杜の都を見渡しながら
本牧さんが、灼熱の車両基地でも平気な顔をしてた本牧さんがバテてる……!!
5百ミリリットルのスポーツドリンクを一気に飲み干した!!
その甲斐あってか、彼の顔色は徐々に回復し、呼吸も整ってきた。
確かにこの神社、崖の上にあるから歩いて来るにはなかなかハード。
けどもう数十歩、最後の勾配を上がればそこは___。
◇◇◇
「着きましたよ!」
スポーツドリンクの力は偉大だ。飲んですぐからだに染み渡り、脈が落ち着いてきた。思えば近ごろ長時間外に出る機会がなく、きのう訪問した車両基地は平坦な場所だから息切れはしなかった。
長かった勾配が終わり、ここでようやくゴールのようだ。
「おお、これはすごい」
驚いた。なんて神秘的な場所だろう。
自販機のある駐車場から最後の勾配を上がった先にある神社の本殿。しかしそれより真っ先に視界へ飛び込んでくるのは、生い茂る木々の向こうに聳える仙台の高層ビル群。
その左側には蔵王連山、右側には住宅地を挟んでずっと向こうに雄大な太平洋が広がっている。あの島は観光スポットとして有名な松島だろう。
仙台は正に海、街、山が一体となった街。それを実感する景色がいま、僕の眼下に横たわっている。
見下ろせば、茂みの先に広瀬川。これもまた、仙台を代表するものの一つだ。
「ここ、すごいでしょ?」
「うん」
それ以上、言葉が出なかった。
景色を背に微笑みかける彼女の横には、太く寸胴な幹から3本、新たな木が分岐している。
樹木の前に立つ丸い看板によるとそれは『エドヒガン』、つまり桜の一種で、樹齢約350年という。
百万都市の片隅にある神聖な土地。蝉時雨に包まれていながらも静けさが支配する二律背反。撫でるような風は木々の葉や彼女の髪を揺らす。
雲は流れ、陽が差し込んできた。
左に目を遣ると、太くひときわ背の高い杉の木が。御神木だ。
曇ったり晴れたりを繰り返す空の下、風は少しひんやりしてきた。雨が降る合図かもしれないが、すぐ下の街とは隔絶されたこの空間には、なぜか穏やかな時間が流れている。
彼女もそれが心地よいのか、髪や衣類をなびかせたまま、この場から動こうとしない。
「ねぇ本牧さん、仙台がなんでセンダイっていうか知ってますか?」
「確か、伊達政宗が中国の詩の冒頭を採って洛陽みたいな華やかな街にしたいと願いを込めたとか……」
「仙臺初見五城楼ですね! 仙人が見下ろす台、今はそうなのですが、この字に改められる前は‘千代 《ちよ》’と書いて、『千代先の未来にも、ずっと平和な街でありますように』と願いが込められていたという説があるんです。その後、戦争や震災など、残念ながら悲しいことは起きてしまいますし、私個人にも悲しいこと、つらいことはありました。それでもこの街に育った人、他所から訪れた人、この地に関わった人たちが、仙台はいいところだなって思ってもらえたらと、そんな風に思うんです」
「そうなん、ですか」
知らなかった。さすが地元育ちといったところだろうか。
「ねぇ、あの……」
「はい?」
物憂げな彼女は、なにか言いたげだ。
◇◇◇
「ううん、なんでも、ない」
そう言えば、察してくれるかな? 私が云いたいこと___。
お読みいただき誠にありがとうございます!
今週の日曜日、今回のお話の舞台になっている場所へ取材旅行に行ってまいりました。
昨年にも一度訪れましたが、改めて、息切れする急勾配だなと(笑)
でもそれを越えた先の景色は___。
とても落ち着いた雰囲気の静かな場所で、また訪れたいなと思います。