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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅7
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伝えたいのに、伝えられない

 良い場所を思いついたという衣笠さんに言われるまま路線バスに乗り、先ほどマイクロバスで通過したばかりの大通りから分岐した片側一車線の道路を少し進んだ停留所で下車した。


 少し北鎌倉と雰囲気の似た山を切り開いた細い道路は緩やかな上り坂になっていて、沿道には一般住宅やラーメン店などがある。


 また、付近には全国的にも名の知れた一級河川、広瀬川ひろせがわが流れている。


 押しボタン式信号の横断歩道を渡り、僕らは裏道に入った。途端、斜面がきつくなり、セミたちのコンサート会場が近付いた。


 影はなく太陽が燦々《さんさん》と照りつけうだるような暑さの中、しばらくのあいだ少々きつめの坂を上ると、なぜか道路上に大きな鳥居が現れて、それをくぐった。神社の入り口だ。


「着きました!」


「はぁ、はぁ、つかれた……」


 バスを降りて坂を上ると一言でいえば簡単だが、これがなかなか堪える。思わず目の前にあった自販機でスポーツドリンクを買い足し、一気に飲み干した。水は常に持ち歩いているが、それでは足りないし水とスポーツドリンクでは浸透圧が違う。


 行動を共にしている田舎娘にもそれを買い与えたが、彼女は半分まで飲んでキャップを閉めた。


「あの、だいじょぶですか?」


「な、なんとか……」


 神社ということで、僕と同じく自らの寿命を察知している衣笠さんのお祖父さまが少しでも長生きできるよう神様に祈願して、御守を購入しようと思う。


 しかし困った。この先そう長くないと知ってしまった以上、衣笠さんにはなるべく頻繁に帰省して、お祖父さまとの思い出をたくさんつくってほしい。だがどうやって促そうか。横浜市内から仙台市内までの交通費は鉄道の場合、土日限定の格安きっぷを使用しても新幹線利用で往復約1万5千円、普通列車のみ利用ならば8千7百円程度と、決して安くない。鉄道職員である僕が点数稼ぎにときっぷをプレゼントするにも高すぎる(交通費を出しても構わないが何らかの記念日でもない限り不自然に思われること必至)。


 単純に考えれば、これまでずっとともに暮らしてきた家族が地元を離れている間に亡くなってしまうのはとても悲しく、死期を知っているのならば高頻度で会い、最期を見届けたいものだ。


 だからといって第三者の僕が伝えるべきことではないわけで。


 昨夜からその戸惑いが頭から離れない。


 年齢を重ねるごとに死別わかれは増え、僕にももっとたくさん会っておけば良かった、話せば良かったという人は何人かいる。当然それはもう叶わず、まして今回の場合は家族だ。


 そう思い悩んでいるとき、生ぬるい風が吹き抜けて木々を揺らし、葉がこすれた。


 空を仰ぐと少しばかり雨雲が流れ、太陽が見え隠れしている。


 まるで僕の感情を表しているようだ。


 伝えたいのに、伝えられない。そんなもどかしさに支配されている。


「どうしました? なんだか虚ろな表情かおして。もしかして熱中症?」


「いえ、大丈夫ですよ。ドリンク飲んだら落ち着いてきました。さて、参拝しましょうか」

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