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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
動き出した日々
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スタンプラリーのポスター掲出

 昼休み後、松田助役に続いて駅長の承認を得たところでさっそく百合丘さんのポスターを掲出する。


 14時過ぎ。周辺に観光スポットが多数あるのに構内にいる旅客は数十人ほど。両隣の駅のほうがそれらへの利便性が高く、更には観光スポットのド真ん中を走るみなとみらい線や路線バスもあり、都会の割に閑散とした当駅。上下線のホームに挟まれた線路は陽に照らされ光を反射し、ビル群で温められた生暖かい風が吹き抜けている。


 ポスターは改札内外のフレームに大判印刷したものを計4枚挿入。それぞれ2枚ずつ並べて掲示し、目立つようにする。僕はスタンプ台設置を予定している改札外の支柱、百合丘さんは改札内通路の壁面を手分けで作業した。構内には文字だらけの営業案内や旅行促進ポスターが多い中、イラストをメインにしたものがあると目を引きやすいだろう。


 うん、お客さま目線のいいイラストだ。


 ポスターを挿入し、数歩後ずさり改めて全体像を俯瞰したとき、そう思った。


 ショートヘアの女の子が目と口を大きく開き顔の横で手を振っている画で、お客さまの視線を捉え、吹き出しがないのに「こんにちは!」と呼びかけているように見える。


 これまで百合丘さんが描いていたイラストはほとんどがわざとらしいポーズを取ったアイドルやモデルのようなポージングで、キャラクターはあさっての方向を見ていた。


 こういったイラストにもファンの間では需要があるというが、僕や松田助役など、美少女キャラクターに関するものを趣味ではなく時流や文化の一つとして捉えている者にとっては‘自己満足で描いたものをインターネットで交流しているファンが絶賛してはいるものの、その他の層にとっては訴求力がなく、多くの人に末永く愛される商材としては厳しい’という見解だった。


 実際、鉄道他社の女性キャラクターはポスターやヘッドマークなどで通行人と目が合うように描かれている場合が多い。


 僕や松田助役はそういったことを敢えて口にはしなかったものの、サブカルチャーを愛する成城さんはコンテンツの将来に危機感を抱いていて、百合丘さんにそれとなく、少しずつ伝えていたように思える。


 百合丘さんも作業を終え、有人改札はお客さまが並んでいるので改札機に職務乗車証(社員用のカード)をタッチして僕の隣に来た。


「あー、緊張するー、そもそもこういうイラストって食わず嫌いが多いからそれだけでプレッシャーだけど、オタクにもウケ悪かったらどうしよう」


「大丈夫。別に卑猥ひわいなイラストではないし、美少女キャラクターに限らず大概のコンテンツには好き嫌いがある。オタクにだって色々あるだろうから、クレームでも筋の通った意見は聞き入れるとして、無茶苦茶なものは気にしないで「好き」って言ってくれる人の声を聞くようにすればいいよ」


「そうとは思うんですけど、やっぱり緊張するんです。本牧さんも何か描いてみてくださいよ。気持ちわかるから。キャラクター描画は難しいから235系なんかどうです?」


「ははは、僕なんか誰にも注目されないような落書きくらいしか描けないよ。それに235系って、嫌がらせ?」


「ふっふっふっ、あのドットをどこまで手描きできるか」


 235系。スマートフォンによく似たシンプルな顔をしている最新型電車。運転席より下の部分は黄緑と黒のドットが無数に散りばめられ、それを描き込むだけでも大判ポスターなら数時間はかかるだろう。


 僕の絵は人並みで、これといった特徴もない。そもそも美術とは無縁の世界で生きてきたから急に何か描けと言われても、キャラクターのような複雑なものどころか電車のようにシンプルで四角いものすら綺麗には描けない。


「うん、無理だね。どうしてもって言うなら新品の白い消しゴムをケースから出した状態で」


「わっ、もはや廃人レベルだ」

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