ふたりの別れ
「おっ!あれビスク様だぞ!ビスク陛下ーー!!!」
「陛下ー!おめでとうございまーーす!!」
「ビスク陛下ーー!!!」
ビスクがバルコニーに立つと、城の前に集まった国民達が歓声を上げ、ビスクに向かって大きく手を振った。
ビスクもそれに答えて手を振り返すと、さらに歓声は高まった。
ビスクが手を下ろすと、国民たちも歓声を抑えていった。
静かになった頃を見計らい、ビスクは喋り始めた。
「今日は私のためにこんなに多く集まってくれて、ありがとう」
再び歓声が上がる。
「こんなに早く王位を継ぐとは、正直考えていなかった。まだ前陛下は元気だし、私もまだこの国を背負うには若すぎる。きっと皆も不安だろう」
「そうなことない」という否定の声が飛び交うのを、ビスクは静止させる。
「実際そうなのだ。私はまだ生まれて2年程しか生きていない。この世の流れもわからない。私が1人で国を治めるのは、正直無理だと思っている。けれど、それは1人だから、と考えた場合だ。私には、応援して支えてくれる人がこんなにもいる!私のために集まってくれる人がこんなのもたくさん!」
ビスクは両手を広げると、それと同時にまた大きな歓声が上がった。
「私はまだまだ未熟だが、それでも私と一緒にこの国で歩んでくれる者はいるだろうか?」
歓声と拍手が起きた。
「もちろんついていくさ!!」
「頑張ってーー!!」
励ましの声がビスクの耳にも届いた。
ビスクの目からは涙がこぼれた。
「ありがとう...っ!僕はこの国を絶対に良くする。良くしてみせる!みんな共に歩んで欲しい!」
ビスクはお辞儀をして大歓声の広場を背に向けた。
「ご立派でした」
「ありがとう。...エリーナにも近くで見ていて欲しかったな...」
グレイは何も言わなかった。
ビスクは自分の部屋には戻らず、そのまま前王である母の部屋に向かった。
向かう途中、前からリンダとすれ違った。
「ビスク、立派な挨拶だったわよ。エリーナもきっと喜んでくれるわ」
「君は喜んでくれないのかい?」
「もちろん喜ぶわよ?喜ぶけど、今はもう王とただの貴族だし、許嫁ならもっと喜べたわね」
「それは...」
「冗談よっ!そんな本気で困らないでよ。私の方が困るじゃない。自信持ってもらえる!?」
「ごめん...でも君の気持ち考えたら...」
「それはお生憎様。私のことは心配しないで。悪いけど、もう新しく婚約したの」
「...え!?」
リンダは得意な笑みを浮かべた。
「そうなんだ...」
「なぁーに?素直に喜んでよ。まさか、後悔しちゃってる?」
ビスクは頭をかいた。
「まぁ、ね。リンダはキレイだし、厳しい時もあったけど優しいし、いつも一緒だったから、誰かと結婚すると聞くと...」
リンダは赤くなった。
「なっ...!冗談じゃないわ! ワガママもいいとこよ! それじゃエリーナが可哀想だし、手を引いた私だって!」
「ごめんよ。いつも一緒で、誰かと一緒になると会えなくなってしまうかもしれないからそれが嫌で。でも、リンダに幸せになって欲しいって気持ちは変わらないから、僕じゃなくても、リンダが幸せになれるなら、僕は応援するよ。弱気なとこ見せてごめんよ」
ビスクは苦笑いをした。
「まあ別に、会えないわけじゃないしね。国王様が呼んでくださればっ」
「からかうなよ」
ふたりは大声で笑った。
「私はこれから彼のところに行くの。じゃあまたね!」
「うん。ありがとう。またね、リンダ!」
互いに一歩前へ出て歩き始め、互いが視界から出たのを確認し、気付かれないようにふたりは涙を流した。