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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
動き出した日々
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頑張りどき

 衣笠さんと別れた途端、急にひとりの日常が戻ってきた。隣室から聞こえるやたら声の大きいカップルの営みや、1から12まですべて映るテレビのチャンネルがより一層帰ってきたと実感させた。


 明くる日、長いように感じられた余暇も、長めの睡眠を取り横須賀や伊豆など周辺地域を散歩していたら刹那に過ぎた。


 そしてきょう、実に6日ぶりの出勤日を迎えた。日勤だから徹夜シフトほどハードではない。


 出勤したらまず休憩室の調理用テーブルの隅に多めに買った『萩の月』を置き、会った社員一人ひとりに知らせた。


 食事用テーブルをはさみ僕の正面に座る百合丘さんは、革製ソファーに腰をうずめ、赤ちゃんの拳ほどの丸いスポンシにカスタードクリームを詰めた仙台名菓、萩の月をリスのようにもきゅもきゅと頬張っている。


「うーん! やり遂げた後の甘いものは至福ですね!」


「良かったね、なんとか仕上がったんだ」


「リテイク地獄でしたけど、とろろごはんとほうじ茶、たまに3百円の栄養ドリンクでなんとか乗り切りました!」


 よく見ると、百合丘さんの目元にはファンデーションが濃いめに塗ってある。 


 スタンプラリー宣伝用のイラストを〆切2日遅れで仕上げた百合丘さんは技術力と時間を守れない未熟さを痛感しつつも、ようやく降りた肩の荷にそれなりの解放感を抱いているよう。


 百合丘さんの師匠、成城さんは休日で、きょうは僕が彼女に付いている。


 駅にとってスタンプラリーは営業成績を左右する一大イベント。会社が用意したスタンプ台紙兼パンフレットを関東一円の駅で配布し、それを手に取ったお客さまは全9駅中最低6駅のスタンプを集め、メインの駅で景品をもらう。メインの駅に設置されたスタンプは必須だが、当駅含むそれ以外の駅は所在地やハンコに彫られたキャラクターによって集客数が大きく変わる。


 その点、横浜の外れにあるローカル線1本の小さな当駅はドル箱路線が集まるターミナル駅に比べ大変不利だ。ただ会社調べによるとキャラクターは当該のアニメ作品では人気のあるほうだそうで、百合丘さんのポスターがお客さまの気を惹けば多かれ少なかれ集客増は期待できる。結局、松田助役がオーケーしても最終的にはお客さまの判断。一段落はしたものの、提出完了に歓喜してもまだ糠喜びになりる段階だ。


 スタンプラリーの期間中には駅の改装工事が実施され、二つある改札口のうち一つが供用開始日まで閉鎖となるため混雑が予想される。それに伴い衣笠さんのように線路転落が発生するリスクが通常より高まるためいつにも増して緊張を強いられる。更にブライダルトレインの準備にあたり衣笠さんのいるブライダル企業、ルゥルーコーポレーションとの打ち合わせがあり、駅業務が手薄になる。ブライダルトレインは本来ならば内勤の営業担当がメインで担当するが、窓口となった僕と松田助役も動かざるを得ない状況にいるし、個人的には愉しいからぜひ引き続き携わりたい。


 目先のことだけでもこれだけのイレギュラーが発生し、一言でいえば大変だ。


 だが、忙しいときこそチャンス。計画や希望だった案件が現実になろうとしている今こそ、頑張りどきだ。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 本作はほぼ毎回文庫本2ページ程度の文字数でお送りしておりますが、1年以上かかった仙台の章を抜けて、とうとう新章突入です!


 恋愛モノですが鉄道ファンの方、本職の友人にも共感いただいているお話ということで、そちら方面も織り交ぜつつ読みやすく面白い作品づくりを心がけてまいります!

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