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第七話 目標達成、名声赫赫!

「あ、おかえりソフィちゃん」


 ふらふらとギルドに入ると勇者アルバートが声を掛けてきた。まだ居たのか……。

 疲れているのにこんなやつの相手はしてられない。勇者を無視して受付嬢の前まで進み、引きずっていた牙をカウンターにどんと音を立てて置いた。


「ラッシュボアの牙だ。これで良いんだろう?」


 受付嬢は目を見開いて私の顔と牙を交互に見た。周りの冒険者も何やらざわついている。勇者だけはにこにこと見ているがお前は見るな。


「おい、これが討伐証明になると聞いたんだが」

「……あ、はい。大丈夫です」


 正気を取り戻した受付嬢は何やら書類に書き記すと、カウンターの下に用意してあったのだろう袋を取り出し目の前に置く。


「こちらが報酬になります。銀貨五十枚、ご確認下さい。」

「ああ」


 袋を開けて中身を見る。ヘリオス大陸で使用されている通貨は初めて見るが、魔大陸のものと大して変わらんな。取り出して数えるなどというみみっちい真似はせず、すぐに袋を閉じる。それよりも聞いておきたいことがある。


「町の入り口にラッシュボアを置いている。処分しておいてくれるか?」

「は? ラッシュボアを?」

「そうだ」

「……まるごとですか?」

「そうだ。討伐証明が分からなかったから、まるごと持ってきて門番に聞いた」

「……じゃ、じゃあ、その素材も買い取りしますね……ちょっとまっていて下さい」


 受付嬢は近くに居た男性職員に声を掛けると、男は走ってギルドを出ていく。本当にあるのか見に行くのだろう。


「ところで金貨1枚は、銀貨何枚だ?」

「え? 銀貨100枚で金貨一枚ですが……」


 ということは、ラッシュボアを20頭討伐すれば金貨10枚か。戦闘は一瞬で終わるとはいえ、移動の回数が増えるのはめんどくさい事この上ないし、出来ればもっと割の良い仕事をしたい。


「明日行ってくるから何か依頼を寄こせ。もっと歯ごたえのあるやつだ」

「ラッシュボアでは不足でしたか……?」

「全然ダメだ。移動のほうが時間が掛かった」

「そうですか……うーん」


 受付嬢はうなりながらも何枚かの依頼書を取り出す。出し惜しみするなよ。


「これはどうですか?」

「全部見せろ」


 厳選したのか、取り出した依頼書のうちの何枚かだけを渡そうとしてくるので、それも含めて全ての依頼書をひったくる。

 うーむ、ワイルドウルフの群れの討伐、銀貨八十枚。ケイブパイソン討伐、金貨一枚……。さらっと目を通していくが、どれもこれもラッシュボアよりマシという程度でしょっぱい依頼ばかりだ。


 依頼書の束を眺めていると、入り口の方からどたばたと騒がしい音が聞こえてきた。振り向くと先ほど出ていった職員だった。私をじろじろと見ながら横を通り過ぎ、受付嬢の元に行き何やら話す。


「えーと、状態も良かったみたいですので、まるごと買い取ります。そうですね、こちらでギルドまで運んで解体もするので、手数料を引いて銀貨二十枚でどうでしょうか?」


 ほう、買い取って貰えるのか。処分しておいてもらうだけのつもりだったが、儲けたな。

 これで合わせて銀貨七十枚か。討伐証明の部位が分からなかったからまるごと持ってきたが、正解だったな。今後もまるごと持って帰ろう。


「いいだろう。買い取ってくれ」

「今度は消し炭にしなかったんだ?」

「む……」


 声の方向に目を向けると勇者だった。まだ居たのか。


「私は同じ失敗は繰り返さない」

「そっか。さすがだね」


 今回は風の精霊魔法で脳天を貫いてやったからな。森を焼くような失敗はしていない。


「いつまで居る気だ? さっさと帰れ」

「はは。じゃあそうさせてもらうよ。そろそろお腹もすいたしね」


 ひらひらと手を振りながらギルドを出て行く勇者は無視し依頼書に目を戻す。お、コッカトリスの討伐が金貨4枚だ、これにしよう。


「これを受ける。素材はまるごとギルドに持ってくるぞ」

「これをですか? いくらなんでも一人じゃ危険ですよ」

「私は強いから大丈夫だ」


 コッカトリスは噛みつかれると石化してしまう、鳥型の魔獣だ。鳥と言っても飛べないし、近づかれる前に殺してしまえばいいだけの話だ。


「そういう問題ではありません。とにかく一人では駄目です」


 話しを聞いてみると、人族とはパーティとやらを組んで魔獣を討伐するのが基本だそうだ。特にコッカトリスの様な状態異常を掛けてくる魔獣に対し一人で立ち向かうと、そいつがいかに強かろうが何かのミスで石化してしまえば取り返しのつかない事になる。

