王の娘
「もう!ステラ!!どこに行ったのよ、まったく...」
「どうせルナ王国じゃないのかい?君の故郷だと知ってから毎日のように行っているじゃないか」
「そんなに毎日行くほどいいところかしら...?」
「ステラにとっては目新しいものばかりだろうさ。僕も最初は色々見に行ったし」
「そうかしら?」とエリーナは困り顔で息を吐いた。
「もう時期帰ってきて、願いを叶えたい人ができたって言うわよあの子」
エリーナは机に置いていた紅茶を飲んだ。
ビスクは目を見開いて飛び跳ねた。
「何だって!?そんなの許さないぞ!?」
「ビスク、貴方父親でしょう?娘のやりたいようにさせてあげるものじゃないの?」
「まだあの子は子供だ!早すぎる!」
ビスクが一向に子離れをしようとしないためエリーナも呆れ顔だ。
「...心配なんだよ」
小声で俯き呟くビスクに、エリーナは紅茶を置いて歩み寄る。
目の前まで行って、抱きしめた。
「大丈夫よ。私たちの子供よ?私たちだって今こうして幸せにいられるわ」
ビスクもエリーナを抱きしめ返す。
「そうだね。娘を信じよう...」
-バン!
「お父様!お母様!おっ...」
勢いよく開いた扉は小さな女の子の手で静かに閉められた。
ビスクとエリーナは顔を見合わせて笑った。
「ステラ、入っていらっしゃい」
エリーナの優しい声に、部屋の扉はゆっくりと開いた。
そしてそこから女の子が顔を覗かせた。
部屋の中の2人が並んで立っているのを見て、表情を明るくした少女が走ってきて、母に抱きついた。
そしてビスクとエリーナを見上げた。
「ただいま帰りました!」
エリーナは少女と目線が同じになるように膝を折る。
右手の親指でで少女の左頬についた土汚れをそっと拭った。
ステラは生まれつき人間の姿だった。最近になって背中に羽が生えてきて飛べるようにもなった。
どうやらこの羽はしまうことも出来るらしく、ルナ王国に行く時などは羽をしまって人間として振舞っている。
「今日は何して遊んだの?」
「今日は追いかけっこでした!クロくん足がとっても速いんです!」
嬉しそうに話す少女の顔をビスクは寂しそうに見つめた。
「そう、クロくんって言うのね?ねぇ、お願い事の話は前にしたわよね?お願い事を叶えてあげたい人は見つかった?」
「うーん...」
ステラは腕を組んで首を傾けて唸った。
「クロくんとずっと一緒にいたいとか思わない?」
「...!? エリーナ!?君何を言って...」
エリーナはビスクの方を向いて人差し指を口元に当てる。
「うーん...」
ビスクとエリーナはステラが唸っている間静かに待った。
「...たい」
「え?」
「私はお父様とお母様とずっと一緒にいたい」
ビスクは目を潤ませて少女を勢いよく抱いた。
「ステラ!君はなんていい子なんだい!!父は嬉しいよ!!」
エリーナもこの答えには涙が出た。
「お父様、お母様、どうして泣いているの?」
「何でもない、何でもないんだよ、ステラ!」
「陛下、リンダ様がお見えになりました」
扉近くに控えていたグレイが声をかける。
「そうか。そのまま通してくれ」
「かしこまりました」