皇太子と人間
今回いつもより長めです!
エリーナはメアリに付いて行き、豪華な扉の前に立った。
扉を見て右の方、エリーナが歩いてきたのとは逆の方から正装したビスクが歩いてきた。
ビスクはエリーナの横に立ち、「ふう」と息を吐いた。
緊張しているようだった。
ビスクが頷き前を向くと、横に控えた鳥たちが扉を開けた。
部屋からあふれる光が眩しい。
「ビスク様、エリーナ様、お着きになられました!」ね
言ったのは部屋の中入ってすぐに控えていたグレイだった。
ビスクは前に進む。
エリーナも慌てて付いていく。
目の前に広がる景色にエリーナは驚かずにはいられなかった。
眩しい青い部屋。
よく見ると周りの壁や天井はガラスで出来ているようで、外の光を多く吸収していた。
青いガラスで、まるでクリスタルの中にいるようだった。
キョロキョロしながら歩き、立ち止まったビスクにぶつかってしまった。
「よく帰ってきてくれました」
とても優しい声...
ビスクが母上と呼ぶ女性、この国の女王は人間の姿だった。
人間の姿の背中に鳥の翼が付いている。
美しい方だ。
笑顔を向けられると陽だまりに包まれているような感覚になる。
「母上、ただいま」
「おかえりなさい、ビスク。そちらの方がエリーナさんね?」
向けられた陽だまりにエリーナは圧倒されてしまった。
さっきまで平気だったのに、急に緊張してきた...
「は、はい!」
「可愛らしい方ねぇ。この国はどう?」
「はいっ!活気もあって、とても良いところだと思いましたっ!」
それを聞くと女王は微笑みました。
「嬉しいわ、ありがとう。貴方この国に住むのでしょ?」
「母上!」
「あらあらごめんなさい?だって貴方が連れてくるんだもの。そういう相手だと思うじゃない?」
「母上それは...」
「ごめんなさいね、焦ってしまって。どうしても生きているうちに孫は見たいものよ?」
「努力します。それより...」
「それよりあなた、何故帰ってきたのかしら?女の子と願いを叶えると言うものだから、もう人間の国に住むものだと思っていたのよ?もしかして、また願いを叶えたいのかしら?」
図星、というようにビスクはビクッとした。
女王にもそれが伝わったのか、少し誇らしげな顔だった。
「この国に、まだ願いを叶えていない鳥はどのくらいおりましょうか?」
「さあ、わかりかねます。ですがこれだけは言えます。願いを叶えられるのは1生に1回。それが定めなのです。貴方も知っているでしょう?」
「はい」
「そんな貴重な願いを、他人のために使ってしまうような者はいないでしょう」
ビスクは俯く。
確かにそうだ。ビスクもエリーナも、お互いの、自分のために使ったのだ。それをみすみす他人に使うなど、そんな勿体ないことをするはずがない。
「ビスク...私はこのままでいいよ?」
少年は振り向きます。
「私は鳥の姿でいい。そしてこの国で暮らすの。だって素敵よ?こんな楽しいところ、毎日だって飽きないわ!これまでが屋敷の中だったから、こんな自由夢みたいだわ!それにビスクも一緒でしょう?だったら、同じ姿じゃ無くても構わないわ!」
「エリーナ...」
「連れてきてくれてありがとう」
ビスクは涙を流した。「ごめん、ごめん」と何度も言いながら。
エリーナはできる限り笑顔を作りました。
「エリーナさん、少しビスクと2人にさせてもらえるかしら?」
わかりました、とエリーナは部屋を出た。グレイもその時一緒に外に出た。
「中で何を話しているのでしょうね」
「はて、王のお考えは時々わかりませぬ。ビスク様には許嫁が...」
はっ、とグレイは口を閉じる。
「大丈夫。さっきメアリさんから聞きました。リンダさんでしょう?あの2人お似合いよね。仲も良いみたいだし、きっとうまく支えあっていけるんじゃないかと思います」
「それは貴方の本心で言っておられるのですか?」
「...ええ、もちろ...」
「嘘です」
「えっ」
「貴方はビスク殿下のことを好いておられるのですよね?」
「私が、ビスクを...?」
「そうです。貴方は、あの方の隣にリンダ様がずっとおられて、寄り添い、生涯を共にすることを心から願えますか?」
「それは...」
できない、という四文字を飲み込んだ。
これはビスクとリンダの2人のことで、外から来たエリーナには関係ない。
このふたりの間に入ることは許されないのだ。
だから、嫌でもこのふたりの先を応援するしかエリーナには出来ないのだ。
エリーナは溢れそうな涙を堪えた。
「私は...」
グレイは泣きそうなエリーナに向かって言った。
「私は、彼らが共になる事を心から願うことは出来ません」
予想外の答えにエリーナは驚いた。