おかえり東京
絶えず構内放送が響き渡り、足音や電車の空調装置から出る音などで騒がしい仙台駅の新幹線ホーム。この騒音が旅情を掻き立て、仙台を発つときは淋しさが胸を焦がす。
まもなく鼻の長いときわグリーンの新幹線電車が滑り込んできた。私たちが乗るのはその最後部10号車で、11号車から17号車まではフェラーリのような赤い車両が連結されている。見慣れたいつもの東北新幹線はラメをちりばめたような塗装で、ロボットアニメに合いそうなフォルムをしている。
降りる人を待っている間に、仙台駅新幹線ホーム自慢の荘厳華麗な発車メロディーが流れ始める。畳み掛けるようなピアノ風のイントロ、その流れで胸を打つ電子鍵盤楽器の奏でる叙情的なメロディーは何度聴いても飽きない。本牧さん曰く、きっと日本一ファンの多い発車メロディーとのこと。
「いらっしゃいませ。ご乗車ありがとうございます」
「えっ!? あ、はい! お願いいたします!」
うああ、びっくりしたぁ。
電車のドアが開いたら出入口でアテンダントさんのお出迎え。
本牧さんは私の慌てように驚いて、苦笑しながらアテンダントさんに「お願いいたします」と言って乗車した。
「わっ、すごい部屋……」
デッキと客室を仕切るガラスのない木目調の自動ドアが開くとそこからはレッドカーペットが敷かれていて、楕円形のシェルターで囲われたゆったりとした座席が整列している。左側は一人掛け、右側は二人掛け、縦6列、横3列。一般的な新幹線の客室比で半分以下の面積と座席数。とにかく私なんかにはとても敷居の高いリッチな雰囲気。
豪華な内装に圧巻されキョロキョロと室内を見回しながら指定席券に印字された席の前に立ち、よくある電車の単なる荷棚ではない、航空機同様座席ごとに仕切られたハットラックを開けて本牧さんと二人分の荷物を収納し、カチャッと蓋を閉めた。
からだの小さな私は寝返りが打てそうなくらいゆったりした電動リクライニングシートはボタンがいくつもあってマッサージチェアみたい。
頑丈な縁に囲われた窓からは走り出した電車の景色が移ろい、ビルの谷間を抜けるとすぐに実家の最寄り駅、長町を通過した。
密集する高層マンションや住宅。その背後に聳える山の中に私の実家がある。自ずと家族や近所のクマさんたちの姿が浮かんで、帰りたくなってしまった。
お隣、通路側に座る本牧さんも、ぼんやりと長町の景色を眺めていた。
「あまり口にしないそうですが、お祖父さん、すぐにでも帰って来ていいんだぞって言ってましたよ」
「はい、また近いうちに」
それから私たちはサービスの洋軽食やアップルシードル、食後のアップルパイにカモミールティーと、ゆったりしたシートに身を委ね、東北新幹線らしい飲食を愉しんだ。お酒やお茶類、ソフトドリンクは飲み放題。
本牧さんが隣にいるのもあってか、東京までの1時間半が普段よりとても短く感じられて、慣れない豪華車両にそわそわしながらも洗練されたひとときを過ごした。本当にあっという間の旅だった。
さぁ、鎌倉までもう少し。
仙台とも、これまで訪れたどこの大都市よりも凄まじい人混みの中、私たちは帰って来たと実感しつつ、上京した時は15両編成にびっくりしたけれど今ではすっかりおなじみ東海道線のホームを目指した。




