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第一話 絶体絶命、勇者襲来!

よろしくお願いします。

2017/06/28 改稿

 私はダンジョンマスターである。

 名前はジーフソフィーリアだ。親しみを込めてソフィとでも呼んでくれ。


 ダンジョンマスターとは、ダンジョンを管理し、君臨するボスの事だ。

 つまりダンジョンの中で一番強いということだ。そんじょそこらの冒険者なんて軽く返り討ちに出来るだけの力がある。


 しかし今まさに危急存亡の(とき)。私は危機に瀕しているのだ。


「マスター! 二十三階層が突破されました!」


 私のダンジョンは二十五階層が最深層であるため、あと一つ、階層を突破されれば私の目の前に現れる。

 この危機を我がダンジョンにもたらした、私にとっての死神とも言える、奴が。


「……マスター、私も出撃します。きっと奴を止めてみせましょう」


 恐らく、いや、確実に無理だろう。

 こいつは私の側近の配下で、このダンジョン内では私の次に強いが、奴には勝てない。

 それが分かっていても、私は止められないし、こいつも分かった上で言っているのだ。

 覚悟を決めた目をしている。なら、送り出してやるべきだ。


「……期待している」


 私のダンジョンは今、侵入者に対し為す術もなく攻略されている。

 数々の罠も、召喚した魔獣も、頼りになる配下も、足止めすら出来なかった。

 幾度と無く人間の冒険者どもを返り討ちにしてきた私のダンジョンも、今日で終わりか。奴には、私では勝てない。


 頭上から轟音が聞こえる。

 戦闘が始まったようだ。


 数分もしないうちに奴は突破するだろう。そしてこの二十五階層、玉座の間の扉を開け、私の目の前に姿を表わすのだ。

 私が負けるとしても、ダンジョンマスターとしてのプライドがある。成すすべなく散っていった配下のためにも、私は引かず、立ち向かおう。せめて一矢報いてやろう。


 奴が扉を開けた時、言ってやるのだ。

 胸を張り、魔王のように傲慢に。


 ───よくぞ来た『勇者』よ、と。


 ダンジョンを揺らす轟音が止んだ。

 やはり、あいつでも止めることは出来なかったか。

 勇者の気配が近づいてくる。


 荘厳華麗で装飾過剰な扉が、低い唸り声のような音を立てて開いていく。


 来たか。


 一人の人間が、光り輝く剣を携え、この世の何にも負けない自信と尊厳を持ってやってきた。

 その姿は正真正銘、人類の希望、我ら魔族の最大最強の敵、間違いなく勇者だ。


 さあ、言ってやろう。

 胸を張り、魔王のように傲慢に。


「よくぞき───」

「あれ?! なんでこんな所に子どもが?」


 私の精一杯の尊厳は驚くほど軽く間抜けそうな声に遮られた。


「まいったな、さっきのがボスだったのか。それなら温存なんかするんじゃ無かったな。キミは人質? 魔族に攫われたのかい?」

「わ、私はっ」

「とにかくここは危険だ。さっさと出よう」


 勇者は凄まじい速さで近づき、あろうことか私を抱きかかえた。


「は、はなせ!」


 なんて力だ! 振りほどけない! びくともしない!


「怖がらなくていいよ、僕はアルバート。勇者アルバートだ」


 そんな事は知っている!

 いいから離せ!


 私が暴れるのを魔族に攫われて気が動転していると勘違いした勇者は、とにかくダンジョンから出る事を優先したらしい。

 暴れる私を気にすることもなく、抱きかかえたまま走りだした。


「さっきの戦闘の影響でダンジョンが崩れるかもしれない。悪いけどこのまま外まで行くよ」


 私のダンジョンがそう簡単に崩れるものか!


「い、いやだ!」


 私はなおも暴れるが抵抗むなしく地上の光が見えてきた。


 たいへんだ! ダンジョンマスターはダンジョンから出るとダンジョンコアの影響を受けられず弱体化してしまう!


「いーやーだー!」


 私の叫びは尾を引きながら薄暗いダンジョンを虚しく反響するだけだった。



・・・・・・・・・・



「ここまで来ればもう安全かな」


 勇者アルバートはダンジョンを出た後も立ち止まらず、その後も凄まじい速度で走り続けた結果、ダンジョンからかなり離れた位置まで来てしまった。


「うぅ……おうちかえりたい」


 ダンジョンコアから離れすぎたせいで弱体化し、私は大事なものを失った喪失感と寂寥感で泣きそうになっていた。


「大丈夫! 僕が家まで送るよ」


 私の家はさっきのダンジョンだ!


「とりあえず魔族領を離れて人族の領域、ヘリオス大陸へ向かおう」

「ひ、ひとぞくのりょういき?」


 そんな所まで連行する気か!


「そうか、自分がどこに居るか分かってなかったのか。ここは魔族領、魔大陸なんだ。でも安心して。僕と一緒に居れば安全さ」


 お前のそばが一番危険なんだよ!

 最大最強の敵の腕の中なんだよ!


「日が暮れる前に休める場所まで行こう」


 そう言うと勇者アルバートは私を抱きかかえたまま、また走りだしてしまった。


 ああ、どうしよう。

 私の話は聞いてくれないし、聞いてくれた所で弱体化した今の私じゃ配下のために一矢報いるなんて不可能だ。

 臥薪嘗胆、今は耐え忍ぶ時か。散っていった、配下のために。

 だが、魔族だとバレた瞬間殺される。私の命は奴の手の内も同然だ。物理的にも手の内だ。


 絶体絶命……だが、私はやるぞ!

 敵を討ち、お家(ダンジョン)に帰るのだ!


 勇者に小脇に抱えられたまま、私は決意を新たにした。




 嗚呼、早くお家に帰りたい……。

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