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王子と許嫁

「ビスク...」

ビスクはエリーナに微笑んだ。

「じゃあグレイが帰ってくる前に少し話をしよう。中へお入り」

エリーナはビスクに促され部屋の中に入った。


「エリーナさん、お待たせしてしまってごめんなさいね。少し親子として話すことがあったのよ。許してちょうだい」

「いえ、とんでもないです! 」

女王は少し笑った。

一呼吸おいて微笑みながら言った。

「エリーナさん、この国に住むつもりは無い?」

「それは...。私は元は人間ですし、この国に住むのは...」

「あら、それは問題ないわ!だってこの国の王配は元々人間よ?」

エリーナは驚いた。

ビスクの父は人間だったのだ。

ビスクの母は女王であるにも関わらず人間と結婚した。

そんなことが有り得るとはエリーナは思ってもみなかった。

エリーナは、グレイが言っていたことを思い出した。


-許嫁のような政や世間体のための結婚ではなく、心から惹かれあった者同士、共に支えあっていける結婚をして欲しいのです。王族や貴族だからとか、関係なくです。


「私は...」

エリーナの声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。

-もし王族や貴族だからとか考えなくてもいいなら、私が思うようにしていいなら...

「私は...!私はビスクと一緒にいたい!ビスクの隣に誰かが居るのは、嫌です!」

エリーナの目から1滴、こぼれた。

それを見たビスクの目も潤んでいた。

「母上、僕からもお願いします。エリーナと一緒にいたいです。一時(いっとき)ではありません。これから先、永久にです!」

女王はしばらくふたりを見つめた。


「...いいでしょう。私も人間と結婚した身です。反対する理由なんてありません」

ビスクはエリーナを抱き上げた。

「よかった!よかった!!」


-トン、トン

「失礼します。お2方をお連れしました」

グレイは部屋に入るとすぐ横に避けた。

その後から2羽の影が見えた。

片方は知らないが、もう一方にはエリーナにも見覚えがあった。

「リンダさん...」

「エリーナ、また会えたわね」

リンダは笑った。

「よく来てくれました。ゴードン、リンダ」

「女王陛下のお呼びとあらばいつ何時でも」

ゴードンと呼ばれた鳥は頭を下げる。

体はリンダより一回りも二回りも大きく、低く渋い声が胸のあたりに響いてくる。

「今回呼んだのは他でもありません。ビスクとの許嫁の件です。この約束、破棄させていただきたいのです」

ゴードンは目を見開いて驚いた。

「それは!!どういう訳にございますか!?」

「私は、この様な親が決めた相手と結婚するより、お互い当人達が惹かれあった者同士一緒になるのが良いと思うのです」

ゴードンは話を聞くだけで特に反応は示していない。

「ビスクは人間の国へ行き、共になりたいと思う方を見つけてきました。その思いを押さえ込んでまで古い約束に従うことはないのではないでしょうか?」

ゴードンは溜め息をつき、口を開いた。

「さすが人間びいきの女王様の意見だ。わが子にご自分の姿でも重ねられたのですか?お言葉ですが、許嫁はずっと前から決まっていたのです。それを今更破棄するなど...!私の一族をおとしめるためにございますか?ならば私を解任させればよろしいものを、わざわざ王妃になれるはずだった娘の未来を捨てさせてまでご自分のお子様を優先させますか?」

「お父様!口が過ぎます!」

「お前は黙ってろ!!! 陛下、こればっかりは受けられません」

場が一瞬にして凍りついた。

女王も、何も言えなくなってしまった。


震えるエリーナをビスクは腕の中にしっかり抱き、一歩出た。

そしてそのままゴードンの前に歩き始めた。

その距離3メートル程の近さで立ち止まった。

そしてリンダの方を向いた。

「リンダ、これから君にとってすごく酷いことを言うけれど、すまない。これが僕の気持ちだから」

ビスクはゴードンの方を向いた。

「ゴードン様、この度は私めのワガママを聞いていただきありがとうございます。 私は母が申した通り、人間の国で、一緒になりたいと思う方を見つけました。決して貴方様をおとしめる為でも、リンダを嫌いになった、という訳でもございません。 私はこれまでこの国の王子として決められた道を生きるのだと思っていました。 それが嫌ではなかったし、期待されることに誇りも感じていました。 その声に答えたいとも思っています。 ですが、決められた道を生きるだけでは嫌です。 誰かを好きになるこんな気持ちは初めてなのです。 私はこの気持ちを大事にしたいと思います。どうかわかっていただけませんか? 無理を言っているのはわかっています。 どうか、お願いします!!」

ビスクの腕の中でエリーナも頭を下げた。

「お願いします!」


ゴードンが返事をしようとしない中、横からリンダが父に言った。

「お父様、私からもお願いします」

ビスクとエリーナは驚いた。

リンダに大きい罪悪感があった2人だったので、リンダが賛同してくれるとは思っていなかったからだ。

ゴードンはそれ以上に驚いた。

「何故だ?リンダ。お前はこの国の王妃にあと少しでなれるとこだったんだぞ?ビスク王子が帰ってこられて、お前も帰ってきて、もうすぐ...もうすぐだったんだ!それを、それを...」

「お父様もういいわ。そりゃ、ビスクと結婚出来れば良い暮らしは出来るし、この先苦労もしないと思う。今この婚約を破棄すれば、いつか絶対後悔する時がくると思うわ。けどね、こんなに愛し合ってる2人を引き裂いてしまう方が、きっと後悔が大きいわ。だからねお父様、私はこの2人を応援したいの。許してもらえない?」

ゴードンは目を真ん丸にしてリンダを見ています。

「お前は本当にそれでいいのか?」

「ええ、もちろん」

ゴードンは首を振った。

「仕方ない...」

リンダはエリーナとビスクを見てニコッと笑った。

エリーナとビスクは喜んだ。

「ゴードン様、ありがとうございます!」

ビスクは深々頭を下げた。

するとゴードンは鋭い眼差しでビスクを見た。

「その代わり、良い王になってこの国を良くして貰うからな。異論は認めんぞ?」

「はい!肝に銘じておきます」

ふんっ、と鼻をならしゴードンは部屋を出ていった。

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