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夢はヒーロー、今はヒール

作者: こもん

別に望んでヒールになった訳じゃない。


誰しも毎週のように殴られ蹴られ、果てはプライドまでズタズタにされながら逃げ帰るマネはしたくないだろう。


私、藤堂正樹は夢みる少年であった。あらゆる敵を粉砕し、打ちのめす。そんな剛毅なヒーローに憧れた。だが夢は夢であった。


世は不況、私は名も聞かないような大学の就活生。就職先に反社会組織がリストアップされるのも時間はかからなかった。


そして、私は地球壊し隊「アトミック」に下っ端Fとして入社した。そこから剛毅なヒーローの幻影に取り憑かれた私はどんなヒーローにも勇猛果敢に挑み、倒された。しかしその泥臭い行動が評価され下っ端Fから煉獄の炎の使い手「ファイアレッド」にまで昇進した。


今日は日曜日、時刻はそろそろ七時を回る。この世で最もヒーローが活躍し、そして反社会組織が世から消える時間帯がやってくる。


私はいつも通り新宿御苑の芝生でヒーロー戦隊「iPS」を待つ。時計は6時59分を指した頃、iPSの連中が此方にタラタラ歩いてくるのが目に映った。私は声を大にして下っ端を鼓舞した。


「さぁ、踏み出そう。この荒れた大地を。

さぁ、蹂躙しよう。この豊かな大地を。

今こそ世界は流転する。

力は流動し、世界は狂う。

今日こそ我々が勝利を手中に納める時だ。」


下っ端たちはクロキツネザルのように飛び跳ねながらiPS戦隊に向かっていく。iPS戦隊は慣れた手つきで下っ端を倒していく。


数分の内に戦場に立っているのはiPS戦隊とファイアレッドだけとなった。


「フハハハハ、よくこのファイアレッドの元まで辿り着いたな。しかし貴様の命運もここまでだ。煉獄の炎に抱かれて死ねっ!」


私はいつも通りの登場文句を言った。

そしておそらく今回も負けて逃げるのだろう。そして来週も、再来週も、、、負け続いていくのだろう。


「今回で茶番は終わりだよ。アトミックの本拠地はドートルの上。貴様らの命運は尽きたんだ。」


iPSのレッドはため息交じりに言葉を続ける。


「僕たちはここで随分と足止めを喰らってしまった。組織一つを潰すのに一年もかかるようなiPS戦隊に見切りをつけてブルーは辞めてしまった。そこで相談だ。君も1人の大人だろ。怪我だってしたくないだろ。こんな茶番は辞めて、ヒーローとしてやり直そうじゃないか。」


その言葉は私の心を大きく揺さぶった。夢が叶うのだ。子供の頃からの夢が、叶わぬと知りながら持ち続けた夢が叶うのだ。しかし剛毅なヒールであるファイアレッドの心を揺さぶることは少しも出来はしなかった。


そして今の私はファイアレッドなのだ。



「フハハハハ、一昨日来やがれ。」


全て断ち切るように声を張り上げながら、iPS戦隊の元へ駆けていく。身に纏うは煉獄の炎。身を焦がし、心を燃やし、私はレッドに拳を振るう。レッドはそれに応えるかのようにクロスカウンターを決めてくる。


いつからだ。いつから私はここが愛しくなったのだろうか。アトミックを守りたいと思ったのだろうか。つまらぬ事や辛い事ばかりのここを、何一つだって好きになれなかった。


もう一撃、レッドに拳を振るう。もう一度クロスカウンターが決まる。視界の端にiPS戦隊が私を囲うように展開していくのが映る。


ーーーーけれど、何一つだって嫌いになれやしなかった。


「てめぇは嫌なヒールだったぜ。」


「あぁ、私も君たちが嫌だった。」


逃げる私を延々としぶとく追ってくる君らが嫌いだった。私の全てを破壊する君らが大嫌いだった。


「あばよ、ファイアレッド。」

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― 新着の感想 ―
[一言] 感想から失礼します。 怪人の悲哀……行間を想像し、泣けてきます。 誰しも理想の自分(ヒーロー)になりたくて、なれなくて、真逆の立場になっている……ってことは大なり小なり有るんじゃないでし…
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