ハーレム王国の崩壊
常川大治は今年25歳の誕生日を迎えたばかりだった。
大人としてはまだまだ若い節目の年に、大治は自分がある能力を持っていることに気付いた。
それは”付き合っている間だけ相手の病気を治せる”能力である。
病気といっても色々あるがうつなどの精神病や末期ガンなどもそれに含まれる。
大治は心療内科で出会った女の子と付き合ったとき初めて自分のその能力に気付いたのだ。
いつも頑なに自分の世界に閉じこもり、人前では滅多に笑わない彼女が自分の前でだけ笑ってくれたのは
不思議なことだと思っていた。
大治と付き合い始めてから彼女はみるみるうちに回復していき、気付いた頃には大治より先に精神科を卒業していた。
これだけでは”相手の病気を治せる能力”かは分からないが(ただの偶然ということもありうるからだ。)
それを確かなものと決定づける事件が大治の目の前で起こることになる。
◇
元気になった彼女とは打って変わて憂鬱な日々を送っていた大治はある日
メールで彼女に別れを告げて音信不通になってしまう。
その数か月後に心療内科で彼女に会ったときは気まずさよりも彼女の憔悴ぶりに驚いた。
長めの前髪から覗いた目には光がなく、目の下にはクマが出来ていた。
大治は彼女がここまでやつれたのは自分が別れを切り出したせいなのだと思わざるを得なかった。
◇
しかし大治が付き合った異性はその子だけはなかった。
ある時は末期ガンで余命宣告を受けた80歳の老婆と付き合い、
またある時は目の不自由な女の子と付き合って視力を回復させたこともあった。
大治の”付き合っている間だけ相手の病気を治せる”能力は瞬く間に噂で広まり、
不治の病に侵された女性たちがこぞって大治のもとに訪れた。
大治は彼女たちの告白を断らずに全て受け入れたため
気付けば同時に1000人以上の女性と付き合うことになっていた。
中にはネットで知り合ってメールでやり取りをするだけの彼女もいた。
それでも付き合っていることになるらしく、彼女の病状は次第に良くなっていった。
大治はすべての彼女とメアドを交換していたため毎日のようにデートの誘いのメールが届いた。
おそらく大治にフラれて元の状態に戻るのを恐れているのだろう。
デートに誘ったり貢いだりするのは私をふらないでねというアピールなのだ。
流石に全ての誘いに応じることはできないので
大治はその中から自分好みの娘を選り好みするようになった。
元が病人とは言え付き合ってる間は健康そのものな彼女たちはとても魅力的だった。
彼女たちに貢がれて働く必要もなくなった大治はデート三昧の日々で有頂天に達していた。
◇
ある日大治は恋人を4,5人連れて夜の街を練り歩いていた。
大治はお気に入りの若い娘たちに囲まれご満悦の様子だった。
飲み屋を数件ハシゴしてぐでんぐでんに酔っ払っていた頃
ピロリン♪
とメールの着信音が鳴って大治はスマホの画面を一瞥するが
「またこの婆ちゃんかー…めんどくせえからもう切るか。」
と言って老婆の連絡先をアドレス帳から削除してしまう。
それを見ていた若い娘の一人が不安げに
「ちょっとー私のは消さないでねー」
と言ってきたので
大治は「○○ちゃんは好きだから消さないよw」
と言いつつ酔った勢いでめんどうな恋人の連絡先を片っ端から削除していった。
―――――――それから半年後
玄関のインターホンが鳴って大治がドアを開けると
目の前には中年の刑事と思われるいかつい男が立っていた。
男は「○○署の者ですが」
と言って警察手帳を見せると、
「常川大治さんのお宅で間違いないですね?」
と聞いてきた。
大治が刑事の剣幕に気圧されて
「はい。そうですが…。」
と答えると
中年刑事は
「突然ですが署までご同行願います。」
といって大治をパトカーで連行していった。
警察署で取り調べを受けているうちに
大治は自分が殺人罪の疑いをかけられていることが分かった。
大治が酔った勢いで連絡先を削除した元恋人の中には
ガンで余命宣告をされた老婆など大治が付き合うのをやめたらすぐにしんでしまうような人が大勢含まれていたのだった。
そして相次いで不審死を遂げた女性たちの共通点は「常川大治と交際していた」ことだった。
そのことから警察は大治を殺人事件の被疑者とみて捜査を開始したのだ。
◇
その後・・・刑務所送りになった大治の獄中での自殺をきっかけに、
それまで付き合ってい娘たちも病気をぶり返し数年後には相次いで不審な死を遂げた。
そうして大治の築き上げたハーレム王国は国王の死によって崩壊することになったのだった。(おしまい)