてくれた遣い鳥の顔、サイだ。
「...あの、遣い鳥さん?」
「そうです!私は貴族なのですが、一刻も早くリンダに会いたくて無理を言って遣い鳥として行かせていただいたのです」
サイはニカッと笑った。
エリーナは驚いてこれ以上声が出なかった。
「あれがサイだったって私も後で知ったのよ。まったく凄いことやるわ、貴方」
「でもおかげで今こうしてリンダと一緒にいられるから私は幸せです」
「もう。サイったら無茶するんだから」
リンダはため息をついた。
「ルーク、貴方も前へ出ていらっしゃい」
呼ばれた少年はおどおどと前へ出てきた。
「...ルークです」
ステラが前へ出た。
「ステラです。父と母がお世話になっています」
ステラが頭を下げるとリンダとサイは感心した。
「子供だとは思えないわね!ステラ様、ルークとも仲良くしてくださいな」
「はい、もちろんです!ルーク、よろしく!」
ルークはじっとステラを見たまま答えなかった。
ステラは不思議に思い、ルークを手に乗せる。
「ルーク?」
目をそらしたルークの顔を見ると、頬が赤くなっていた。
ステラも一緒に赤くなって固まった。
それをここにいる誰もが見逃さなかった。
しばらくして我に返ったステラはルークを下ろした。
「お父様、お母様、外で遊んできてもいいですか?」
「ええ、構わないわ」
するとルークもリンダの元へ歩いてきた。
「...僕も、行きたい」
「行ってらっしゃいな」
ルークの表情がここに来て初めて明るくなった。
「いこう!ルーク!」
走るステラに追いつこうとルークも飛んでいった。
リンダはエリーナに話しかける。
「あの子達、可愛いじゃない」
エリーナは頷いてビスクを見る。
するとビスクは俯いていた。
「ビスク?」
目と鼻を赤くして顔を上げる。
「リンダ、サイさん、提案が」
「ビスク、私と貴方のことがあるから前もって言うけど真剣にね?」
「わかっている。この子達を、許嫁にしたい。そして後、ルークをこの国の王として迎え入れたい」
「あら?王はステラちゃんじゃなくていいの?」
「あ...。そこは、あの子達に決めさせる!」
「まあ、いいんじゃない?あの子達なら、きっと平気ね。サイ、貴方もいいかしら?」
「そんな!断る理由なんて!」
「そうね。じゃあ、よろしくお願いします」
「ねぇ、グレイさん」
エリーナはグレイの元へ歩いていった。
「何でしょう」
「グレイさん、前に好きな人には幸せになってもらいたいって言ってましたよね?」
「はい。それがどうかしましたか?」
「あれ、リンダさんのことじゃないんですか?」
「...何のことです?」
「好きな人のことです!」
「違いますよ?」
「え!?」
「私が好きなのはビスク様です」
「...へ?」
「あんなに努力家な方はいらっしゃいません。絶対幸せになっていただきたかったのです」
「...な、なるほど」
「不思議ですよね男同士だというのに」
「いえ、そんなことは!それも一つの愛だと思いますよ?」
「そうですね、ありがとうございます」
「おーい、何の話をしているんだい?」
「ビスクには秘密です!」
グレイとエリーナは目を合わせて笑う。
「えー!?」
部屋全体が笑いに包まれた。
数年後、この国には女王が即位した。
無くなった旦那の羽を首飾りにして、共に立った。
後ろから見ていたエリーナの目には、成長したステラの背中がいつもより大きく見えた。
これからこの国を背負って1人で生きていかなければらない寂しさを、まだ知ることはできなかった。
この国では王は5~10年で代替わりするが、彼女はここから15年という長い期間1人で治めた。
王家の血を絶やさないために、ルークの弟であるアンドレーと子供を作ったが、結婚をすることは無かった。
数々の貴族たちが婚約を求めてきたが、その度に追い返した。
そしてついに代替わりをした。
ステラとアンドレーの間に生まれた子、タンザ。
強い母を見て育った子に未来を託し、ステラは身を引いた。
「お疲れ様。ステラ、もう休んでいいのよ」
「お母様、ありがとう」
ステラは母の膝の上でゆっくりと目を閉じた。
これまで読んで下さりありがとうございました!
作者の力不足でとても上手い文章とは言えませんが、
読んで下さる方がどんどん増え、力になりました!
これからの続きは考えていませんが、
要望があれば書くかもしれないです!
ありがとうございました!