Section11
俺はずっと下を向いていた。
別に人に見られてたからじゃない。
そんなにずっと、ミキを見ていられるわけないじゃないか。
「ココア…」
「は?」
「ココア飲みだぃ」
「…」
「ココア飲みたい!!!」
「は、はい!」
敬語に戻ってしまった。
昔は泣き止んでもこんなんじゃなかったのに。
唯一、昔と違うところのような気がする。
でも、なんかかわいく思えてきた。
「ぷっ…」
おもわず拭きだしてしまった。
ミキは負けじと対抗する。
「早くぅ!!」
「はいはい…」
ミキはココアが好きだった。
それ思い出して、またちょっと笑えてきた。
俺はココアを買いに近くの自動販売機へ向かう。
運よく自動販売機にはココアが置いてあった。
俺はすぐにココアを買って、ミキの元へ戻った。
暗くてよく分からなかったけど、ミキは結構落ちついてた。
俺がココアを渡して座ろうとしたときだ。
「ホットがいい」
「え?」
「ホットココアがいい!」
なんかほんとにかわいかった。
20歳も自分より年上なのに。
実際、ほかの人から見たら会ってから半年もたってないのに。
なにより、恋人でもないのに。
そんなミキに俺は言ってやった。
「こんな真夏にホットココアとかおいてねぇよ、バカ…」
「…バカ」
「はいはい…」
ミキが座ってる横に俺が立ってる。
この光景、よく見たな。って思った。
自分でも確信めいてるデジャブだ。
ミキは相変わらずプリンだった。
プリンって言うのは頭がプリンみたいな形してるわけ。
でも、それがかわいくて頭なでてたんだっけ。
なんとなくだったけど、前みたいに、ミキの頭に手をおいてぐしゃぐしゃってやった。
ミキは少し照れたように笑ったあと、少し起こったような顔して肩をバシバシたたいてきたんだ。
時間は8時半を過ぎていた。
それに気づいたミキは、結構あせりだしてた。
「やばい!」
「この後何かあったっけ?」
「晩御飯の準備しなきゃっ!」
忘れてた。
すっかりもう、前に戻っちゃったみたいで忘れてた。
今はもう、ミキは俺の彼女じゃない。
ただの知り合いなんだ。
だけど、俺の心はすっきりしてた。
だって、すべてを打ち明けた後なんだから。
ギャグ交じりに俺はミキに言った。
「奥さん、今日の献立は?」
「魚!」
アバウトすぎるだろ、と思ったけど、あえてそこは言わないでおいた。
携帯の番号を交換した後、ミキは小走りで帰って行った。
そこでミキは言った。
「今日電話するから」
「あいよ!」
さっきまでが嘘のように、普通に話せることにびっくりした。
でもやっぱり、一番いい結果だったんだと思う。