Section10
「すいません…」
「いいのよー、さあ、お姉さんに話してごらん?」
「自分の年齢考えてください…」
「ちょ…それは言わないで…」
そこまできて、なんかさっきよりも俺は落ち着いてた。
話そうと思ってたこともまとまってきて、その俺の記憶の話を受け入れてもらえるかどうか分からなかったけど、話すことにした。
「あの、今幸せですか?」
「唐突ねー、幸せよ、こうきもいるし」
それはよかった。
そう聞いて、今なら話すことができるって確信できたような気がした。
「あの、俺がこれから言うこと、信じなくてもいいです。もし、傷つけたりしたらごめんなさい」
「何よー、改まっちゃって」
そのあと、俺は言い出せなくて10秒ぐらい黙ってた。
さっきお茶飲んだはずなのに、喉がカラカラだった。
だけど、もうここまで来て逃げられるわけもなかった。話すしかなかったんだ。
「あの…俺…こうきです」
「あ…え…、名前こうきって言うんだー」
「…、違うんです。俺の言ってる意味分かりませんか?」
「えっと…ちょっと、…分からないかな?」
「10月5日。これで分かりますか?」
「え?嘘だよ、そんなのありえない…」
ミキは微笑していた、まさかそんなはずはない、って顔で。
「…ミキはいつもそうやって分からないことがあると、困ったように笑うよね」
初めて呼び捨てにした。
笑ってた、微笑してた顔が真剣な顔になったんだ。
「…そんな、…ありえないよ…」
俺は、止まらない。
「でも、そうやって笑ってくれるのを見てるのが好きだった。俺がいつも話してばかりでも、ミキは笑ってくれた」
「…こんなの…こんなの夢だよ!」
「でも、俺がずっと話しているばかりで、ミキもしゃべれよって言うと、ミキは俺の話を聞くのが好きなんだって言ってくれたよね」
そこまで言い終わって、ミキは泣き出してしまった。
周りの人がこっちを見ていた、「なんだなんだ…」って顔で。
でも、気にしない。今言わないとずっといえないような気がしたから。
今も昔もそうだ。俺が話さなくちゃ。
「迷惑かけてごめん。ずっと一緒にいるって言ったのに、守れなくてごめん。クリスマス、楽しみにしてくれてたのにごめん。あと…先に死んでごめん」
「ごぅぎぃぃっ…」
ミキがとうとう大声で泣き出してしまった。
でも、抱きしめてあげることは、できなかった。
抱きしめたら、ダメだと思ったから。