 そういった緊急事態を防ぐために複数人で挑むらしい。いかにも弱っちい人族の発想である。


「せめてソフィさんが上級冒険者であれば一人でも良いのですが」

「私の存在は最上級だが」

「以前はどうだったのか知りませんが、冒険者登録をしたばかりですので今は下級扱いです。誰か他の冒険者の方と合同で行って下さい」

「じゃあ明日までに誰か用意しておけ。勇者は駄目だぞ」

「勇者様はこんな依頼受けませんよ……あ、そうだ、こちらをお渡ししておきます」

「何だこれは」


 渡されたのは手のひらほどのサイズの鉄の板だ。私の名前が書かれている。


「ギルドカードです。一応、身分証にもなりますが、魔獣をまるごと持ってくるのであれば、門番にこれを見せてください」

「わかった」

「あと、こちらが素材の買い取り金です」

「うむ、確かに」


 追加で渡された銀貨二十枚とギルドカードとやらをまとめて袋に突っ込み、さあ帰ろうとした所で帰る家が無いことを思い出した。


「宿を紹介してくれ。飯の出るところをな」



・・・・・・・・・・



 ザコ魔獣をひたすら狩り続けて十日ほど経った。

 この十日間、ヘリオス大陸のダンジョンの情報を集め、近場にあるようなら実際に行ってみたが、サキュバスの言うとおりどこも似たようなレベルのザコダンジョンばかりだった。とりあえず支配下に置いてもっと魔力を集める様に言っておいたが、期待は出来ないだろう。

 意外だったのは他のダンジョンに比べ、サキュバスのダンジョンの方が多くの魔力を収集していた事だ。もちろん私のダンジョン(おうち)からすれば微々たるものだが、逃げ回っていると言っていた割に多かった。

 たぶんサキュバスならではの方法で集めているのであろう。ベッドもあったし。


 ともかく、今は討伐の帰りだが、この依頼を完了すれば金貨が目標の十枚に達する。思っていたよりも時間が掛かってしまったが、その原因のひとつは食事だった。受付嬢に適当な宿を紹介して貰ったのだが、そこの料理が私の口に合った。そこで様々な料理を食べ歩きしていたら金が掛かってしまった。人族も中々やるものである。


「よう! 聞いたぜソフィちゃん、上級になるんだってな!」


 今日の依頼で討伐したワイルドウルフの牙を大量に詰めた大きな袋を引きずってギルドへ入ると、冒険者の一人が馴れ馴れしく声を掛けてきた。そう言えば、受付嬢がそんな事を言っていた。


「うむ。私なら当然の結果だな」

「いやあ、中級を飛び越して上級だなんて、とんでもないやつだな」

「でもあの魔法を見たら納得だよね」

「確かにありゃすごかった!」


 他の冒険者も次々に声を掛けてくる。こいつらは一緒に依頼を受けた奴らだ。本当は一人でやりたかったが、上級冒険者になるまでは難しい依頼――私にとっては簡単なものだったが――は一人では受けられないと受付嬢が言うので、しかたなく同行を許した。

 最初は失礼にも疑いの目で見ていた冒険者たちだったが、私が魔法一発で魔獣を吹き飛ばすと急速に馴れ馴れしくなった。人族は弱いと思っていたがまさかあんなザコ魔獣に苦戦するほどとは思っていなかったため、急に手のひらを返して私を賞賛し始めた時は何事かと思った。魔大陸にやって来て我がダンジョンに侵入してくる冒険者は人族の中では強い方だったようだ。


「また一緒に討伐行こうぜ!」

「む……機会があればな」


 目標金額が貯まった以上、機会は来ない。私はさっさと魔大陸に帰る!


「おめでとうございます。これで上級冒険者ですよ」

「うむ」


 受付嬢に牙の入った袋を渡すと握手を求めてきた。最後だしこれくらいは良いかと思い手を握り返すと、受付嬢はにこりと微笑んだ。


「これからもご活躍を期待していますよ」


 興味ないが、人族として信用と地位を得てしまったようだ。

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