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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
動き出した日々

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Reborn

「本牧さん本牧さん! ボンビーガールに天のお恵みをいただけないでしょうかっ?」


 きょうは大きなトラブルもなく定時でお仕事終了。助役との退社点呼を本牧さんと同時に済ませてそれぞれの更衣室に入る間際、私は彼の背に問い掛けた。


 私の家は貧乏だから、食費はなるべく抑えたいところ。出勤日はだいたい職場の賄いか先輩(主にえりちゃん)にたかって食いしのいでいる。


「いいよ。カリカリとレトルト、どっちがいい?」


「この前までピッチピチのJKだった私を本牧さんはなんだと思ってるんですか」


「ペット、かな?」


「困ったように爽やかな笑みを浮かべても毒舌は誤魔化せませんからね?」


 別に、女として見て欲しいとは思わない。本牧さんに限らず、職場の人たちは私をどこか子ども扱いしている。年齢だけじゃなくて、ジミーズと体育会系が多いこの会社で、私みたいに芯がしっかりしていなくてチャラいガキは異質な存在だからかなんだかよくわからないけど、とにかく子どもっぽい扱いをされている。


 でもバカにされてるとかそういうキャラクターだからこういう扱いをされるんだとか思って落ち込んだり反発するよりも、逆にそれを利用して環境に馴染んだほうが賢い気がしたから、私は私のままでいる。そのほうが気楽っていうのもあるけど。


 着替えを終えて本牧さんといっしょに駅事務室を出るとそのままホームへ上がり、北行ほっこう電車に一区間だけ乗った。勤務先の駅よりこっちの駅周辺のほうが女の子が好きそうなたくさんあるからという本牧さんの提案。


 確かに、勤務先の駅周辺は全国チェーンの居酒屋が並ぶよくある街の雰囲気で、対してお隣、みなとみらい21地区はテレビによく出るお洒落なヨコハマ。


 とりあえずとクイーンズスクエアのレストラン街を歩き、そこにお洒落だけど敷居が高すぎずちょうど良さげな洋食屋があったのでそこへ入った。フロアや厨房から「いらっしゃいませー!」の掛け声があり、本牧さんより若そうなボーイさんが出迎えガラス張りの窓際席に案内してくれた。


 それからまもなくボーイさんは二人分のお冷とメニュー表、そして店頭に設置されていた『本日のおすすめ』が書かれた縦型黒板をドン! とテーブルの隅に置き、私と本牧さんはその勢いに少したじろいだ。


 彼の目は「一応メニュー表も持ってきたけどメインディッシュはここから選べや」と言わんばかりに鋭い笑みを浮かべている。


 こういうお店(シェフの意向に沿うのが暗黙のルールってやつ?)に不慣れな私は本牧さんが頼んだメニュー(何を頼んだかわからない)に続いて、「同じので」と告げた。


 ボーイさんが「かしこまりました」と厨房へ引っ込んだところで、ここからは自由時間。ディナータイムとあって席はほとんど埋まっているものの、大声で騒ぐ客はいない。


 落ち着いたところで、私は何を喋ればいいか戸惑う。


 というのも、本牧さんと二人だけでの勤務は久しぶり。イラストを描く関係でほとんどえりちゃんと同じ日にシフトを入れてもらうから、管理者を除けば他の先輩と接する機会があまりない。それでも若手で2番目に多く接するのが本牧さん。


 本牧さんに初めてマンツーマン指導を担当してもらったときの言葉を、私は一生忘れないと思う。


 いつもヘラヘラしていて一見軽薄な男に見える本牧さんだけど、実は頑固なアニメ原画マンの父よりある意味ずっと厳しかったりする。


 父や多くの先輩は、「1から10まで言わせるな。最初から自分で考えてやれ」とか「仕事は見て盗め」と言うんじゃないかと思う。うちみたいな元公企業のお堅いところなら特に。


 でも、本牧さんは違った。機械の操作とか列車やホームの監視、異常時の列車の止めかたなどなど、1から10まで、覚えるまで同じ質問を何度しても決して怒らなかった。


 けどその代わり、要求してくるものが大きかった。




「基本的なことは何度でも教えるよ。けど予備知識を与えた分、他の人が思いつかないような新しいアイディアをどんどん提案して、先輩たちを越えて行ってね。安全安定輸送を脅かしたりコンプライアンスに抵触しなければ、予備知識を捨ててゼロから始めてもいい」




 凄いことを言う人だと思った。


 小1の頃、原画家の父に「テレビに出せる絵を描け。なんでもいい」と急に言われて描いた絵を「ふざけるな! こんなの人様に見せられるか!」と怒鳴られ、以降そんなことを何度も繰り返してきた私は、てっきり会社に入っても厳しい先輩はそういうことを言うものだと思っていたけれど、ナメていた。


 鉄道は命を預かる仕事だから、安全確保のために1から10まで教えるのは当然。苦労するならその先にしろ。


 本牧さんはそういう要求をしている。しかも私はクリエイターだから、創造的で独創的な提案に尚更期待を寄せている。


 もちろん私だって鉄道員としてはひよっこだし、ベテランみたいなキャリアも、本牧さんや絵里ちゃん、他の若手みたいに高学歴でもない。だけどクリエイターとしてのプライドは持っている。


 最近ちょっと腐ってたけど、この前えりちゃんといっしょに休日を過ごして、スタンプラリーのイラストを完成させて世に出して、学生時代までの、何にも囚われなかった頃の、純粋にいい作品を創りたいというモチベーションを取り戻しつつある。


 きっといま、生まれ変わった私は人生の転機を迎えてるんだ。

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